第5話 新衣装お披露目ですって⁈

 わたくしとミズキは奥の部屋に入りましたわ。


 奥の部屋には、空中に窓が浮かんでいましたわ。


 窓には、エルルのいる部屋が映し出されていますわね。


 これも魔法なのかしら。


「これはね、モニタって言うの。離れた場所の映像が見られるんだよ。ローズ様、わたしたちはこっちの部屋から、エルルさんの配信を見まもろうね」


「わたくしたちが一緒にいてはいけませんの?」


「うん、わたしはマネージャーだから表には出ないし、ローズ様は一応、一般人だから……表には出ない方が良いと思うんだ」


「あの部屋が表……とは?どう言う事ですの?」


「あの部屋はね、これから、世界中に向けて配信を行うんだよ。あの部屋とエルルさんの姿が、これから配信されるの。それを、世界中の同接一万人以上の人が見てるんだよ」


「……なんだかよく分かりませんが、凄い事ですのね」


「そう!そうだよぉ……凄い事なんだよぉ……エルルさん、今まで頑張ってきたから、ようやく人気 Tuberになれたんだよ」


「エルル、努力したんですのね」


「そ、だからこの新衣装お披露目はエルルさんの晴れ舞台をみんなでお祝いする為の物なんだよぉ……ささ、ローズ様も一緒に見よ」


 ミズキはヴァーチャルモニターの前に椅子を二脚持ってきて、わたくしに座る様に促していますわ。


 ミズキの言葉に甘えてわたくしは椅子に座る事にしますわ。


 ミズキは小さいテーブルも持ってきて、わたくしの前に置きましたわ。


「ローズ様、ちょっと待っててね。今紅茶淹れるから。あとお菓子も持ってくるね」


「そこまでして頂かなくても良いですわよ。ミズキもこちらに座ると良いですわ。そろそろ始まってしまいますわよ」


 ミズキが働き者なのは、こちらにきてからよく分かりましたわ。


 向こうの世界のわたくしの屋敷に住んでいたメイド達もそうでしたが、あの子達もミズキも、つい働く事に夢中になって自分のことを疎かにしてしまいがちですわね。


 働き者なのは良いですが、ちゃんと休憩の時間を作る様にわたくしが気にしておかないと行けないですわね。


「そ、そう……だね。じゃあ、私も座るよぉ」


 わたくしとミズキは二人並んで椅子に座り、ヴァーチャルモニターをじっと見つめますわ。


 モニターには先程の部屋が映し出されておりますわ。


 そして、エルルが部屋の中で一人、椅子に座ってこちらを向いてにっこり笑っておりますわ。


 エルルの座り方、姿勢が良いですわ。


 わたくし程ではないですが、あの子もちゃんと躾をされている方ですのね。


「あの衣装はね、まだ前のなんだよ。新衣装がどんななのかはこれから分かるから、楽しみにしててね」


 隣でミズキが囁く様に言ってますわ。


 ミズキは少し興奮した様子ですわ。


 バックでは優雅な曲に合わせて、歌が流れてますわ。

 声の感じからして、エルルが歌っている様ですわね。

 目の前のエルルは歌っていませんわ。レコードでも流しているのでしょうか。


 そして、エルルがいよいよ口を開きましたわ。


「みんなー、おはえるえるー!今日はエルルの新衣装お披露目会を見にきてくれてありがとー」


 エルルさんの横の空中に、何か文字が浮かび上がっていますわ。


 文字は次々と現れては、凄い勢いで流れて行きますわ。


『エルルー!待ってたー』

『かわい〜』

『おはえるえるー』

『おはえるえるー』

『俺の嫁』


 なんでしょうこの文字。

 意味が分かりませんわ。


「ミズキ、この文字何ですの?」


「ん?ああ、これはチャットだよ」


「チャットとは?」


「んとね、わたしたちと同じ様にエルルの配信を見てる人達が、エルルに向けて応援のメッセージを送ってるの」


「メッセージ……手紙みたいな物ですの?」


「そうそう、チャットってのは、リアルタイムで手紙が送れるんだよ。スマホとかキーボードを使うんだよぉ」


「スマホ……ああ、さっきミズキにもらったあの四角い石ですのね」


「そうそう!試しに送ってみる?」


「やってみたいですわ。ミズキ、教えなさい」


「はいはい……えと、ここをこうして、こう」


「な……なるほどですわ……こ……ん……に……ち……は……なかなかに難しいですわね」


「ローズ様、上手いよ、その調子!」


 わたくしが打った文字を送信すると、エルルの横に浮かび上がりましたわ。


 でも、他のチャットがどんどん現れて、あっという間にわたくしの文字は流れてしまいましたわ。


「すぐ消えてしまいましたわ」


「そうだね。エルルの配信はとてもたくさんの人が見てるから、チャットの数も多いんだよね」


「文字が流れない様にする方法はないんですの?」


「んとね、スパチャって言う方法があるよ」


「スパチャ……とは何ですの?」


「スパチャはね、お金を払ってチャットするんだよ」


「お金……ですの?」


「そう。コメントは基本的に無料だけど、お金を払ってチャットを打つことも出来るんだ。スパチャしたコメントは目立つし、流れないで残るんだよ」


「こちらの世界も金が物を言うのですのね……」


「まあ、そうだね。スパチャの金額は自分で決められるから、無理しない範囲でやると良いんだよ」


「残念ですが、わたくしこちらの世界にお金を持ち込んでいませんわ……」


「まあ、わたしたちは別にスパチャしなくても……ローズ様、エルルと話したければ、後で直接エルルと話せるけどね」


「分かってますわ……でもちょっと試してみたいのです……ミズキ、お金を貸しなさい」


「なぜ借りる方のローズ様が上から……まあ良いよ。ローズ様にはちょっとだけサクラになってもらって……エルルの人気を考えたらそんな必要全くないんだけど……ローズ様にスパチャの体験をさせてあげるよぉ」


 そう言ってミズキ、スマホを取り出して何かを打ち込みましたわ。


「はい、ローズ様。わたしのスマホに千円入れたから、これでスパチャできるよ。ここに好きなメッセージを入れてみて」


 ミズキは自分のスマホをわたくしに渡してくれましたわ。


「さすがミズキ……どれ……こうですわね……」


わたくし〝えるるいいぞやっておしまい〟と打ちましたわ。


「……エルル別に戦ってるわけじゃないんだけど」


「何を言うのです。ミズキはさっき、ここは戦場と言いましたわ。なら、ここはやはりエールを送るのが筋と判断したまでですわ」


 ピコン……と音がして、わたくしの送ったスパチャがエルルの元に表示されましたわ。


 スパチャの文字だけ大きくて色も派手で、それに少しの間流れないで表示し続けていますわ。


 これがスパチャなのかしら。なるほど、このメッセージだけエルルに見やすくなるなんて、スパチャ、なかなか良いですわね。


 わたくし、目立つのは好きですわ。


 エルル、わたくしの送った文章を読んでいますわ


「えっと……エルル……やっておしまい?何これどう言う事……しかもこのアカ、マネちゃんからなんだけどー」


 エルルはわたくしの送ったスパチャを見て、笑っていますわ。


「……あ、私用じゃない社用携帯から送っちゃった……やば……後でチーフに怒られるぅ……」


 横でミズキが何か焦っていますわね。


 でも、新衣装のお披露目で少し顔が強張っていたエルルの緊張が和らいだ様に見えるのだから、わたくし達、きっと、良い事をしたと思いますわ……多分。

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