第4話 VTuber事務所ですって⁈

 わたくしが今いるのは、知らない部屋ですわ。


 フェレットの姿をしたパソコンもわたくしについて来ていますわ。


「そこのパソコン答えなさい。ここは何処ですの?」


『ココハ、ミズキサマノ職場〝フルダイヴ・プロダクションVR事務所〟デス。ヴァーチャルアイドルノ芸能事務所デハ、ヴァーチャル空間ニモ事務所ヲ持ッテイルノデス』


 ヴァーチャル空間と言うのがよく分からないですがこの世界とは別にあるようですわね。魔界みたいな物なのかしら。


 この建物、大きさはそこそこあるみたいですが、わたくしの元住んでた屋敷に比べると質素ですわね。


 もっと絵画や花を飾って華やかさを出した方が良いですわ。


「あれ、ローズマリー様じゃ……」


「本当だ……ローズマリー様のアバターなんてうちのタレントにいたっけ……」


 なんか、やたらと注目を集めている様ですわ。


 この世界でも、わたくし知名度があるみたいですわね。


「あ!ローズ様!なんでここにいるの?」


 聞いた事のある声がしたので振り向くと、ブラウンの色をしたセミロングの髪を振り乱しながら、小柄な女がコチラに走って来ますわ。


 ミズキもこのヴァーチャル世界ではアバターとか言う姿ですのね。


「あなた、ミズキですのね?」


「そうですよぅ……ローズ様、どうやってここに?」


「パソコンが連れて来てくれましたわ」


 わたくしが足元のパソコンを指差すと、ミズキは納得したみたいで小さく頷いていますわ。


「あ、わたしのパソコン……なるほど、そう言う事か」


「それにしてもこの世界、不思議ですのね。現実世界とは別にヴァーチャル世界が存在しているのですわね」


「そうだよぅ……ローズ様はヴァーチャルでもローズマリー様のアバターなんだね」


「もちろんですわ。わたくしは、わたくしなのですから」


「ふふっ……ローズ様らしいね。アバターだとよりゲームの中のローズ様みたいだね」


「そう言えばミズキ、そのゲームと言うのは何ですの?」


「え……原作だよ原作。乙女ゲーム〝悪役令嬢ローズマリーのざまぁ千本ノーックですわ〟だよ」


「なんだか品のないネーミングですわね」


「ローズ様がそれ言う」


「で、ここは何ですの?ミズキはここで何をしてるのかしら」


「あ、そうそう。わたし今仕事中だったんだ。ここはVTuber専門の芸能事務所、フルダイヴ・プロダクションのバーチャルオフィスなの」


「それはさっきもパソコンに聞きましたが、何のことかはさっぱりですわ」


「うーん……説明するの難しいな……そうだ!ローズ様、良いキャラしてるから、せっかくだし挨拶を兼ねてわたしがマネージャーしてる子達を紹介させてよ。ローズ様時間ある?」


「まあ、する事は無いので時間はありますが」


「今からうちのタレントの3D新衣装のお披露目イベントが始まるんだ。ローズ様も見学してみる?」


「ええ、構いませんわ。ミズキ、案内なさい」


「なんで上から……いいけど……とりあえずパソコンしまうね。スラッシュ・リターン!」


『ピピ……元ノ世界ニ戻リマス』


 パソコンは白く光って消えてしまいましたわ。


「あら、何処に行ったのかしら」


「パソコンには家に戻ってもらったんです。あ、大丈夫ですよ。あの子パソコンがいなくても、ローズ様はわたしがちゃんと転送しますから」


 ミズキ、パソコンの代わりにわたくしを転送する魔法を使えるんですわね。


 こう見えてなかなか出来る子ですわね。


「じゃあローズ様、配信会場にテレポートするから、わたしに捕まって下さい」


「分かりましたわ」


 わたくし、目の前が一瞬、真っ白になりましたわ。


 そしてわたくし、次の瞬間には、さっきまでとは違う場所にいましたの。


 そこは、さっきまでの簡素な部屋とは違う、とても煌びやかなお部屋ですわ。


 大理石の床に豪華なシャンデリア、壁には絵画や花が飾られていて、テーブルには紅茶やケーキがたくさん並んでいますわ。


 わたくしの元いた屋敷と比べても見劣りしない、立派なお屋敷ですわ。


 ミズキの職場とやらにも、ちゃんとこんな場所もありますのね。


「どお?この部屋、良い部屋でしょ。ヴァーチャルだけどね」


 ミズキはクルクルとその場で回りながら、自分の事の様に喜んでいますわ。


 ヴァーチャル……と言うのがおそらく魔法なのですわね。


 わたくしにも少し分かって来ましたわ。


 この部屋は、魔法で出来た空間なのですわね。



「確かに、なかなか良い部屋部屋ですわね。わたくし、今晩はここに泊まろうかしら」


「わ、それはダメだよぉ、ここはエルルの配信部屋なんだから」


「ハイシンベヤ……とは何ですの?」


「ここはね、エルルの戦場なんだよ……あ、そうそう、ローズ様、エルルを紹介するね」



そう言えば、さっきからこの部屋にはわたくしとミズキ以外に、もう一人いましたわ。


 薄紅梅パステルピンクの色をした、肩まで伸びたロングのストレートヘアの女の子ですわ。


 まるで天使の様な服装をしていますわ。

そして背中からは、純白の羽が生えていて、頭の上には白く光る輪っかが浮かんでいますの。


 おまけに目の色は左右が碧眼と緋色で分かれていて、オッドアイになっていますの。


 なかなかに濃い見た目の女の子ですわね。


「あ、あの瑞希みずきさん……その方は……どちら様……なのかな」


 女の子はなかなか可愛らしい声ですわ。


「あ、ごめんね。急に。この方はローズ様だよぉ」


「それは分かるけど……どう見ても悪役令嬢ローズマリーのコスプレしてるし」


「貴方もですのね!……わたくし、コスプレではありませんわ!本物のローズマリーですわ!」


 わたくしとした事がつい、声を荒げてしまいましたわ


「……か、変わってるね。この人」


 天使の姿をした女の子がミズキの耳元で囁く様に言ってますが、わたくしに聞こえておりますわ。


「ローズ様、ここは一旦、ローズ様は見習いのVTuberさんと言う事にしておいてもらえますか?」


「はあ?……どう言う事ですの?」


「いや、その方が話が早いし……それに、もうすぐエルル配信なんだ。あ、この子はうちの人気VTuber、羽仁井はにいエルルさんだよぉ」


「エルルでーす。よろしくだぴょん」


「なんか、うざいですわ……」


 一瞬、エルルの額に青筋が立ったのが見えた気がしますが、気のせいですわね。


 この子は天使みたいですし。


「と言う訳でエルルさん、今日は裏でこのローズ様が見学してるけど、いつも通りに配信しててね」


「わかってるよ。ローズマリーさん、今日は私の新衣装のお披露目なんだよ。こんな記念日に見学に来れるなんてラッキーだねー」


「そうですの?」


「うん、VTuberにとって、衣装のお披露目はとっても大事な事なんだ」


「分かりますわ。わたくしも舞踏会にはいつもどんな衣装を着ていこうか、何時間も悩んでおりましたわ」


「でしょう、じゃ、わたしたちは後ろに行こう、ローズ様」


 ミズキは無理やりわたくしの腕を取って、奥の部屋に連れて行きましたわ。


 そんなに引っ張らなくても、わたくし、ちゃんと歩けますのに……

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