第27話 伯爵家のご老害
「まったく、ハルディン家のご老体にも困ったものだよ」
その日の夕食、父は家族の前でぼやいて見せた。
「何があったのですか、父上?」
兄のオーティスが質問する。
「あの家には優秀な長女のカイネ殿がいる。彼女が跡目を継ぐことに皆賛同しているのだが、先代のご隠居が『跡取りはやはり男、弟のシャイセに継がせよ』と、言ってきかないのだ」
「令嬢のカイネ殿の方が年長ですよね。跡目相続には何の問題もないかと」
「ああ、そうだ。しかし、跡目は男と言ってきかない。いったいいつの時代なのかと……」
この国は元は男子相続であったが、フリーダ女王以後は長子相続が基本となっている。
「たまにいますわね、そういう方。一番上の子供が女子だと難癖をつける方……」
父と兄の会話に母も不快そうな顔をして入っていった。
公爵家には傘下の貴族が多くあり、父はそう言った家門の跡目争いの仲裁にもよく駆り出される。
「次子のシャイセ殿は性格は悪くないが、遊び好きで壁にぶつかるとすぐに投げ出してしまわれるところがある。彼に跡目を継がせれば、ハルディン家は早々につぶれるだろう。家門の他の方はもとよりご当人もそれを分かってらっしゃるというのに、ご隠居だけが強情だ。先代の家長でなまじ発言力があるだけに始末が悪い」
「いわゆる『老害』ってやつですね」
私も参加してしまった。
「『老害』とは?」
父が疑問を示した。
またもや元の世界の言葉を使ってしまったようだ。
「あの、ご老人がカビの生えた古臭い考えで若い人たちを困らせることを……」
「なるほどな……」
父が神妙な顔でうなづく。
「老人を通り越して『化石』のような気がするけどな。そんな馬鹿な主張をする人間を害をなす『老人』扱いしちゃ、他のまともな老人が気を悪くしそうだ」
兄が横から言う。
わたしは、そうですわね、と、答え、笑ってごまかした。
「なんというか、二、三百年前の人間を相手にしているみたいなんだよ」
再び父がぼやく。
しかし、本当にそうかもしれない。
他の人間にも私と同じく前世というものが存在するなら、数百年前の価値観を改めないまま今のこの世界を生きている人もいるのかもしれない。この世界だけではなく、私の前世の日本、あるいは欧州や中華でも貴人の家の跡取りは男と決まっていた時代があった。
そこからの生まれ変わりならば……。
「『お前のところは立派な長男がいるからそんな無責任なことが言えるんだ』と、言われたよ。立派な長男はいなくても立派な長女なら伯爵家にもいるだろうに。オースティンに不足があるわけじゃないからあくまで仮定の話だが、もしサラが長子でも私は喜んで家督を継がせたさ」
「そうですわよね」
母が相槌を打つ。
「僕だって、サラがあとをつぐんだったら跡目を譲ってもいいんですけどね。いや、もしそうなら王太子との婚約を断る口実になるんじゃないですか?」
兄が変な方向に話を持っていった。
「ほほう、それは妙案かも……」
ちょっと、お父様とお兄様!
話があさってのほうに行っちゃってますよ。
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