俺が出会った吸血鬼は30万歳のお嬢様JKなんだが、どうにか血を吸ってもらえないだろうか。

R884

第1話 はじまりはいつも突然やってくる

やおよろずの神と言われるように、この世界には無数の神々が存在する。

仮に日本の神様だけでも800万人いるとすると大阪府の人口883万人(平成27年)といい勝負だ。まぁ、八百万と言うのは正確には沢山とか無数のって訳すのが正しいらしいが、では地球上には何人の神がいるんだとなれば、玉石混淆でそれはもうとんでもない数の神様がいるのだろう、実に有り難みのないことだ。だから街中でばったり会ったり、突然家の風呂に入ってたってなんの不思議もない、当たり前の事だ。


多すぎだろ神様!!




しかし目の前にいる、その神様を従えているコイツはいったい何者なんだ。



「あら、始まりの吸血鬼に過ぎませんわ、人間」



九条くじょう がく21歳は、ここ犀川神社の宮司である。この若さで宮司を務めるにはわけがあった。




俺が神様を見えるようになったのは、幼稚園の頃だったかな。家は田舎のこぢんまりした神社で代々宮司を務めているのだが、夏休みで親父に家の神社に連れて行ってもらった時、鳥居の上にちょこんと座っているこの土地の氏神が見えてしまったのが始まりだった。

だって当時は子供だったから見えたものを見なかったことにするなんて出来なかったんだよ。

それ以来、色々な場所で色々な神様に会うようになった、日本の神だけでなく世界中の神様がこの地上で暮らしているのにはビックリした。いや、暮らしてると言うとはちょっと違うか、遊びに来ていると言ったほうが正解だろう。基本的に人間の常識とは異なる次元の世界に生きているので神様は本当に自由気ままなのだ。


そして20歳になった時、家の神社を継いで宮司となった。神様が見えたり、自由に話すことが出来る特殊体質の所為で、神職としては名誉職の浄階などと言う大層な階位を貰っている。

おかげで特級の者にしか許されない、白地に藤紋の入った袴を着るはめになってしまい、他の神職の人には嫉妬と恨みの籠った視線を投げかけられた。心狭くねぇ。


元々、神職と言うものはお寺さんなんかの僧侶と違って修行らしい修行はない、しきたりや祝詞は学ぶけれど陰陽道は嗜む程度だ。

神道と陰陽道はちょっと体系が違うもので、神職の人が皆んな陰陽道を使える訳ではない。あれは神道と仏教のブレンドだからな。ややこしいことこの上無い。

小学生の頃に京都の祇園社に放り込まれて、牛頭天王やスサノオの話し相手をさせられた事もあったが、あれが修行だったのだろうか?

今となっては嫌な思い出だ。






ギャーギャーとどこかでヒヨドリが鳴いているのが聞こえる。


その日は朝から濃い霧が出ていて神社をすっぽりと覆い隠し、森も山も随分と騒がしく、なにかこう心がザワザワとする嫌な予感がする日だった。



リーーーン



鳥居前の参道を掃き清めている時だった、鈴の音が後ろから聴こえたかと思うと、すでに彼らはそこに存在した。

一瞬で全身に鳥肌が立ち、冷や汗が吹き出す、なにかとんでもないのが来たのを直感した。



「そこな宮司さん、天照さんは御在宅かしら」


バッと鳥居の方に振り返る、俺はあんぐりと口を開き茫然となった。


「おや、人の身で声だけじゃなく、姿も見えてますの?」


4人の女性が立っていた、後ろの3人はまだいいとしよう、恐らくあれは異国の神々だ、とんでもない神格で一眼でそれと分かる。


しかし先頭でその神様達を従えて前にいるコイツはいったい何者なんだ、神格を感じない、これは神と言うより・・。



「あら、始まりの吸血鬼に過ぎませんわ、人間」


心を読まれた。


「始まりの吸血鬼?」



始まりの吸血鬼と名乗った女の子は、腰まで届くサラサラの金髪を右手で搔き上げ仁王立ちをかました。

キラキラとなびく金髪に思わず目を奪われる。

身長は165cm位か、ちょっとつり上がった大きな金色の瞳、紺色のブレザーに真っ白なYシャツ、小ぶりな胸元には真っ赤なリボン、タータンチェックのミニスカートから伸びる雪のように白く細長い足、黒のローファーが良く似合っている。


「て、吸血鬼って言うより、金髪JKじゃねぇか!金髪JKじゃねぇか!!!」


大事な事なので2回言いました。


「な、なんですの人間。いきなり叫びだしてびっくりするじゃないの、もしかして頭が弱い方ですの?」


金髪JKに引かれた。


「コラ!人間。ご主人様に無礼ですよ!」


後ろに控えていたオカッパ頭に犬耳を生やした少女が、ガウーッと威嚇してきた。

なんだこのちっこい神様、褐色の肌に金の胸飾り、黄色い腰巻姿の犬耳っ子が尻尾を逆立てている。エキゾニックな格好から言ってエジプトあたりの神様かな?クリクリした目が可愛いじゃないか。


