葉のさざ波
ある日の朝
凄いことが起きる事も、奇跡を体験することも望まなくなっていた。
いまここに、あることすべてが、ぜんであり、完璧であることを知ってしまったから。
太陽の日が、全ての葉を照らし、雨の水の恵みが降り注ぎ、大地のエネルギーが私に活力を与え、山から這うように流れ行く風が葉を揺らし。
望みは多いけれど、、。
それが同時に与えられることも、それを同時に受けとることも、今の私は望まなくなっていた。
この世に芽を出し始めた頃は、隣の葉を見ては、葉の大きさに嫉妬し、上の葉の色の濃さに憧れた。新しく生まれ出たばかりの葉の若々しさに羨ましくも思い、近くの枝に鳥がとまり、美しい鳴き声を響き渡らせるのが、どうして私の生まれ出た枝ではないのかと、羨んだ。
私を下から見上げる鹿には、私の気持ちはなんであるか何て、分かるまい。
ひとつの木の幹の枝の沢山ある葉の内の1枚なのだから。
鳥を望めば、「あるだろ。」と、言われ。
太陽の日の光を憧れれば、「得ているじゃないか。」と、言われる。
雨粒が私にはかからないと嘆けば、「何を言っているのやらと」呆れられる。
「そうじゃない。私はここだ。」
私は、、。私は自分の存在する位置でさえ、まともに言い表せない。
多くの中の1つでしかないのだから。
私には、私が分かる。私には分かるのだ。
私は私だと。
太陽と言えば、1つしかない。
惑星と言えば、もう既にぼやけてしまう。
銀河の中にある惑星の1つで、その中の地球の。。。
宇宙の中にある天の川銀河の中にある惑星の1つで。
私を表そうとしても、私を認識してくれるのは、私の葉を産み出してくれた枝であり、その枝が生まれた幹で、私をいつも個であると認識して、認めてくれるのは、目と鼻の先に在る葉や枝や蕾や花であったりする。
私はなぜ生まれてきたのか?
私はどう生きたら良い?
私は何をする為に生まれてきた?
春に芽吹いた葉は、新緑の時期に喜び楽しみ、夏の日差しを受けて、悩みと言う新しい体験をした。自分こそが立派な葉に成りたいと。
夏の終わりに差し掛かり、暑さが涼しさに代わり、涼しさが肌寒さに代わり、一気に凍えるような寒さを向かえると、周りの葉は、色づき始めた。我先にと、燃えるような紅を添える。
焦りと共に、我が一生を振り返って、自分の生きざまを恥じた。
私は何もしていない。
何もことを成していない。
私は私は、、。
横風が私の隣を流れた。
もう、私もいつかは枝から落ちて、木の葉ではなくなると。
少し悲しくなった。
あの葉は私の目で、一番大きな葉で。
あの葉は私の知っている葉の中で、一番美しく色付いた。
私は、私は、、。と。
空が私を見て、「良いではないか。」と、言った。
雲が「それで何が不満だ。」と、首をかしげた。
私が私を認められる様になって来たのは、
他の葉も、私とさほど変わることのない。
同じような葉だったと、知ったときであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます