第7話 文化祭2

 楽器を弾いたり歌を歌ったり漫才をしたり、この日のために暖めて練習してきた成果を披露していく。最後の漫才師がややスベリ気味に終わると、震えた「ありがとうございました」を合図に朝の出し物が終了した。


 体育館を出ると、設営されたレモンスカッシュのテントに向かった。テントではクラスメイトが私達を待っていた。普段学校で見る様子とは違って、皆浮き足立って見える。クラスの雰囲気もがらっと変わったみたいだ。


「ごめんごめん、みんな早いね!」


 春子が明るく切り出すと、クラスの輪の中に一瞬で入り込んでいった。遅刻魔と一緒に居るからじゃない? と、いじられたのが聞こえる。そんなことない! と、春子が強く否定すればするほどダメなやつの刻印を押されるような気がした。


「大丈夫よ、気にすんな! さあ準備準備!」


 春子に言われた通り、文化祭を楽しむために気にすることをやめた。


 それからテントで販売する班と、文化祭を回る班でそれぞれ二つの班に分かれた。まずは販売だ。春子と一緒だから大丈夫だろうけど、下手な失敗をしないように気をつけよう。


 作業をしていると比較的簡単なものになって良かったと思った。生徒や先生、同年代の私服の人もちらほら居た。おそらく他校の生徒だろう。


 太陽が真上に上がって美術部員で作った長岡東のうちわがそこらじゅうでぱたぱたと動き始めた。学校の周りから鶯の鳴き声がたくさん聞こえるから、と鶯をモチーフにしたお洒落なデザインが描かれている。


 気温が上がって忙しくなってくると、手を滑らせてお客さんに掛けてしまった。そのお客さんは国語の先生で、全然大丈夫だよ涼しくなった。と言ってくれたけれど、テントの後ろの方から感じる目線はそれと真逆に感じた。


 結局、盛大に失敗したまま私の班の出番は終わった。そんなこともあるって、と慰めてくれたけれどいろんな人に褒められていた春子に言われても心が軽くならなかった。そんな自分の考えも嫌になった。


 その後周った文化祭のことはあまり記憶に残らなかった。何かが美味しかった、何かが面白くて笑ったとかは思い出せても何を食べたのか、何が面白かったのかはわからなくなった。


 夕日が空を滑る帰り道、ふと頭をよぎった。


「今日も居るのかな、もうさすがに居ないか」


 少しだけ軽くなった足取りに身を任せてあの海岸へと向かう。


 いつもの海岸、いつもの場所に彼は座っていた。後ろからそっと近づいて話しかける。


「わっ! 今日も来てたんだ」


 驚いた反動で海に落ちそうになりながら、部活で鍛えた体幹を使ってなんとか一命を取り留める。


「うわ! なんだ斎藤かびっくりした……」


「なんだってなによ」


「ごめんって、あれから毎日ここに来て見届けてるからな」


「……ほんとに信じてるんだね」


 もちろん、と嬉しそうに笑った。それからは今日あったことや、だめだったことを話した。彼は一通り聞いて笑うと偉そうにアドバイスを始めた。私は不服に感じながら聞いていたけれど、途中で嫌になってそのまま帰ってしまった。共感してほしいだけなのに。


「そこがかわいいんだけどな」


 彼が話の最後に言った小さな一言は届かずに、波の音に紛れた。


 家に帰ると母は居なかった。代わりに妹が不機嫌そうな顔でリビングに座っている。


「また喧嘩?」


「知らない。あの人が勝手に出て行っただけ」


 話を聞くと、いつも妹の帰りが遅いことに母が怒ったらしい。今日は早く帰ってきたのに、と屁理屈を言っている妹を横目に散らかった家を片付ける。なぜこの二人は言い合いで終わらずに物が飛び交うのだろう。結局私が片付けなければならない。


 とりあえず家が片付くとベッドに潜った。悪いことは重なる。不運が知人を何人も連れて来ているみたいだ。いつものお気に入りの曲を聞いて気を紛らわせる。


「やっぱり良い曲だ」

——センスが無い——

「歌詞も真理を突いていて、心に刺さる」

——薄っぺらい歌詞だ——

「音楽もすっと耳に入ってくる」

——雑音にしか聞こえない——


 イヤホンを外した。






 

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