「悪しき魔人どもめかち割ってくれる!」

「イヌは俺かよ……」


「リドリー、どう?」


「森の素人だ。足跡を見つけた。二本足、五本の指じゃない。こいつぁ靴だな。追跡できそうだ」


 狩人のおっさんに仕込まれた経験だな。


 足跡を誤魔化すオオガマイタチよりも追うのはカンタンだぞ。あいつら隠れるプロフェッショナルだ。何度か罠に嵌められたこともある。アホなのに賢いのだ。


「リドリーてさ──」


「なんだスカーレット。トイレなら深く穴を掘れ。うんこは風下に遠くまで届く」


「──取り敢えずなんでもやれるね」


「素人くらいの能力はな。料理も掃除も解体も狩猟も家や橋とか、ちょっとずつはできるな」


「起用だね、リドリー。誰もできないとき、リドリーがいれば取り敢えずができる。それってさ」


「すごーいよね」


 と、俺とスカーレットの間に、ルーネが割りこんでくる。少し彼女の性格がわかってきたな。


 ネコは意外と寂しがり屋なもんだ。


「リューリア! 追跡の件に伝書竜を飛ばすことを提案する。筆マメでなくちゃな」


「……ルーネ、伝書竜を頼む。内容は任せる」


「わかったよ。騎士イレーヌに連絡する」


「伝書竜には、ちゃんと、正しくな」


 と、俺はルーネに、発見したものを教えた。


 ルーネが通信筒を足に付けた伝書竜を放竜した。翼長がタカほどの小さな竜が長い指の間に皮膜を張って飛んでいく。


「伝書竜の残りは?」


 と、俺は、腰に籠をぶら下げるルーネに訊いた。


「一つだけ。この子たちは重いから」


「わかった。リューリアさん。追跡続けるか、止めるか、どうする?」


「続行するだろフツー」


「了解、リューリアさん」


 静かにな、と、俺は森の奥へと進んだ。


 足跡の形はくっきりとしていた。


 ほとんど崩れていない新鮮な足跡だ。


 パターンは一つなのでたぶん一人だ。


 小さいな。子供か? いや、体重と足の大きさ的に女か。武装しているか抜きにしても足跡の沈みこみが浅い。


「近いぞ。気を抜くなよ」


 足跡の先にあったのは御殿だ。


「あれは?」


 と、ルーネが訊いてきた。


「川を遡上してくる魚の漁のときに使うんだ。何万匹て産卵に押し寄せてきて、埋め尽くすんだが、村じゃそれを何日もかけて漁して、近場で次々加工する」


 と、俺は説明を続けながら見渡した。


「ちょっとした城みたいな工場だな。塩引きして干すんだよ。稼げるし豪勢に作ったから御殿なんて呼ばれているが……この時期は使わない」


 俺はリューリアに目を合わせた。


「どうする? リューリアさん?」


「ど、どうする、て、なんだよ」


 魔人の本丸の可能性がある。


 リューリアは少し緊張しているようだ。


 御殿はちょっとした砦なみだしな……。


「今すぐに御殿に突入する。それか、御殿の監視だけにしておく。二つ、選択肢あるだろ?」


 個人的には突入したくない。


 びっくり箱は開けたくない派なのだ。


「ここで臆するのは『勇者じゃない』だろ」


 と、リューリアは強く言いきった。


 突入かァ……俺の嫌なほうだな……。


 何がいるかわからない。


 そういえば前には、御殿に化けタヌキがいた。ダルマみたいな、一軒家よりもデカいタヌキがだ。


 魔人がいなかったとしても安心はできない。


 魔人ならもっと危険だ。


「……隣村が近いからな」


 御殿に、殺すに殺せなかった病人を捨てていく人間だっているもんだ。


「リューリアさん。ルーネにもう一度、伝書竜をあげさせるのどうだろうか。最後の竜だが重大な情報だ」


 と俺はリューリアに提案した。


 そうなって、伝書竜が飛んだ。


 村から騎士が来るには、グリフォンに乗ってなら一〇分とかからない。ウマよりも速いしな。


「行こう。先頭はぼく」


「御殿の案内があるから次は俺か」


「前にも後ろにも弓が通るよう私」


「じゃ最後は私になるっぽいかな」


 リューリア。


 俺。


 ルーネ。


 スカーレット。


 この順番で御殿に足を踏み入れた。

 

