第2話 ダメテラスハウス

「コラーーーーッ!!冥界の神々が雁首揃えて、私の縄張りで何してるのよ!!!」


鳥居の上にご降臨なされたのは、日本の最高神である天照あまてらす様だった。

長い黒髪に白と赤を基調とした巫女服、小学生みたいな見た目だが、ちょっと太めの眉毛に意志の強さを感じる。オタク大国日本が誇る幼女神である。

その幼女がピカピカ輝いて激おこ状態だ、眩しくてさっきから目が痛い。とっさにドレッドヘアのイシュタムさんの後ろに隠れてるヘルちゃんの後ろにお邪魔する。


「ちょ、近い……」


ヘルちゃんに戸惑った目線を向けられるが、俺は人間なので眩しいものは眩しいので勘弁して欲しい。



「私のシマを荒そうってんなら、相手するぞオウ!」


天照様それじゃあヤクザの台詞です、相変わらず柄が悪いなぁ、幼女のくせに凄く偉そう、まぁ日本の最高神だから偉いんだけど。

天照さまは巫女服と長い黒髪を揺らしながらプンプンと手を振り上げる。普通にしてれば可愛いんだけどなあの神様。


「イザナミ母様があんた達につられて黄泉の国から出て来ちゃったらどうすんのよ!!もう、もう、もう!」


あ、やっぱり心配なのはそこなんだ。言われてみれば3人とも冥界の神なんだ?

考え事をしていると、金髪JKの吸血鬼オリジンちゃんがズイッと前に出る、もう呼び方オリジンちゃんでいいよね、似合ってるし。


「ちょっと、天照さん。わざわざ挨拶に来た私達になんて言い草ですの!」


「うげーーっ、オ、オリジン!!!!」


うげーーっって天照さま、神様がうげーーっはないでしょう、女の子的にも。


「な、な、なんでアンタが日本にいるのよ!一体何するつもりなのよ!事と次第によっちゃこっちもメンツ揃えて戦争よ!」


「何って、日本観光ですわ。だからわざわざ神社まで貴女に挨拶にきたのですわ。失礼しちゃいますわ」


オリジンちゃんが私怒ってますアピールで頬を膨らます、ちょっと可愛い。


「か、観光?」


「そうですわ、長崎でチャンポンを食べて、大阪でたこ焼きを食べて、名古屋で台湾ラーメンを食べて、今は長野にお蕎麦を食べに来たんですわ」


ただの食べ歩きだ、それ。いいな長崎チャンポン、俺も食いて〜あの太麺のモチモチ感がいいんだよね。


「い、いつから日本に居たのよ!そのルートなら出雲大社素通りしてるじゃないの、顔ぐらい出しなさいよ」


「わ、忘れていた訳では、あ、ありませんわ」


日本の真ん中まで来て思い出したな、オリジンちゃんの金色の瞳がソワソワと泳ぐ、あれは忘れてたんだな。天照さまはジト目である。


「とにかく、天照さんに迷惑かけるようなことはいたしませんわ」


「本当に〜?神様襲わない?」


はい〜っ、神様を襲う?オリジンちゃんが。隣のアヌビスちゃんに説明を求める視線を送る。


「ん、ご主人様は神様の血が大好物なのです。人間のような下等な血は飲まない美食家グルメなのです」


なんじゃそりゃ、吸血鬼って神様より強いのか。美食家のわりに食べ歩いた物が庶民的だ。


「ふ、ご主人様は特別なのです。オンリーワンであり、ナンバーワンなのです。だからこそ始まりの吸血鬼なのです」


アヌビスちゃんが、ふんすと拳を握り力説する。なるほど神様の血を吸う吸血鬼か、それは天照さんが慌てて飛んでくる訳だ。




「もう、神様の血なんか300年は飲んでませんわ。1回飲めば1000年はもちますもの」


わー、本当に飲むんだ、神様って栄養価高そうだもんな、神通力って栄養ドリンク何本分あるんだろう。お、天照様の輝きが少し弱まってきた、落ち着いてきたかな、良し、今が逃げ時。

ヘルちゃんとイシュタムさんの前に出て天照様に話しかける。



「あの〜。天照様。俺まだ仕事が残ってるんで、後は皆さんでお話ししてもらえますか?」


「ん、ああ、ここって学の神社かぁ。久しぶりね、7年ぶり位?元気してた」


今気づいたんかい!


「ええ、おかげさまで。弟さんはお元気ですか」


「うん、元気元気。相変わらす脳筋バカでこまっちゃう」




「へ〜、ガクさんは天照さんと仲がよろしいのですね」


オリジンちゃんがちょっと興味深げに俺に視線を向けた。

神職やってて浄階なんて階位もらっていると、なにかと国の大きな神事にお呼ばれするのだ。その時に天照様とは仲良くなってしまった。

大事な事なのでもう一度、仲良くなってしまった。色々無理難題を押し付けられるほどに。



「そうだ!!って何帰ろうとしてるのよ。学あんた、こいつらが日本にいる間は監視として一緒に行動なさい。悪さしたら遠慮なく叱っていいから」


「ただの人間に神様の監視なんか出来るわけないでしょ!まして叱るなんて自殺行為じゃん!!」


「ただの人間は、私にそんなタメ口きけないでしょ。あんた程私達をはっきり見たり、声を聴いたり出来る奴はめったにいないんだからちょっとぐらい頑張りなさい」



「大丈夫、死んでも生きかえらせる・・・・」ボソッ


ヘルちゃん?君が死者の国の支配者で蘇生術が使えたとしても、そもそも俺は死者の国に行きたくないのだよ、分かるかな、分かんねぇだろうな、不死身の神様だもんな。


「ミイラにならしてやるぞ」


こら、犬耳娘。なに死ぬ事前提で話してんだ。玉ねぎ食わすぞ。


オリジンちゃんがポンと手を打つ。


「あらあら、天照さん。ご丁寧にガイドさんを付けてくださるの。それは凄くいい考えですわね」


「でしょ、それじゃ決まりね。 恩にかんじなさいよ、それじゃ私は出雲に戻るね〜。バイバイ、用事が済んだらとっとと帰れよ〜」


「ちょ、天照様。待ってー!」




ポヒュと気の抜けた音を立てて天照様は消えてしまった。伸ばした手が虚しく空を掴む、残された俺達の間に沈黙が生まれる。

うわ〜マジか。JK吸血鬼のオリジンちゃんは人間の血は吸わないからいいとして、残りの冥王共はやばい気がする、神様は人間の常識が通じない。動物園の熊はじゃれてるつもりでも飼育員が大怪我するような事はあるんだぞ、そんなことが普通に自分に起きる気がする。



「ではガクさん、この神社にしばらくご厄介になりますわね」


「は、はい。ごゆっくり」


いかにも、良い事があったとばかりに笑顔で話してくるオリジンちゃん。くぅ〜やっぱり可愛いなこの娘、まぁ、こんな美少女としばらく過ごすせると思えば役得か、中身は神殺しの吸血鬼だけど。


あ、お客様用の布団そんなに数あったかな?

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