遺書

赤月結衣

遺書


僕は今、葬式に参加している。僕の親友の葬式だ。担任の先生とクラスメイトが参列しているだけだ。僕の親友は明るくて、成績優秀で、友達が多い。いわゆる人気者だ。彼の両親は数年前、交通事故で他界し、親戚もいなく、ずっと一人だった。しかし彼は落ち込んだりなどはしなかった。学校ではいつも通りにふるまい、笑顔を見せていた。親友である僕にも何の相談はされなかった。彼はこれからも明るい未来を辿るのだろう。そう思っていた。死の知らせが来るまでは…僕は一瞬何が起きたのか分からなかった。後ろから誰かが僕の後頭部を目掛けて金槌で殴られた衝撃を受けたようだった。親友が死んだ。あの明るくてムードメーカーだった彼が。きっと心の中では生きた心地がしなかったのだろう。両親が死に、一人で生きてきた彼にとっては。警察の調べによると、自殺らしい。証拠として親友の遺書が見つかったからだ。日付は今日だ。それはそうだ。死ぬ前に書いたのだろう。遺書が湿っている。きっと書くと同時に涙が溢れたのだろう。友達思いだったからなあいつは。しかし、警察が言うには、遺書はもう一枚あるらしい。日付は両親が交通事故で亡くなったあの日だ。あの日からすでに、親友の時は止まっていたというのだろうか。僕たちにとっては時が進むにつれ、将来の話をしたり、明日の話をしたりしていたのに…親友にとっては、「無限ループの中にいる」とでも思っていたのだろうか。どうして気付かなかったのだろう。あんなに明るくて、優しくて。僕は外見しか見ていなかった。彼の心の苦しさなんて気づいてあげられなかった、理解しようともしなかった。だったら僕はいったい何をしたんだ。何もしないで、ただ隣にいて、自分の話しかしていない。そんなの親友なんて呼べるのか。親友がいない今、僕はどうすれば良い。正直言うと、僕にはあまり友達がいなかった。そもそも作ろうとも思わなかった。しかし、高校一年の初め、親友が現れた。親友は僕とは正反対の性格だった。最初はうざったいと思って、関わらないようにした。けれど彼が距離を縮めるたびに、いつの間にか友達に、そして親友となっていた。性格は違っても、趣味はあった。彼はテレビゲームが大好きで、今はやっているゲームにも興味があったが、あまりにも人気過ぎて買えないといっていた。彼の両親は、彼と同じく優しかった。勉強に関しては厳しくなく、むしろのびのびと育てていたようにも思える。そんな彼がうらやましかったし、時には憎かった。けれど、友情は変わらなかった。しかし、親友が死んだことによって、今までの日々が一気に崩れたように感じた。もう地面に足がつかない、真っ暗な闇に吸い込まれたようなそんな感覚。親友である前に赤の他人にも関わらずなぜそこまで。ああ、そうか。彼が一番最初に話しかけていたあの日から、「親友」と呼べる存在だったからだ。僕は何を勘違いしていたのだろう。僕がどんなに追っ払っても、無視しても彼は決して見捨てたりはしなかった。今までだったら、何の反応も見せないだけで、周りの人たちは去っていったのに。挙句の果てに、「暗い子」「面白みのない子」などと散々ののしられてきたというのに。親友は、僕の親友はこの世界でたった一人しか存在していなかったのか。やっと葬式が終わり、皆にお礼を済ませ、僕は一足先に失礼した。一刻も早く、親友との思い出に浸りたかった。一刻も早く親友を忘れないために。忘れてはいけないんだ。一緒に過ごした日々を。そして、泣かないために。諦めたくなかった。心のどこかでは、まだ生きていると信じ込ませたかった。きっとあいつは戻ってくる。またどこかで、フラッと現れて、僕を脅かそうとしているんだ。そうだ。きっとそうだ。あいつが死んだなんて、あいつの遺書が見つかったって、質の悪い冗談だ。今日のお葬式だってそうだ。これは全部夢なんだ。寝ればきっと元通りになる。いつも通りの朝。賑わう教室。僕の名前を呼ぶ親友の明るい声。早く明日になれ。そして早く親友の声を聞かせてくれ。皆のすすり泣く声はもう聞きたくない。こんな悪夢はまっぴらだ。早く明日になれ。この悪夢から抜け出させてくれ。