 窓は閉め切られて中は暗い。


 そして臭う。


 カビや水の臭いとも違う。


 俺はリューリアの肩に片手を載せたまま、空いた手にラスピストルを、リューリア越しに構えて奥を見る。


 悪いがな、主人公には盾になってもらう。


 リューリア、まったく振り返らないしな。


 御殿で迷子になっちまうぞ。


 ちなみに後ろのルーネはほぼくっついてる。


 ルーネの吐息で耳がくすぐったいんだが!?


 足音を消してゆっくり、奥へと進んだ。


 御殿の隙間から光の筋がまばらに差す。


 床板が鈍く軋む。


 腐っているのか?


 嫌に響くじゃあないの。

 

「ダイドコロだ。柱の無い広い空間。気をつけろ、相当に大きい生き物だって走れるぞ。肉眼じゃほとんど奥が見えん」


「……分かった」


 と、リューリアは言ってくれた。


 緊張しているのか?


 ネコ目とニンジンで、夜は安心になるぞ。


 あとでリューリアにも教えてやろうかな。


 風向きが変わった。


 よどんだ空気が隙間風でかすかに動く。


 イヌ鼻のリューリアは何か嗅いだかもだ。


 リューリアは直後に俺を後ろへ突き飛ばす。


 だが俺はリューリアの肩を掴んでいた。


 俺はリューリアを引っ張り、後ろのスカーレットとルーネにぶつかっちまった!!


 クソッ。


 倒れてる場合じゃあない!!


 いきなり動くんじゃないよ!


 報告をあげろ報告!


 俺はラスピストルを、誰かの胸の上に倒れたまま乱射した。粒子弾が赤い軌跡を刻み、御殿を蜂の巣にする。


 陽が入ってきた。


 鋭い牙、鋭い爪。


 禿げた頭に硬質な肌。


 眼孔は深く窪んでいて眼球があるかさえわからん。岩でできた、干からびたゾンビという印象の異形の化物だった。


 ラスピストルを放つ。


 粒子弾は化け物に直撃した。


 だが化け物は水鉄砲でも受けたかのように、肌に当たった粒子弾が枯葉を揉んだかのように小さく散った。


「嘘だろ、おい」


 嘘じゃない俺、現実だ!


 悪いことは続くもんだ。


 二階と繋がる階段が軋んだ。


「二階には何が?」


 と、ルーネが弓を引きながら訊く。


「塩引きの魚。だけど今は使ってない」


 魚が歩いてきたわけじゃあなかった。


「敵だ! お互いの背中を守りつつ耐えろ!」


 粒子弾の直撃を弾きながら化け物どもが来た。


 連射しても意味がねぇ。


 グラディウスを抜いた。


「入口が!」


 と、スカーレットは盾を背負い、両手でウォーハンマーを構える。


 入口にはさらに新手が塞いでいる。


 俺たちは御殿の中で包囲されていた。


 俺たちは背中合わせでお互いを守る。


「よく見えないが、一〇人以上はいるな」


 と、リューリアのボアスピアの先端が揺れる。


 一触即発だ。


 だが、まだ衝突していない。


 なぜだ?


 なぜ、まだ襲われていない?


「リドリーちゃん!」


 と、心のマリアナ姫がヒントをくれた。


「相手は何者? 毛むくじゃらだとか、足がたくさんあるだとか、それとも歩く死体とか特徴は?」


「そうか、マリアナ姫! 少し異形化しているが人間だ。魔物じゃない。だがここに潜んでいる理由はなんだ。それに昨夜の魔人の足跡を追跡してここに……魔人か。彼女らは『初期症状を過ぎたばかりの魔人』だ!」