「まぁ、待ちなさいアヌビス。いきなり神様が3人も現れたのでこの方もビックリしたんですわ」


金髪JKが犬耳娘を諌める。

へ、アヌビスって言ったか、アヌビスって確かエジプトの冥界の神だよな?エジプト神話の神は初めて見た、へぇ〜こんなちっこくて可愛い犬耳娘だったのか。


「いや、その小僧はおそらくご主人にビックリしてるんだろうさ」


もう一人のドレッドヘアのねーちゃんが会話に割り込んできた。デカいな、身長180cmの俺とたいして変わらない。ついでに胸もデカい、南米っぽい派手な幾何学模様のベストがパッツンパッツンじゃないか、首に巻いてる縄はアクセサリーなのか?このねーちゃんも肌が褐色だ、ホットパンツから伸びるムチムチのふとももが超エロい。


「イシュタム。どう言う意味ですの?」


いかんいかん。曲がりなりにも神前だ、すけべな目で見ちゃいかん。気を取り直して先頭の自称JK吸血鬼さんに話しかける。



「すまん。あんたがあまりにも可愛くてビックリしたんだ。俺は九条 がく。この神社の宮司を務めている」


「あらあら、可愛いなどと。正直なのはいいことですわ」



「私の名はオリジン。30万年の時を生きる始まりの吸血鬼ですわ。ガクさん以後お見知り置きを」ニコリッ



そう言って右手で握手を求めてきた彼女。ニパッと全然吸血鬼らしくない太陽のような笑顔、眩しく感じつつ握った手は小さくて柔らかかった。

あっ、これはやられたかも。何その笑顔、すっげー可愛いんですけど。

しかしこの女子高生な見た目は、あまり神様には見えないな普通に話してもいいかな?




「そう言えば、オリジンちゃん。さっき30万年生きてるって言った?」


「ええ、30万年生きてますわ。北アフリカのモロッコ生まれですの」


ちょ、ちょっと待てよ、ええと北京原人が50万年前でネアンデルタール人が30万年前、いやクロマニョン人だったけ。どっちにしろ旧石器時代じゃねえか。ほとんど猿の惑星じゃん、今の人類生まれてないじゃん。

自称悪魔のデーモンの小暮さんだって10万歳だぞ。



「俺と年の差29万9千9百79歳!俺の方が思いっ切り年下じゃねえか。タメ口きいちゃったよ」


「私より、年上の生物なんてこの地上には存在しませんわ」


そりゃそうだう、それに神様も同伴してるし嘘はなさそうだ。やべー、もしかして超偉い吸血鬼様なのか?タメ口はまずいか。



「30万年も生きてらしてお退屈はしなかったのでございすか?」


「なぜいきなり敬語なんですの、気持ち悪い、普通でよろしくてよ。ええ、最初は猿みたいなのばっかりで会話もろくに出来ないし面白くありませんでしたが、お昼寝して起きれば百年位は時間が経っているので、起きた時は新鮮な気分になりますわ。1万年前頃には神達も生まれ始めましたし、最近では色々な人間がいるので面白くてしょうがないですわ。」


「昼寝長いな!!へ〜、それじゃあ君の他にも吸血鬼って居るの?」


「う~ん、私とはちょっと種族が違うけど吸血鬼の人口は今55万人位だから、鳥取県の人口と良い勝負ですわ。死なないもんだからあまり人数増やそうとする者もおりませんし」


「鳥取県の人口が世界的に多いのか少ないのかわからん」


「47都道府県でワースト1ですわ。沖縄県だって143万人は居ますわ」


「なぜか、日本の人口に詳しい!」


「それは日本には何度か来てますもの、ところで織田信長の子孫は今何してますの?」


「いつの時代に来たんだよ!と言うか、今更で悪いがその口調はどこのお嬢様だ」


そこで犬耳アヌビスさんが説明をしてくれた。


「ご主人様はこの前会った、エカチェリーナさんと仲良くなられて気に入ったらしく、それ以来このしゃべり方なんですよ」


「誰だよそれ?」


アヌビスちゃんが首をコテッと首を傾けて「なに言ってんだこいつ」みたいな不思議そうな顔をする。


「あれ、エカチェリーナ1世さん、知りませんか。ロシアでは結構有名だったと思いますけど」


「まさかのロマノフ王朝!!この前って、どんな時間感覚してんの。会ったこともねーよ!」



アヌビスちゃんもどこかずれてんな、外国の神様ってのは皆こんなもんなのか?まあ何千年も生きてる神の時間感覚なんてそんなもんなのかな。




「あ、あの〜お話中すいません、なんか近づいて来ますけど……」


会話に割り込んでるくる声がする。あ、ずっと後ろの方で黙ってたから一人忘れてた。アヌビスちゃんと同じ位の背の高さで真っ白いワンピースで超ロングの銀髪の神様。

髪の毛黒かったら小ちゃい貞子みたいだな、顔は青白いんだが、足が真っ青だ。


「あの、君は?」


「ヘル・・」


呟くように一言喋ると、ドレッドヘアのイシュタムさんの後ろにサッと隠れてしまった。人見知りかな。


「ああ、悪い悪い、ヘルは恥ずかしがり屋でな。親父のロキは面白い奴なんだけど、こいつ死者の国にいる所為でボッチで人見知りなんだよ、なぁ」


「イシュタムだって自殺の神・・。首吊りばっかしてる・・」


「私の首吊りは趣味だからな、しかたない」


「あ、来た・・・」


空一面がパァーと光輝く、霧に反射して辺り一面真っ白になる、神社の大鳥居の上に目映い光の玉が降臨した。



「あ、この光は……」

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