第4話

 久美さんはファッションデザイナーだ。洋服も仕立てる。久美さんがデザインした洋服は評判が良く、洋服の注文は増え続けて、僕が大学生の間に店を構えるようになった。

 僕は大学を出て、一応、業界では名の通った地元の企業に入社した。しかし、僕と久美さんの収入を比較したら、圧倒的に久美さんの収入が多かった。

 久美さんは店の経理を夜に行ない、子供たちの世話をし、独りで店をやりくりしていたが、

「ええいっ!なんじゃい!こりゃあ!

 これは、いったい、どこに計上すりゃあいいんだあ!

 最後はまとめて経費になるんだから、なんで、こんな面倒な仕分けが必要なんだ!」

 経理計算や税金の申告に手間どり、久美さんが伝票の山と帳簿に八つ当たりした。


「どれ、見せてごらん・・・。ミシンなどの減価償却費は・・・この説明書の計算方法で定額法の計算式を使えばいいよ・・・。

 後は伝票を項目ごとにまとめてさらに、月ごとに集計すれば・・・・。

 ほら、これで、それぞれの項目の経費が月ごとに集計できて、計算できるよ」

 僕は伝票の仕分けと経費の算出計算をした。


「・・・・」

 久美さんはしばし呆然としていた。そして、何を思ったか、

「どうしてそんなに詳しいの?経理計算したことあるの?税金の申告は?」

 僕は大学の時から久美さんと生活している。久美さんが気にする経理計算も税金の申告も、僕がしたことがない事を久美さんはよく知っている。前世で経験してた事があるなどと言えないから、税務相談のホームページで学んだことにしておいた。

 すると、

『それでいいんじゃ。ともに暮らしてるよって、ともに助け合わねばいかんぞね』

 と爺ちゃんが僕に囁いた。


「ねえ、今度から、経理をお願いしていいかなあ?」

 久美さんは甘えた声でそういう。

「ああ、いいよ」

 そういったその時から、僕が経理を見るようになった。

 僕は平日の夜や休日に久美さんの店の経理を見た。そして、

「ついでに、洗濯と洗い物もお願いね」

 と久美さんからお願いされて子供たちの世話もするようになった。


 爺ちゃんと約束したように、僕が久美さんと子供たちの言動を決めるような事はせず、全て本人たちか久美さんに任せた。

 その結果、子供たちは自分で意志決定し、自己中心的ではあるが結果を自分で認める人間になった。別の言い方をすれば、個人が優先で自己の欲望が向き出しになり、家族はまとまりが無くなった。久美さんは小うるさくなって、娘たちは気が強いだけで取り得が無くなった。


 これって・・・。僕は爺ちゃんの言葉を思いだした。

 すると、爺ちゃんが僕の心に現われた。

『わかっとる。今までの人生は、一応、区切りにするっちゅう事だな?

 それも良かろう。ただし、憶えておけ。

 何度も平行時空間を精神と意識、つまり魂が転移しても、素粒子をはじめ、各種時空間構成要素は変わらぬよって、同一の時空間へ収束するのを忘れぬようにな!』


『生まれ変わっても、最終結果は同じって事か?』

『そうじゃ!物理学者も平行時空間が同一時空間に帰結しおるのを認めとる。

 人間の魂の転生、つまり、意識と精神が平行時空間を転移しても、結果は同じじゃ。

 お前が導き出した『平行時空間の統一場理論』ぞね。同じ結果になるよってに、心して対処するのだぞ』

『僕はそれを知っていながら、人生をやり直してたのか?』

『あれ?憶えとらんのかいな?

 自分で発見した理論まで忘れるとは、まさに『平行時空間の統一場理論』ぞね』

『どういうことなの?』

『素粒子をはじめ、各種時空間構成要素は変わらぬよって、忘れたことも含め、そのままで生まれ変わるっちゅうことぞね』

『なんちゅうことかいね!』

 僕の口調が爺ちゃんに似てきた。もしかして爺ちゃんは僕の未来か?

『さあ、どうしたものかのお・・・。

 まだ経験しとらん未来を『平行時空間の統一場理論』で解明するのが、お前の課題になりおったなあ。いや、課題でのうて、難題になりおったなあ』


 爺ちゃんがそう言ったとたん、僕はあの難題門の前にいた。

 僕の周りには、あの、戦闘服を身に着けて棍棒のような武器を持った大男たちがいた。皆、頭に角のような突起があり、髪の伸びた赤ら顔だ。


(了)

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平行時空間の統一場理論 牧太 十里 @nayutagai

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