         …

 俺は今、葬式に参加している。俺の親友の葬式だ。担任の先生とクラスメイトが参列しているだけだ。俺の親友は引っ込み思案で、成績はいつも赤点ギリギリで、友達が少ない。というかいない。いわゆる根暗だ。彼の両親は数年前、交通事故で他界し、親戚もいなく、ずっと一人だった。しかし彼は落ち込んだりなどはしなかった。学校ではいつも通りにふるまい、いつも本を読んでいた。親友である僕にも何の相談はされなかった。彼はこれからも明るい未来を辿るのだろう。そう思っていた。死の知らせが来るまでは…僕は一瞬何が起きたのか分からなかった。後ろから誰かが僕の後頭部を目掛けて金槌で殴られた衝撃を受けたようだった。親友が死んだ。あの真面目で優しかった彼が。きっと心の中では生きた心地がしなかったのだろう。両親が死に、一人で生きてきた彼にとっては。警察の調べによると、自殺らしい。証拠として親友の遺書が見つかったからだ。日付は今日だ。それはそうだ。死ぬ前に書いたのだろう。遺書が湿っている。きっと書くと同時に涙が溢れたのだろう。友達思いだったからなあいつは。しかし、警察が言うには、遺書はもう一枚あるらしい。日付は両親が交通事故で亡くなったあの日だ。あの日からすでに、親友の時は止まっていたというのだろうか。僕たちにとっては時が進むにつれ、将来の話をしたり、明日の話をしたりしていたのに…親友にとっては、「無限ループの中にいる」とでも思っていたのだろうか。どうして気付かなかったのだろう。あんなに大人しくて、優しくて。僕は外見しか見ていなかった。彼の心の苦しさなんて気づいてあげられなかった、理解しようともしなかった。だったら僕はいったい何をしたんだ。何もしないで、ただ隣にいて、自分の話しかしていない。そんなの親友なんて呼べるのか。親友がいない今、僕はどうすれば良い。正直言うと、僕は友達が多く、幸せだった。幸せすぎたんだ。俺は一度も一人の時間を味わえていない。苦痛だった。しかし、高校一年の初め、親友が現れた。親友は僕とは正反対の性格だった。最初は暗い印象が強く、関わらないようにした。けれど彼と距離を縮めるたびに、いつの間にか友達に、そして親友となっていた。性格は違っても、趣味があった。彼はテレビゲームが大好きで、今はやっているゲームにも興味があったが、あまりにも人気過ぎて買えないといっていた。彼の両親は、彼と同じく優しかった。勉強に関しては厳しくなく、むしろのびのびと育てていたようにも思える。そんな彼がうらやましかったし、時には憎かった。けれど、友情は変わらなかった。しかし、親友が死んだことによって、今までの日々が一気に崩れたように感じた。もう地面に足がつかない、真っ暗な闇に吸い込まれたようなそんな感覚。親友である前に赤の他人にも関わらずなぜそこまで。ああ、そうか。彼に一番最初に話しかけていたあの日から、「親友」と呼べる存在だったからだ。俺は何を勘違いしていたのだろう。俺がどんなに近づいても、話しかけても彼は決して見捨てたりはしなかった。今までだったら、何の反応も見せないだけで、周りの人たちは自然と近づいていたのに。挙句の果てに、「出来て当然」「当たり前」などと散々言われてきたというのに。親友は、僕の親友はこの世界でたった一人しか存在していなかったのか。やっと葬式が終わり、皆にお礼を済ませ、俺は一足先に失礼した。一刻も早く、親友との思い出に浸りたかった。一刻も親友を忘れないために。忘れてはいけないんだ。一緒に過ごした日々を。そして、泣かないために。諦めたくなかった。心のどこかでは、まだ生きていると信じ込ませたかった。きっとあいつは戻ってくる。またどこかで、フラッと現れて、俺が話しかけるのを待っているんだ。そうだ。きっとそうだ。あいつが死んだなんて、あいつの遺書が見つかったって、質の悪い冗談だ。今日のお葬式だってそうだ。これは全部夢なんだ。寝ればきっと元通りになる。いつも通りの朝。賑わう教室。俺の明るい声で振り向く親友。早く明日になれ。そして早く親友の声を聞かせてくれ。皆のすすり泣く声はもう聞きたくない。こんな悪夢はまっぴらだ。早く明日になれ。この悪夢から抜け出させてくれ。

               

END


サブタイトル 誰が死んだ?

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