夢の続き

◆書いているときに意識していること


 子供だったときは、戦争で子供を亡くした祖母がいて、外へ遊びにいく時には口癖のように「生きて帰ってこい」と言われていたという。

 田舎に住んでいるため、冒険心はいやおうなく身につく。

 そうして培われたものは、自分の中に今もあるし、主人公たちの内部にもあるという。


 原稿用紙に小説を書いたのは、小学六年生のとき。

 中学からはずっと書いている。

 中学高校と、自分が書いた小説を友達にみせて、読んでもらったことが小説を書くきっかけになっている。

 子供たちが小説書きたいといったときは「最後まで書く」「恥ずかしからないで、周りの人に読んでもらうこと」を伝えている。

 ただ絵は下手なので、最初から漫画は諦めて、字の方に進んだという。


 執筆中は、締め切りに間に合うか、つじつまが合うのか、読んだ子供たちがワクワクしてくれるかを考えて書いている。

 話はよく書けているけど面白くないと思ったら、もう一回最初から書き直すこともあるという。ワクワクが一番大事だから。

 小学校の教師をしていたので、ある話を子供たちが聞いたら、どんな反応をするかはだいたいわかる。

 勉強ができるようになりたい気持ちは、どんな子でも持っている。その子が何かを発見した時の「うれしい」気持ちは、忘れてはいけない。

 こちらが一から十まで全部言ってしまったら、子供は退屈する。何かの仕掛けをし、工夫して、子供たちに興味を抱かせる。

 それが、ワクワクさせること。


 大学入試センター試験の前身、共通一次試験前の一週間は冒険心をなくしかけたという。

 それまでは毎日、小さいころから行きつけの本屋に行っていた。だが、試験前の一週間だけは勉強して、本屋にはいかなかった。その会あって、試験ではいい点数が取れた。その一週間だけは「大学に受かるんだ」と冒険心も遊び心も何もかもなくして、超必死で勉強した。冒険心を失ったのはその時だけだという。


 自分は精神年齢が止まっている、十四歳だと笑う。

 息子たちのほうがしっかりしているので、大人にならなければ行けない思いはある。ただ、人生を楽しまないといけないし、「嫌なことがあっても、世の中は面白いよ」ということを、子供たちや世の中に言い続けたい思いがあるという。

 いまでも、食べていた梅干しを埋めたら芽が出るのか、気になっている。

 小学校のとき、給食に出たりんごの種を持って帰って埋めて、かなり大きく育てたことがあるという。

 山にいるときはナタを越しにぶら下げたり、街に出かけるときは折りたたみの万能ナイフを持ち歩いていたり。なにかのときに役に立つかなと思っている。

 

「十四年間の授業を通して、子供を見ることを学ばせてもらった。その経験が、児童文学作家として強みになっている。自分の話に子供がどう反応するか、どうすれば面白いと感じてもらえるか? いまも教室で子供たちに話す感覚で書いている」と話す。


 物語の展開だけでなく、登場人物の造形にも教師の経験が生きている。

「大人のキャラクターは、どこか教師目線があるように思う。めちゃくちゃな生活でも子供にきちっと対応するし、信念や美学を持っている」

 普段はやることなすこと常識外れだが、抜群の推理力と子どもの幸せを願う優しさを持つ。

 そうした人物像とぴったり合致するキャラクターが登場する。


 立派なこと、国のことや将来のことも考えていない。死ぬまでは楽しく生きたい。せっかく生きているのに、楽しくないともったいないから。

 ただ、自分が楽しくなりたいと思っていても、子供たちがそばで泣いていたら、やっぱり楽しくない。これまで幸せに生かしてもらった、本当に運が良かった、と思っている。

 子供たちが選定委員として友達に薦めたい児童文学の作品を選ぶ「うつのみやこども賞」(宇都宮市立中央図書館など主催)を四回もいただき、幸せ者だから感謝しないとダメだと語る。


