黄昏に影を落とす
第8話 黄昏の町の魔女二人(1)
ヴァルプルギスにおいて、魔女が不死性を失うのは単に期間だけが条件ではない。
もし仮に期間だけであるならば、今『対策本部』においてMMがKGを殺すこともたやすいだろうが、そんなことにはならないし、だからこそ、KGのような戦闘向きでない魔女が駆けつける気にもなったのだ。
時間だけ、でなければ空間も、ということになる。
ヴァルプルギスでは戦域が指定されており、その内部だけで魔女は殺し合いができることになっている。
そして、その戦域のことを魔女の釜、あるいは単に釜と魔女たちは呼んでいる。
今回の第38ヴァルプルギスに関していえば、戦域に指定されたのはある町とその周辺半径数十キロにわたる領域であり、その町も、周囲の森や荒野も、現実の地球には存在しない、ヴァルプルギスのためにあつらえられた異空間だ。
そして、その町こそが二人の魔女が拠点を構える黄昏の町となっている。
「で、どうしようか?」
「さてね……まあ、俺も過去に経験があるわけじゃねえし……とりあえず騒ぎを起こすか……あるいはこっそり調べるか……」
さすがに室内だけあって、帽子も外套も脱いだ軽装のPKは、リボルバーを分解し掃除する手を止めずに答える。
窓から差し込む夕日にかざして確認しながら、銃身を磨いている。
――おや、こんなところに傷があったかな?
PKは手拭いでごしごし銃身をこするが、その傷は薄くはあったが、依然としてそこに残っている。
「ちぇっ……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもねえ」
大事に扱っていたつもりの愛銃に傷がついていることに、少し気分を害しながら、PKはリボルバーを再度組み上げる。
手になじんだ愛銃をくみ上げるのに、さほどの時間は必要としない。
カチャリ
最後に弾倉であるドラム部分を本体に納めると、PKは銃をテーブルに置いた。
「はい」
そこで相方の女性が、コーヒーの入ったマグカップをPKに手渡す。
「ああ、すまんな」
それを受け取り、砂糖とミルクがたっぷり入った甘いコーヒーを飲む。
なお、女性がもう片手に持ったマグにはブラックコーヒーが入っている。
人形の身体では不要だろうに、ダイエットを意識しているのだろうか?
「それで、もし決めかねているなら、ちょっと町に出てみない?」
「情報収集ってことか?」
「まあ、そんなところ。いきなり殴り込みっていうのも芸がないと思わない?」
「そうだな……」
PKは、そのほうがいいか、と考える。
今までの、彼ら二人の先任にあたる魔女の中にはもっと強い者たちもいた。
それで通用しないということは、騒ぎを起こして殴り込みというのはうまくいかない可能性が高い。
そして、町の中にいると知られていても、LWの居所をピンポイントで見つけるのは難しい。
ならばわざわざ怪しまれるような、こそこそした動きも逆効果ということだろう。
現在町の中にいる人は、一部がLWの作り出した配下。
当然闘争の魔女の配下なのだから、基本は銃を持った裏社会の所属だ。
そしてその他大勢の一般人は、ZZが作り出した夢の住人。
その意味で、ZZの一般人に紛れ、LWの配下の目を逃れながら情報収集するのは理にかなっている。
「確かに、相手の戦力は強大で、俺たちでは手に余る可能性もある。正面切って殴り込みは失敗しそうだな」
「じゃあ行こう……昼ご飯を外で食べるのもいいんじゃない? あ、一応武装は完璧にしておいてね」
「必要か? ただの情報収集だろ?」
「いつ何時バレて襲われるかわからないんだよ。用心のため……私だってちゃんとリュック持っていくから」
彼女のリュックは単に女性の身だしなみのためにあるのではない。
中には彼女自身が使う武器が入っており、軽々と背負っているが実際にはとても重い。
普通にどこにでもいる大学生のような容姿と服装をしているのに、物騒なことだとPKは思う。
「しょうがねえな……」
PKは、卓上のリボルバーに弾を込め、その他バックアップのいくつかの銃器と予備の弾薬、弾倉を納めてかなりの重量になったダスターコートを羽織る。
壁のランプのスイッチを消し、部屋のカーテンを閉めて夕日をさえぎる。
「じゃあ行くか」
「うん、いよいよだね」
「いよいよ?」
「ううん、なんでもない」
なにか引っかかるものを感じながらも、PKは鍵を手にする。
そして二人は連れだって、拠点を後にするのだった。
相も変わらず夕日が町を照らしていたが、そのタイミングで響いた鐘は3回。
町の定めた時刻としては、正午ということになる。
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