 俺が気づいたとき、心のマリアナ姫は満面の笑みを咲かせて消えていく。


「こいつら──魔人だぞ!」


 と、俺が言ったとき、リューリアのパーティーに少なからぬ衝撃が走るのが伝わった。


 俺だってこんなの経験したくなかったよ。


「リューリア、どうする!?」


 と、俺は自分の震えでグラディウスがブレるのを見せられながら、隣にいるリューリアに指示をうながした。


「逃げるか、戦うか、どっちにしろ、どう動く!」


「え、あ、そんなの、そんなのわからない!」


「わからないじゃ困るリューリア! リューリアの指揮で命が……いや……逃げよう。全速力で逃げればなんとかなるかもだ。だが決めるのはリューリアだ!」


 数の差だ勝ち目はねぇ。


 もうとんずらしようぜ。


 出口は封印されてない。


 死ぬ気で突っ込めば……。


「ダメだ」


 とリューリアが言う。


 俺はため息を隠した。


 これ戦わなくちゃだ。


 負けイベントで散るのは、モブの俺じゃん。


「わかった。リューリア、戦うんだな!?」


「そうだ! ルーネ、スカーレット! 魔人を止めなければ村の人たちに危害がおよぶ! ここで討つ! ぼくらこそ魔人を討つ勇者であることを今示せ!」


 と、リューリアが宣言した。


 リューリアのボアスピアが光に輝く。


 魔人らがあふれる光にうめきひるむ。


「あらあら──」


 魔人を分けて“それ”があらわれた。


 他の魔人よりもずっと小柄だった。


 おそらくは追跡した足跡の正体だ。

 

「──昨夜ぶりじゃない」


 そして、昨夜、村の勇者隊を襲った魔人だ。


 何も彫られていない仮面のせいで顔はわからない。だが、長く、赤い髪は、闇のなかにおいて燃え盛る鮮烈さをはなっていた。


「おまえがこの魔人どものリーダーか」


「いかにも、そうだけど、どうする?」


 リューリアと魔人が話しあいを始めた。


 いいぞ、騎士団到着まで引き伸ばせ!


 と、それまでは膠着していてくれと祈る。


「スカーレット、ルーネ、こっちからはまだ仕掛けるんじゃないぞ。魔人は『待て』をしてくれている。適当に、な。頼むぞ」


「魔人? 本当に魔人なの、リドリー。私には……『人間』に見える!」


 と、スカーレットは明らかに動揺する声だ。


 人間だ。


 魔人よりの人間か。


 ギルヴァンでは魔人は元人間だ。

 

 元人間という事実はおおやけではない。


 もし魔人を治療だとか、人間だとか言う人間がいるのだとすれば『征伐』されるだろうさ。


 スカーレットやルーネには言えないな。


「魔人だ! 気をしっかりもて!」


 主人公リューリアは……話しあいに夢中!


