夢を追う

◆続く者たち

 はやみねかおる作品には、小説を書く人物が度々登場しています。

 だからといって、読者の子供たちを未来の作家に育てる計画があるわけではないそうです。

「体験した職業は作家と先生の二つ。それ以外の職業は、リアリティーを持って書けない。だから、作家になりたい登場人物が多い」と語っています。

 作中に登場する作家志望のキャラクターは語り手を務め、一人称で出来事が綴られているため、作劇としても都合がいいのかも知れません。


『桐島、部活やめるってよ』や『何者』など、青春小説や社会派小説を多く執筆している小説家、朝井リョウ。

『体育館の殺人』や『水族館の殺人』など、本格ミステリーを得意としている推理作家の青崎有吾。

『楽園とは探偵の不在なり』や『恋する寄生虫』など、独特の世界観とトリックが特徴のミステリー作家、斜線堂有紀。

『紅蓮館の殺人』や『透明人間は密室に潜む』など現代の本格ミステリーを執筆している推理作家の阿津川辰海。

『愛されなくても別に』『響け、ユーフォニアム』シリーズなど、同志社大学在学中に作家デビューし、青春小説やミステリーを中心に執筆している小説家の武田綾乃。

 などなど。

 作家を育てる計画はなくとも、子供時代にはやみねかおる作品を読んで親しんだ人たちが、作家として活躍しています。

 はやみねかおるのデビューは一九九〇年。

 つまり、はやみね作品は、九〇年生まれ以降の子供たちが読む本でした。いま二十代から下の世代にとって、はやみねかおるは、まぎれもないヒーローなのです。


 自作を読んで育った世代が作家として活躍している状況については、「うれしいけど、恐れ多い。皆さんの小説が面白いから。『こんなに面白い小説があるなら、自分は書かなくてええやん』と思ってしまう」と話す。

 作家を目指している読者から『先生になりたい』『作家になりたい』『先生をやりながら作家になりたい』といったファンレターが多くよせられていることについては、両方は体を壊すと心配する、はやみね氏。

 兼業をあきらめて教師を辞めるとき、とても迷ったそうです。

 なぜなら、子供たちと向き合う仕事はたしかに楽しかったから。

 でも、作家を選んだことで、言葉を届けられた未来の子供たちがいるのも確かなのだ。それこそが、児童文学を手掛ける作家だからこそ味わえるやりがいである。

「一冊を書き上げると、次はもっと楽しませたい気持ちになる。どうやって驚かせよう、喜ばせよう。そう考え続けられるこの仕事が好きですね」と彼は語っています。



「わたしは思い出しました。どうして先生の仕事を一生懸命やってきたかをー。子どもの笑顔を見たかったからです。心の底から笑っている子どもの姿を見たいから、わたしはがんばって来たのです。」

『ぼくらの先生!』より

 


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