第10話 黄昏の町の魔女二人(3)
「それで、なんでこいつらはこんなところで襲って来たんだ?」
「私もわからない……でも、もしかすると近いのかもね」
「まさか……こんなところに?」
尋ねるPKの手は、弾倉を交換している。
50発の弾が上下二列に横向きに収まった長い弾倉の交換は手間だ。
交換が手間だからこそ、いざという時に交換を必要とする状態は避けたいのだ。
アームをパカっと上に開き、挟まれた弾倉を取り出し予備のそれと交換し、位置を合わせ、再びアームを戻して上下から弾倉を挟む。
このあたり、抜いて予備を差し込むだけの弾倉に比べて著しい欠点だが、それでも50発という装弾数は魅力だった。
「意外に思う場所こそ安全じゃない?」
「そりゃそうだけど、よりにもよって……」
事前の打ち合わせで、南西地区は一番可能性が低いということになっていた。
北西の奥まったところにある怪しげな繁華街や、南東側のスラムのどこかにLWが潜んでいるという見込みで行動するつもりだった。
まさか、何も特別な施設がなく、普通の住宅が広がっている南西地区に彼がいるとは想像だにしなかった。
「だって、どう考えても浮くだろう?」
「そうね、でもそれも込みの町の仕組みだとしたらわからないわよ」
「それもある……のか?」
頭の中に、一般人が暮らしている中を先ほどのギャングじみた連中がうろうろしている場面を想像していたが、LWの配下たるギャングは人間ではないから普段から表に出て生活している必要は無い。
いや、それを言うならこの町の一般人も同じなのだが、それはZZZの管轄で、普通の生活をさせている。
「……ったく、どんな確率だよ」
この町は、実はそれほど狭くはない。
城壁に囲まれた範囲は、東西、南北共に3kmほど。
恐らく数万人が暮らしている町の中には、公園もあれば川も流れており、全面に建物が立っているわけではない。それでも建物の数は4桁はあるに違いない。
その中で、ピンポイントに、それも町に出た初日に、LWの本拠地の近くに行きつくなど、どんな幸運だというのか……まだ確定ではないが……
「なあ、お前、運命改変とかそういう能力無いよな?」
ふと思いついたPKはそのようなことを尋ねる。
返答は簡潔に、
「無いわよ」
そりゃそうだ。
運命改変や幸運の引き寄せなんて能力を持っている魔女がいるなどという話は彼も聞いたことが無い。
「で、どうするの?」
「そりゃあ……」
PKは現状の戦力を考える。
P50は今装着したものの他に満タンの弾倉が2つある。
彼の能力を駆使すれば3桁の敵を倒すことができる。
それに加えて切り札のリボルバーもある。
そしてもう一つのサイドアームも問題ない。
――PCの奴の方は……問題なさそうだしな……
彼女は、大勢の敵を肉弾戦で一掃した――その数はPKの側と同じぐらいの人数に思えた――にもかかわらず、ケガらしいケガもなく、服装に汚れすら無い。
追加の武器が入っているらしいリュックもそのまま、口を開けることすらしなかったようだ。
――ならば……
「問題ないだろう。このまま300年の因縁を解消するぞ」
「正確には345年だよ」
「細かいことはいいじゃねえか……それと今まで犠牲になった魔女たち、そして……」
――そして……なんだっけ?
「魔女たちの仇打ち、だね?」
「そ、そうだ……うん、そのためにLWを殺すぞ」
「うん、頑張っていこう」
こぶしを打ち付けて気合を入れる二人。
そして、二人はどちらともなく、足を運ぶ。
路地裏のさらに横道、そしてさらに水路に降り、地下を通って、階段を上がり、隠し扉を発見して、そして……
「ん?」
ふと、それまで心の奥底でどこか引っかかっていたことが、道を進むにつれてだんだん大きくなり、ついにPKには無視できないほど高まった。
「どうしたの?」
「いや……なにがどうとは言えねえんだが……」
ここまで進む道中、やはり襲撃はたびたびあった。
遠い敵は銃で仕留め、近づいた敵は人体変形で倒す。
二人の魔女が連携して、ここまでうまくやってきた。
敵を握りつぶしたりした割に、汚れが全く付着していない相方は不思議だが、それは今更だ。
だから違和感はそれではない。
――おかしいよな? いや、何がおかしい?
何も問題は無いはずだ。
――いや、本当に?
「なあ……運命改変とかは持ってないんだよなあ」
「持ってないよ。さっきも言ったでしょ?」
「じゃあ思考誘導は持ってねえのか?」
「持ってないし、誰もそんなものをあなたに使っていない。なんだったら魔女の釜に誓うよ」
人が神に誓うのは、神が生の苦痛の運命、死の宿命に関わるからだ。
したがって、魔女が誓うのは自身の生死に関わる魔女の釜に対してだ。
それを魔女が宣言したからには、虚偽であれば命を賭けるということを意味する。
彼女は続ける。
「事情は知っている……釈然としないということも……でも、LWを倒すまで、じゃなくてLWの前まで出られればその時には必ず話すわ」
なるほど、何かPK自身が知らないことが裏で動いているということか……
所詮、達人の能力を切り替えて再現できる程度の能力を持つ程度で、上位陣に比べれば戦闘力も大したことのない自分がこの大役に選ばれたことにも何か理由があるのだろう。
――おや? 俺はなんで拒否しなかったんだろう?
滅びの恐れがあるのに、それを顧みることなしに自分がこの場にいることが、急に不思議に思えてきた。
そして怖くなってきた。
――俺は、死を望むほど擦り切れた魔女では無かったはずだ
大概の魔女は、「死にたくない」からこそ魔女になった。
中には自然にそう「なってしまった」者もいるが少数派だ。
――自分も……あれ? 自分は……どうだっただろう?
やはり、思考誘導でもされているような不自然な状況だ。
記憶に抜けがあるように思える。
「次が来たわよ!」
そうだ、考え込んでいる場合ではない。
PKは、とりあえず棚上げにすることにし、敵に対処すべく、モードを切り替える。
『モードチェンジ、シューティング』
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