 魔人が包囲しているが一〇人どころではないな。どこから流れついんだ……捨てるほど病人はどこでもいるか……。


「スカーレット! ルーネを頼む。女の子同士で支えあっていてくれよ。ルーネ! スカーレットを頼んだぞ! 二人で協力するんだ。二人で、リューリアを守ってやれ」


 スカーレットはウォーハンマーを強く握る音が聞こえた。恐怖のなかで待つより、無謀でも突撃するほうが気楽なものだ。


 俺は後ろを向かず手を伸ばす。


 俺の手は背後のスカーレットを握った。


「俺がついてる! 任せとけ、いざってときには数人くらい、外に押し出せるさ」


「ちょっと! さっき、どさくさ私の世界で一番のお尻触ったでしょ。あとできみのお尻を揉ませてもらうから絶対に」


 と、ルーネに言われてしまった。


 俺の尻でよければ幾らでも貸すさ。


 今はなんとかがんばろうじゃない。


 大丈夫、スカーレットとルーネなら大丈夫。


 ギルヴァンは高難易度でないと早々死なん。


 きっと……難易度はキッズとかルーキーだ。


 まあそうだとしたら俺がやばいんだけどな。


「やっぱりな。だが太腿のが触りたかった」


 ギルヴァンはターン制SRPGだ。


 マップ上にユニットを動かして、ターン制で手番が来る。チェスや将棋みたいなボードゲームに近い。


 そこにはZOCという概念がある。


 ゾーンオブコントロールの頭文字だが、ユニット周囲にはZOCの効果で動きにくいとか制限が入るルールくらいの効果だ。


 なんども『捨て駒戦術』をやったな。


 それと同じだ。


 モブを足止めに突撃させてZOCで敵ユニットを停止、行動制限したあと、思い入れのあるユニークキャラを死地から逃すのだ。


 それが効率の良いプレーのときがある。


 今なら、捨てるべきユニットは俺だな。


 まいるよ、本当に、だが出来ることだ。


 リューリア、ルーネ、それにスカーレットは生かしたい。二度目の俺とは違うしな。俺はボーナスタイムだ。死んで良い。弱いしな。


「リドリー?」


 と、スカーレットが言う。


 俺の足は震えていた。


 なさけなくも小便を漏らして濡れた。


 小便は足をつたって、床に広がった。


 これからの戦いで死ぬかもしれない、じゃない、これからの戦いで死ねと自分に暗示をかけようとしてどうなろうが死ぬことに恐怖した。


 死ぬしかない。俺だけが?


 嫌だみんな一緒に……言っちゃダメだろうが!


 それだけは言っちゃあならねェよ。


 心のなかのマリアナ姫が渋い顔だ。


 注意やアドバイスとかはなかった。


 正しい選択というわけじゃあないの。


「魔人が元人間だって!?」


 と、リューリアが叫んでいた。


「そうだ。魔人は、魔物が進化したわけじゃない。私たちは人間で、まだ理性を残している。そして治療法を探している! 頼む。私たちを殺さないでくれ!!」


 と、赤長髪の魔人が言う。


 魔人は──人間と暴露だ。


 おい、おいおい!?


 冗談じゃない、なんのイベントだ!


 主人公リューリアの様子はどうだ!


 チクショウ!! 動揺をしている!


「リューリア! 相手は魔人だ!!」


 と、俺はリューリアに叫ぶ。


 ギルヴァンで魔人は人間だと知っている。


 だが今、この場では、衝撃的すぎるのだ。


 リューリアだけでなくスカーレットもか。


 スカーレットは魔人が人間だと聞き、今、敵対しているのが人間としか見えていないかのように動揺していた。人間でも敵だ!


 リューリアとスカーレットはショックだ。


 ルーネはどうだ? ルーネは──


「人間?」


──弓を放った。


 複雑に製造された、骨や木を組み合わせて、張り合わせて作られた強力な反発力を溜める合成弓から鋼鉄の矢尻、槍の刃みたいな重矢が飛ぶ。


 それは火花をあげて魔人を貫く!


 魔人がゆっくり前のめり倒れた。


「なるほどね。人間だ」


 その時だった。


 ダイドコロの壁を貫通した光が荒れ狂った。


 温かな陽の光などではない破壊的な陽光だ。


 魔法だった。


「ぎゃァ!」


「ぐあッ!」


 魔人が臓器をぶちまけながら薙ぎ倒される。


「くッ、騎士団か! 間の悪い!!」


 と、赤髪長髪の魔人は引き下がる。


「待て!」と、リューリアが止めるが、壁が崩れたことで進めなくなっていた。


「征伐! 征伐! 征伐!」


 壁の外からあらわれたのは巨大な鎧だ。


 着膨れというにはあまりにも巨大な鎧であり、それゆえ人間と同じ程度でしかない頭部が異様な小ささでアンバランスになっている。


 騎士団のウォーキャスターだ。


 巨大人よりなお巨大な戦争機械が来だ。


「悪しき魔人どもめかち割ってくれる!」


 ウォーキャスター腕部のドリルを唸らせ、魔人でさえ羽虫のようにミンチに変え肉片と血潮を撒き散らす。ドリルではないもう片腕からは、弾性限界を超えて射出される金属ビームで薙ぎ払う。


 魔法だ。


「時間を稼げるかッ!!


