閉ざされた扉

赤月結衣

閉ざされた扉

皆さんは、『閉ざされた扉』って知ってるだろうか。一度開けるとそこは、タイムスリップしたかのような未知の世界。あなたが選ぶのは希望?それとも…これは実際に体験したある女の子の話である。

 私は牧野ヒカル。高校一年生。この町に引っ越してから通っている『桜丘高校』、通称『桜高』は超エリートな生徒たちが入る学校としても知られている有名な高校だ。所詮、私みたいな平凡な人生を送っている人とは違い、周りの女の子達はブランド品を持ち歩いて、友達同士で見せ合えっこする。気付けば、男子グループに近づき、アピールなんてする。当然男子達もそれにはうんざりしているが、何も言わない。なぜなら、何か不満な言葉を発すると女の子たちは、泣いたり、怒ったりするからだ。そんな毎日が続く中、私は普段通りに日々を過ごしている。何の不満もない。周りとの差が大きくても、関係ない。私は私らしく生きようと思っている。

 そんないつもの日々が続いてる中で、私はいつも不思議に思うことがある。それは、図書館の中の奥にある一枚の扉。一見、普通の扉に見えるが、私にとっては怖いというほどの恐ろしさが現れているように見える。扉の周りには本棚があるのに、なぜか私には本棚が見えずただただ真っ暗な闇の中にポツンとあるものにしか見えない。しかもその扉は、まるで私をあっちの世界に引きずり込もうとしているようにも見える。学校では友達というほど仲がいいクラスメートはいないので、とりあえず図書委員に聞いてみることにした。図書委員の話によれば、あの扉は二十五年も前の物で今は倉庫になっているというが、図書委員でさえ開けたことがないという。話を聞くだけでも怖いというのに、自分で確かめようっていう気持ちを持っている自分も怖い。何かを確かめるのは好きだが、怖いものを確かめるのは、私には向いていない。こういうところは男子に頼むところだが、知っている男子生徒はいないのでむしろ頼みづらい。幸いもし話しても相談に乗ってくれるとは考えにくい。とりあえず図書館を後にして、教室で考えることにした。こういう怖い系は見て見ぬ振りしたいものだが、体が言うことを聞かない。これからどう行動するか、扉の向こうには何があるかという興味を抱いている。気になることがあるとすぐに行動してしまうタイプ。それは私にとっていい癖でもあり、悪い癖でもある。私は、使わなくなったノートに今日あった出来事をまとめて書いた。それでも納得いかなかった私はノートを見続けていた。そこにある『救世主』というべきであろう人が現れた。もちろんその人はどこから来たとかではなく、私のクラスメートだ。名前は確か岡崎美鈴。その子はクラスの中心でもあり、クラスの学級委員でもある。学級委員となるとおとなしくてまじめな性格の持ち主と思う方が多いと思うが、この子は違う。むしろ正反対と言えるだろう。学級委員長の時にはまじめだが、いざ学校の話題から外れると性格が変わったかのように明るく元気な、むしろ落ち着きがなくなる高校生である。特に不思議な事や怖い系がそうだ。この子ならきっと図書館にある『扉』の事について何か知っているだろう。私は迷いもなくすぐさまこの話を持ち掛けた。彼女は真剣に話を最後まで聞き、声を出した。

『ごめんなさい。私はそれについてはあまりよく知らないわ。確かに、図書館にはその扉があるけれど、実際に中には入ったことはないし、図書委員が『倉庫になっている』というのならばそうなんじゃないかしら。』 

やはり学級委員でオカルト好きの岡崎美鈴も知らないか。やはり前からこの図書館にある扉の奥は倉庫として使われ続けていたのであろうか。

『あ、でも…』

岡崎美鈴が何かを思い出したかのように淡々と語りかけてきた。

『夏川先輩に聞いたことがあるわ。二十五年前に、ある女の子がその扉の向こうに何があるかを確かめに行ったって。』

『夏川先輩?』

『本名、夏川恵美。入学式に会ったんだけど、親の事情があって、五月に転校した方なの。』

『夏川先輩が岡崎さんに話したっていう女の子はそのあとどうなったの。』

『分からないわ。『あの世につれていかれた』という人もいれば、『そんなはずない。』っていう方もいらっしゃるもの。まあ、それはうわさに過ぎないわ。人が何を言おうとすべてが正しいっていうわけにもいかないもの。』

『…。話からすると、その女の子については『行方不明』ってことでいいのかな。』

『行方不明?冗談じゃないわ。あの子は見つかったのよ。次の日の朝に。…遺体として…だけどね…』

『遺体⁉』

『ええ、そうよ。もちろん呪いとかではなく、殺人事件だけど。犯人は捕まったわ。犯人も『急に殺したくなった。』って言ってたみたいよ。』

『『急に』って…』

『不思議よね。それに不思議と言えば、犯人もその時の事全く覚えていないそうよ。』

『何も⁉でもさっき『急に殺したくなった』って言ったじゃない。』

『その言葉だけは覚えているのよ。でもなぜそういったのかは分からないって本人も断言しているわ。』 

『やっぱりあの扉と何か関係があるのだろうか』

『そんなはずないでしょ。まさかあなた、『あの扉のせいであの子は殺人事件に出くわした』とでも言いたいの?あほらしい。そんなのあるわけないじゃない。偶然よ、ぐ・う・ぜ・ん。』

