第15話 予選2回戦第1試合

 余暇と付け焼き刃で過ごした週末が終わり迎えた月曜日。

 戦技大会も2回戦へと突入する。

 ここからは1回戦で勝ち上がった6人によるリーグ戦で本戦トーナメントの出場者を選出しそれ以外の生徒は見学となる。

 矛を交えるのは前年度末の成績順で影道瑠音、華権(ファ・クォン)・ズコバ・コス、有田糀(ありた こうじ)、友親増夫(ともちか ますお)、伊佐メイ、宮本静子。

 奇しくも男女比は等倍である。

 下馬評通りに行けば学年筆頭である瑠音の一人勝ちであるが、ダークホースである櫛灘寮組に秘策を携えている香港出身の華権など、混乱を極める気配である。

 先陣を切る静子は震えそうな手を気合いで押し留めつつ、リングの上で相手を見つめた。

 対するのは筋骨隆々の恵体を武器に陸上部で活動している有田。

 華奢な静子と比較するとその大きさは際立っていた。


「キミも春休み中に随分と鍛えたようだけれど、それはオレも同じさ。買っても負けても恨みっこ無しで行こうぜ」

「もちろん。だけどわたしだって結構頑丈だから遠慮は要らないよ」

「オーケー」


 有田は自慢の筋肉をムキムキと動かしながら静子を威圧するが、彼女は一歩も引かなかった。

 そのまま両者待ったなしで試合開始となり先に動いたのは肉を蠢かせる有田。

 事前にパンプアップしていた右腕を振り回すことで放たれる拳銃の衝撃がリング外にまで届く。


(プールでの特訓が早速役に立った)


 だが魔法による衝撃がリング外にまで飛び火するということは静子には当たっていないということ。

 受けの戦術を身に着けた結果、後手に回りがちになっていたことをアオとの特訓で自覚した彼女もまた考えるよりも先に身体を動かしており、おかげで筋肉による速攻を回避していた。


(避けられたのは計算外だが、まだ銃弾は残っている。最悪は肉弾で勝負だ)


 有田が使用しているのは筋肉に魔法力を溜め込むことでパンプアップをするテインという魔法。

 このテインの魔法力を放出することで、部分的な効果切れを代償とした衝撃波を飛ばすのが、さきほど披露した拳銃である。

 右腕の魔法力はなくなったが左腕と両足の魔法力は健在。

 そのうえ仮にすべての魔法力を使い果たしても基礎的なフィジカルで戦いになる。

 短期間で立派な身体を鍛え上げた彼は魔法以上に自身の肉体に誇りを持っていた。

 スタイルとしては魔法の力量は低くても戦闘センスで補ったことで勝ち上がっているメイに近い。

 むしろ上位互換であろうか。


(ハイキック、ごっつぁん!)


 接近戦をご所望な有田は魔法力を込めた両足で飛ぶように間合いを詰めると、左足を大きく上げた上段蹴りで静子のこめかみを狙いすます。

 側面に回り込んでの蹴りは静子の死角を捉えており、魔法力を使い切って放たれるその速さはセンサーを展開していても直撃を免れない。

 手応えに右手を握りしめた有田が勝ち誇るとおり、蹴り飛ばされた静子はリングの端まで押し出されていた。


「よっし!」


 しかし、そのままダウンしているであろう静子を見ようと、蹴り飛ばした方向に目線を向ける有田は気づかない。

 彼女を蹴ったその足に爆弾が仕掛けられていることに。


「エガシ・オイ!」


 インパクトの瞬間に身体を縮めながらアプヴェーア・エガシを展開していた静子は魔法力を吸い取ってもなお殺しきれない勢いを自分で引き受けて、盾が壊れないように保護していた。

 そのまま有田の魔法力を吸って爆弾と化した盾を残したまま蹴り飛ばされた静子は地面を引きずりながら受け身を取り、即座に無防備な脚を狙う。


「うがぁ!」


 これには鍛えていることが自慢の有田も悶絶。

 この機を逃さんと気力を振るう静子は渾身の熱線魔法で有田の顔を穿ったうえで決定打を求めて駆け寄った。


(何をされたのかわからねぇ。こうなったら地団駄だ)


 突然の痛みからの猛攻に苦しむ有田に残された魔法力は右足と左腕。

 そこで有田は右足で地面を強く踏みつけることで周囲に衝撃を拡散させて静子の強襲に備えた。

 これで倒せるとは思っていないが仕切り直しにはなるだろう。

 仕切り直せれば最後の一発で片がつく。

 狙い通りか、それとも彼女の脚力を高く見すぎたか。

 静子はちょうど土埃が消えるのにあわせて有田に飛びついた。


(遅い張り手だ。やっぱり女子じゃこの筋肉には勝てないぜ)


 振りかぶった右手を遅いと断じた有田は引き絞った左のカウンターで静子の顎を狙う。

 強化された拳の一撃は衝撃を纏わずとも捉えた顎先を揺らして少女を気絶させることなど容易い。

 普通ならばコレで幕引きである。

 だが──


「っぁ!」


 顎先狙いを読み切っていた静子は予め盾を配置しておき、尚且つインパクトにあわせて顔をそらすことで失神を防いでいた。

 そのままカウンターで勢いを殺されたビンタに乗じた密着状態での爆発魔法は有田の脳を揺らす。

 左足と顔面のダメージにも怯まずに戦い続けた巨漢も流石にもう堪えきず、目を回して地面に膝をついた。

 2回戦のオープニングとなるこの試合でも勝利した落ちこぼれ女子宮本静子。

 彼女の戦果をマグレと断じる生徒は既にいないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る