 人外の姿をした魔人が天井を破壊して次々に落ちてくる。下半身がタコだとか、背中に首と背骨が剥がされたようなのだとか、クモだとか、他の生物の形が出ている……怪物の姿をした魔人らだ。


 ウォーキャスターの一団が駆ける。


 そして御殿内で両勢力は激突した。


 ウォーキャスターと魔人の乱闘だ。


 全てが終わり俺はまだ生きていた。


 そこに漂うのは、荒々しい息遣い。


 誰もが、返り血を浴びた壮絶な姿だった。


 水性インクでも頭からかぶったみてぇに。


 大破したウォーキャスター。


 肉片をぶちまけている魔人。


「……」


 俺は窓を開けた。


 吹きこむ風と光が、ダイドコロでの乱闘の結果を新鮮なまま見せてくる。


 御殿の上の階と天井まで抜けていた。


 傾いた太陽が天頂から随分落ちていた。


「スカーレット、大丈夫か?」


 と、俺は訊いた。


「ルーネ、ちゃんと生きてるな」


 と、俺は訊いた。


「リューリア……」


 と、俺は訊いた。


「今は一人にしてくれ……頼む」


「知らねぇよお前の都合だろ」


 と、俺は三人とも御殿の外に出す。


 まぶしいぜ……今日は一段とな。


 血を被っていた三人の手のせいで俺もベタベタだ。酷い顔だな、お前ら。暗闇のなかでの乱闘を生き延びて放心しているが真っ赤だぞ。


 まったく。


 俺は手拭いでみんなの血を拭き取った。


 何度も川で手拭いを洗いなおし絞った。


「村に帰ったら風呂を用意してやる。川で体なんて洗うなよ? チンコに寄生魚が入って肉を食べられちまうからな」


「こわッ!」


 と、ルーネは股を隠す。


 ルーネは意外と話を合わせてくれるな。


 あんまり、ルーネの性格とは思えない。


 ルーネはそういう気遣いがあるのだろう。


 そういう意味ではスカーレットは素直だな。


 スカーレットはありのままを受け入れて、ありのままに表現する。不器用なのかもだ。


 で、主人公リューリアは……。


 俺はリューリアの顔を綺麗にする。


「……なんでお前は平気なんだよ」


 と、リューリアに言われてしまった。


 リューリアはちょいめんどな性格だ。


 人間に慣れていない野猫や野犬だな。


 リューリアとは気長に付き合っていこう。


「飯食わせてやる。重い尻をあげろ勇者ども」


 と、俺は『勇者たち』を万歳させるように立たせた。すっかり気疲れしているが、戦いが終わったら帰らなければならないもんだ。


「おーい、誰かグリフォンを貸して──」


 と、俺は騎士団にレンタルグリフォンした。


 一匹くらい借りれば三人なんとか載るだろ。


「──や、やァ、レギーナさま」


 そんなこんなで。


 リューリア班をグリフォンのレギーナさま──主人のはずのイレーヌどこにいるんだ?──にお願いして一足先に村に帰したりしたあと、御殿での後始末に軽く参加した。


 騎士団の動きが早すぎたのが気になる。


 イレーヌが直卒したわけではなさそう。


 それにウォーキャスターがいるとは知らなかった。


「坑道捜索をこのトンネルでかわしていたか」


「OSETの技術じゃなかったな。お前の負け」


「鉱山そのものがOSETて話だがな。そこじゃ魔人が生まれるとかで、うちのオカンがのめりこんでる」


「OSET絡みはそんなのばかりだな」


「怪しい光でピカッで魔人なんておとぎ話だ」


「違いない。ウォーキャスター、動かすぞ」


「磁性流体への魔力量に気をつけろよ!!」


 と、騎士に感謝を言って回っていたら聞こえた。


 坑道捜索。


 OSET。


 ウォーキャスター。


 鉱山が目的で、魔人の発生源。


 魔人は悪性新生物キャンサーの影響にあるとギルヴァンで明かされているが、これはもう……。


「ん?」


 御殿の床が割れていた。


 そこを覗きこめば穴だ。


「地下通路……穴を掘って繋いだわけか……」


 グラディウスでこじ開ける。


 もう闇は払われていた。


 トンネルはよく見えた。


 そこには──まだ、生きている人間がいた。


 うめき、苦しみ、懇願する……病人だった。


「──魔人だ」

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