『そう言っているあなたも、準備万端じゃない。『偶然』って言っている人が探検に行くような恰好をする普通?』

『これは…。し、下調べよ。下調べ。』

『行く気満々じゃない。』

『ああ、もういいわ。とにかく、朝の二時に学校の門の前で待ち合わせよ。良い?分かった?』

『今からでもいいじゃん。そんな朝の二時にしなくても。』

『馬鹿ね。今行って先生に見つかったらどうするの。』

『『図書館で本を借りに来ました。』って言えば済むことじゃない。』

『とにかく。朝の二時、学校の門の前で待ち合わせよ。じゃ、またね。』

    無視された…

ピピピ、ピピピ、カチ。

『ふぁああ』

『なんで私がこんな時間に起きなきゃいけないのよ。』

私は親に気づかれないようにそっと、家を抜け出した。

『遅い。何時間私を待たせれば気が済むわけ?』

ちゃんと時間通りに来たのに何その態度?しょうがない、ここはちゃんとした理由を言おう。

『家を抜け出すのに、大変だったの。親に見つかったら何言われるか分からないじゃない。』

それは本当の事だ。実際そうだったんだから。

『言い訳無用。』

彼女はそう言って言葉を吐き捨てた。

『言い訳じゃないのに…。』っと言いたいところだが、今の彼女に言っても無駄なようだ。

『ほら、早く。おいて行っちゃうわよ。』

何という自分勝手な人だ。私の気持ちも知らないで。せっかくこんな時間に来てやったんだから、御礼ぐらい一つや二つあるでしょうが!

『言っとくけど、一応私は女の子ですからね!』

彼女は一度振り向き『知ってるよ。』っていう顔をしながらまた歩き出した。

何なのこの子もう。

『あんた、あのね!』

『あ!』

急に委員長は叫びだし、私の方へと振り返った。

『な、何。』

少し不機嫌で、でも怖かった私は愛想なく聞いた。

『い、今私たちの教室の中で、何かいたかも。』

『そんなはずないって。きっと先生か誰かでしょ。』

『で、でも、こんな時間にだれか来ると思う?』

『今の私たちがその状況になってるじゃない。』

『それとこれとは別よ。本当にいたんだってば~。』

『じゃあ、私が見てくるから、そこで待ってて。』

『う、うん。』

特に変わったところはないわね。

教室を見渡して、何もいないと確認し、委員長に報告することにした。

『委員長、何もいませんでしたよ。気のせいじゃなかったんですか。』

 辺りは真っ暗な闇に葬られたように静かで物音一つもなかった。ただただ月明りが私を照らしていた。

『?…。委員長?』

『ば~』

そこには、どこからか持ってきたかは分からないが、仮想パーテイーでよく使われるモンスターのようなマスクをかぶっていた委員長だった。

『…。何しているんですか、委員長?』

『なんだ、驚かないの?つまんない。』

『こんな子供だましに引っかかる高校生なんていませんよ。』

『ちえ。うまくいったと思ったのに。』

『それより委員長。教室を見まわしましたが、特に何もありませんでしたし、何も現れませんでしたよ。』

『あ、あれね。嘘だったんだ。てへ。』

『嘘?』

『ヒカルに嘘をついて、私たちの教室に向かわせたの。で、その間に、マスクをかぶって、ヒカルが戻ってくるまでに息をひそめて待っていたってわけ。』 

『息をひそめて待つ。ってずいぶんと恐ろしいこと言いますね。それより委員長、私たちの目的忘れてませんよね。まだ達成してないんですよ。』

『分かってるって。』

本当にわかっているのだろうか。私たちの目的は、図書館の中の奥にある一つの扉。あまりにも気になるので行くことにしたのだ。こんな時間でなくても、委員長が『絶対行く』って聞かないのだ。というわけで、こんなところで時間をつぶしてる暇はないのだ。早くすまして、早く帰りたい。

目的地にたどり着いた時、委員長が先に扉を開けた。扉を開けた瞬間、眩しい光があたりを照らし出した。まるで宝箱を開けた時のように黄金なのだ。その光が輝き終えた同時に委員長もいなくなっていた。私は嫌な予感しかしなくなり、委員長を呼んだ。返事は返ってこず、あたりが静まり返っただけだ。私は、『先に帰ったんだろう』と思い込み、私も家に帰った。そこにいてはなんかいけない気がするからだ。

次の日、委員長はいつも通りに学校にいた。『『昨日の事、覚えてる?』と尋ねたが、『覚えていないわ。何かあったかしら?』と答えたのであった。でも明らかに様子がおかしいのだ。具合が悪いだの、頭が痛いではなく、妙に私をあの扉に誘い込むように見える。彼女だけではない。周りのクラスメートもそうだ。何かに取り付かれたかのようにも見える。

朝や昼は何も起きなかったので、この前と同じ時間に学校へ行ってみることにした。扉を開けたら、やはり今日の朝と昼と同じで、何も起こらない。あれは見間違いだったのだろうか。ただ単に車の光が反射しただけなのだろうか。何がともあれ、クラスで起きた一日の変わりようは明らかにおかしい。全員が急に変わることは日常ではありえないことだ。何の手掛かりも見つからないまま、その日は家に帰って、朝を待った。

学校では、いつもと同じ光景。女の子たちは、ブランド品を持ち歩いて、友達に見せびらかし、男子にも自慢する。今まで通りのクラスだ。あの光は何だったのだろうか。やっぱり気のせいだったのであろうか。そんなことはもうどうだっていい。変わったと言えば、私は前よりクラスの子達と馴染めるようになった。

あなたも来ませんか。私たちのクラスに。必ず幸せになれる素晴らしいクラスですよ。

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閉ざされた扉 赤月結衣 @akatuki-yui

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