第10話 水飛沫

「あ、篤宏くん。いやあ、ちょっと体調が悪くて」


「文化祭の時のことまだ怒ってるのか?」


「いやいや、そんなんじゃない。しかもあれは私が悪かった。——こいつが悪い——ちゃんと話聞いてくれてどうしたらいいか言ってくれてたのに——無駄なことを喋りやがって——ごめんね」


「別に俺はいいんだ。あの時は俺も喋りすぎたよ、ごめんな」


「いいよ。というか一ヶ月過ぎてるのにまだ来てるんだ」


「余分に夕日見とけばその分効果が高まるかと思って!」


「……馬鹿みたい」


 二人の間に静寂が訪れる。夕日は海に暮れた。


「今日なんだか顔色が悪いけど大丈夫か?」


「うん、全然大丈夫。ありがとう。

——こいつが憎い——」


「そうか? 体調悪いなら帰った方が——」


「大丈夫だって! 

——こいつを海に落とせ——うるさい!」


「うるさいって、そんな言い方無いだろ」


「違うの、もう今日は帰って。私から離れて——お前の不幸はこいつのせいだ——

違う!」


「……おい、大丈夫かよ。変だぞ」



——落とせ——落とさない——殺せ——殺さない——殺すんだ——殺さない——殺すな——殺す———絶対に殺すな———絶対に殺す——



 気がつくと彼は暗くなった海に落ちていた。目の前で何が起こったのか思い出せない。現実を受け止めきれず、声にならない。心拍数が上がって呼吸が乱れる。息の吸い方を忘れて過呼吸になった。視界がふらついて足を滑らす。



 日が暮れた夜の海に水飛沫の音が響き渡った。


 

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声が聞こえる ちーそに @Ryu111127

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