 構成などを書き留めるノートを持っている。

 トリックのアイデアになるようなことはメモしているが、後から読み返しても、自分で書いたのに意味不明なので全く役に立っていないと語る。

 三つのシリーズものを同時に書き進めていても、シリーズが別でもキャラクターや世界観が全部同じなので、物語が同時進行していても、別々に書いていけるという。


 シリーズを書いていくとき、仕事で書いているけれども、自分が面白いと思って書くことを心がけている。自分がつまらないと思ったら、読者の子供もつまらないと思うはず。



◆トリックを考えるコツ


・はやみねかおる作品の特徴

 日常の些細な出来事には、不思議や謎が隠れている。普段は見過ごしがちな事柄に疑問を投げかけ、新たな視点や思考法を作品に取り入れ、提示することで読者である子供たちの想像力を刺激し、興味を引いている。

 本格的な推理小説の構造を児童文学に取り入れ、物語の中で謎を解き明かす過程を描いている。このようにミステリー要素を取り入れることで、子供たちの読解力や推理力を養うことを目指しているといえる。

 作品にはパロディが多く、既存作品やジャンルをもじったり、ユーモアを交えたりすることで、子供たちを楽しませている。

 社会には遊び心が足りないという考えから、人生をもっとゆったりと味わうべきだと指摘。作品の中に遊び心を取り入れ、子供たちに新たな視点を示すことが大切だと主張している。

 はやみねかおるは、日常の不思議さや推理の面白さ、パロディやユーモアなどを取り入れることで、子供たちの想像力や読解力を養う作品作りを心がけている。これが作品作りの特徴だ。


 手品の本によると、「逆に考える」ことが大事だという。

 例えば「ボタンがシャツから取れた」のを、「シャツがボタンから取れた」というふうに考えよう、ということ。それがトリックを考える基本になっていると語る。

 一円玉を指で曲げる手品の場合なら、科学の本を読み、アルミニウムでできた一円玉の特質を学べば、トリックがわかる。そういう科学知識を踏まえ、「超能力」として手品をふるまっている。

 これが、はやみねかおるのトリックの作り方。

 いろんな本を読み、いろいろな知識を手に入れて考える。本を読むのも大事だけど、そこから先が本当は大事だよと、子供に伝えたいと語っている。

 ちなみに、一円玉を曲げるには焼鈍しをする。

 直接火が当たらないようアルミ箔でくるみ、ガスレンジなどを使い片面ずつ加熱したあと、徐冷することで金属組織を緻密にして硬度を下げる。

 こうすることで、金属は柔らかく加工しやすくなるので、曲げやすくなる。ただし、焼鈍し温度や冷却速度が適切でないと、かえって硬くなる可能性がある。

 なにより、貨幣(硬貨)を故意に損傷したり鋳つぶしたりすると貨幣損傷等取締法により罰せられる。

  磨いたくらいでは犯罪にならないが、磨き続けて刻印が消えたり曲がったり、穴が開いたりすれば犯罪となるため、手品のために硬貨を曲げてはいけない。

 

 はやみねかおるの父親は、自転車屋を経営していた。

 そのため、小さいころから部品をいじったり、いろんなものを作ったり直したりしていたという。その経験が活かされているのだろう。



◆読書とは


 最近は老眼が進んで読む量が減ったが、昔は息をするみたいに読んでいたという。はやみねかおるにとって読書は、ご飯のような、読まなきゃ死んでしまうみたいなものである。


 無人島に三冊持っていくのならという質問に、「広辞苑」「電話帳」「フェルマーの大定理」をあげている。

 広辞苑は、過去に二度全部読んだことがあり、飽きが来ないから。

 電話帳には、いろいろな人の名前が書いてあるので、登場人物としていろいろ話が考えられるから。

 フェルマーの大定理は、「絶対理解できないから暇つぶしになるだろう」という理由から。


 物語を書きたいって人にオススメ な一冊として、飛鳥新社からでている『めんどくさがりな君のための文章教室』という自分の本を勧めている。日記や感想文、夏休みの宿題で困りそうなものも片付くし、最後には小説の書き方まで書いてある。

 



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