第32話 サージェスの素顔
次期副会長の座を確実に射止めるであろうサージェスは常にクールな姿勢と物言いを崩さないできる男だった。
ただ、私は気づいている。
時々彼は懐中から時計を取り出しその裏にはめ込んだ肖像画を見て、しまりなくにやにや笑っていることを。
「顔が緩んでいるよ、サージェス」
そのことを指摘したのは私ではなく王太子。
彼はサージェスにそっと耳打ちする。
「はっ! いえ、その……、会長殿下……」
サージェスはうろたえる。
「いつも見ているのは誰の絵だい?」
ジークはさりげなくサージェスと肩を組んで部屋の端に移動する。
すいません、それ私も興味ある!
とばかりに、私も二人の後ろにつき、のぞき込もうとした。
「ほほう」
ジークが感心した声を上げ、そのあと、後ろの私に気が付いた。
「おや、サラ」
「あはは……」
私は笑ってごまかす。
サージェスは耳を赤くして黙ってジークから離れる。
ジークは意味深な笑いを浮かべるだけでそれ以上のことは言わなかった。
結局サージェスの思い人は誰だったのか?
サージェスはフェリシアに心酔しているとのうわさも実はある。
彼の家はブリステル家傘下に入っており、つながりがあるともいえる。
お茶会やパーティなどでフェリシアを悪く言う子供にくってかかったと言う逸話もあり、傘下の家の出とはいえ忠誠心だけでは説明できない振る舞いもあったのだ。
「あの、ジーク……。サージェスの持っていた肖像画って誰だったの、もしかしてフェリシア?」
生徒会の活動後、ジークと一緒に王宮へ向かう馬車の中で私は聞いた。
「はあっ? ああ、そうか。サラはそれを気にしていたんだね。フェリシアは
「まあ、その……」
「その点に関しては心配しなくていいよ。違う人物だったから。でもそれ以上はやっぱりサージェスに悪いから言えないな」
「そうですか? やはり好きな女性の絵ですか?」
「想像に任せるよ」
なんでしょうね。
自分だけが知っているぞっていうドヤ顔。
ちょっとカチンとくるが憎めない。
その後ひょんなことから彼の肖像画の主の名を知ることができた。
エリーゼ・シュニーデル。
ブリステル家傘下ではないけど、学園時代の縁で夫人同士が仲が良く、それで娘同士も親交を深める。
つまり、フェリシアには二人の仲がいい友人がいて、そのうちの一人がエリーゼなのである。
プラチナブロンドのおっとりした少女である。
まだ正式に婚約を結んだわけではないが、親同士は盛り上がっており、後は本人次第というところらしい。エリーゼがどう思っているかは知らないが、サージェスはかなりご執心のようだ。
そして、フェリシアの悪い噂を広める人間を目にしていながら放置していたら、親友であるエリーゼは激怒するらしい。
だから、サージェスは必死こいてフェリシアの陰口いう輩にはくってかかる。
「つまり噂の元となる態度は、フェリシアではなくエリーゼのためだったのか」
これまた乙女ゲームとは異なる展開。
破滅を回避しようと日々努力している私としては好ましい状況だ。
そして、エリーゼに好かれるために必死に努力しているサージェスの意外な素顔も好ましい感じがした。
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