人間百景
てると
人間百景
朝の退屈に、散歩に出た。風の穏やかな青空で、外に出ると信号機は進めと言っていた。
道中の寺の池に蛙はいなかったが、金魚を眺めていると大口を開けて寄ってきた。
神社の裏手の公園の、木々の葉に覆われたベンチに座り、太宰治の『富嶽百景』を読んでいた。カルピスソーダを供にして。曰く、「わがままな駄々っ子のように言われて来た私の、裏の苦悩を、一たい幾人知っていたろう。」とのことである。
出立し、駅の方へ歩けば、朝の時間の人々が、鞄を手に、ランドセルを抱え、同じ方向に歩いていた。顔を見ると、だめだ、死んでいる。そう思っていたら、階段を上がってくる女子高生たちの賑やかな声があった。私の目に、もはや彼らは匿名の「近代人」ではなかった。
歩道を右側通行してきた自転車を避ける時、前を歩いていた小学生の集団に混ざった。その一瞬が嬉しかった。
小学2年生頃の男の子とすれ違うとき、下手に避けたが、彼からみて私は大人に映っているのだろう。違いますよ、私はあなたよりもよほど下手に歩いているのです、と伝えたい。
部屋に着いて郵便を見ると債務の取り立て会社からガス代の分を払うように通知が来ていた。ここに、生活がある。彼に、あなたに、生活が、ある。
人間百景 てると @aichi_the_east
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