本作は、「もし天草四郎の“奇跡”が忍術だったら?」という着想から生まれた、非常にユニークでワクワクする歴史ファンタジーです。
史実の枠組みを押さえながらも、忍術という大胆な設定を重ねることで、天草四郎や島原の乱がまったく新しい表情を見せてくれます。
幕府の弾圧が強まる中、四郎は“奇跡”の正体を知らぬまま戦いの決意を固め、仲間とともに数々の苦難へ挑んでいく――その姿は凛々しく、読み手を強く惹きつけます。
とくに、四郎のカリスマ性や原城籠城の事前準備といった「そういう解釈もあったのか!」と思わせる発想が素晴らしく、歴史の余白を巧みに埋める創作として、非常に読み応えがあります。
実際に原城跡や資料館を訪れた作者だからこそ生まれた“リアルな疑問”と“自由な想像”の融合が心地よく、歴史好きにもファンタジー好きにもおすすめしたい作品です。
島原の乱。
寛永十四年に起きた徳川幕府への武力闘争。
弾圧されたキリシタンを主体とし、苛政にて困窮した農民、徳川体制外の浪人らが起こした反乱。
その事実を元にした活劇が本作です。
伝奇的要素を前面に出して読み易く、娯楽性に富んでいます。
また本作では剣術や異能力による闘争のみならず、特殊な状況に置かれた人々の苦悩や心情も示されます。多くの人々をもつぶさに描いているのです。
文字を追ううちに、読む者はきっと物語に没入することでしょう。
本作の物語は大蔵と天草四郎の二人の青年を軸に展開されます。
二人の心の交流と過酷な状況下での決断が生々しい筆致で表されています。
物語の中で語られる伝承された天草四郎の数々の奇跡。
それは、忍者の用いる忍術と同じ異能だと言う設定。
これを生かした同類の異能を持つ忍術と天草四郎との戦いは必見です。
物語となって、ようやく一般の我々に伝わる歴史もあります。
本作は歴史のなかで国に追い詰められた者たちと、その希望と行動。
それらが切々と綴られた時代活劇です。
御一読を、お勧めいたします。