第7話 屋敷にて魔女が語られる
「そうだね、結局倒されたのは『闘争の魔女』ということになる」
「名前を聞くだけで強そうですけど、それを倒したのが相手の魔女ということになるんでしょうか?」
「いや、『死霊の魔女』は最初から最後まで表に出てこなかった」
紳士は酒ではなく、水の入ったグラスを手にしている。
「では、外から来た魔女が倒したんですね」
「そうだな」
「何人で行ったんですか?」
「結局は二人……だな。まあ、それまでにかなり返り討ちにあったが……」
「大変ですね……そんなに減ったら」
「なに、そうでもないさ」
情報を吟味して話しているので、若干言葉が少な目だ。
これ以上酔わないようにしているのも、失言を警戒してのことだ。
「元々、最初の魔女が生まれ、そして徐々に数を増やしてきたんだ。
「そういうものですか……」
「それに、今回事態を解決した二人は、どうやったら死ぬのかすらわからないしね。今後科学が発展していったらそういうのが増えるんじゃないかな」
「人間以外が魔女に……ですか」
最初に聞いた時、青年は信じがたいと思った。
21世紀に入って20年が過ぎても、いまだに人間として扱えるようなAIは生まれていない。
限定的な状況で人間と見まがうような応対をするAIは存在するが、それをもって相手に人格を認めるということには至っていない。
それが、科学とは全く別方面である神秘の領域から、人間以外の人格が生きて動いているというのは、それこそまさに神秘のなせる業ということだろう。
「その二人についての詳しい話はお話しいただけないんですね」
「そうだね。現在生きている魔女についての情報は、弱点を含む可能性があるから話せない。君が魔女になれなさそうだということを含めても、その情報がどこかに存在するということは危険だからね」
そこはきっぱりと拒否する紳士。
「もしかして、普通は魔女はお互いの能力について知らないことが多いんですか?」
「そう、まさにその通り。今回私がいろいろ知っているのは、『対策本部』で仕事をする関係で知りえた情報だからね。本来はよほど親しくても魔女同士は能力を知らないことのほうが多い」
あ、と何かに気づいた様子の青年。
「じゃあ死霊の魔女についてもまずいですかね?」
「ああ、あの人は例外だね。多分死霊を使う、というぐらいしか知られていないし、本人が聖水や十字架に弱いかどうかもわからない。それに今回350年生き延びたことで、滅ぼすことなんてできないんじゃないかと思えてくる。彼女に喧嘩を売る魔女は、未来永劫いないんじゃないかな」
数百年という期間、狭い魔女の釜の中で生き延びた不死性は、魔女業界に轟いていくだろう。
「だとすると、どうやって倒したのかもお聞きできないですね……」
「そうだね。それに私も詳しいことは知らないんだ。伝え聞きだからね」
「ご本人から?」
「いや、諜報担当の魔女がいるのだ。その魔女から聞いた」
「なるほど、やっぱりそういう人はいるんですね……」
結局、詳しいことは紳士自身には知らされていない。
『対策本部』などに出入りしている魔女たちと、彼は疎遠だった。
だから話せることも少ないのだが、ないない尽くしでは話が続かない。
このあたりで切り上げてもいいのだが、まだ青年は元気そうだし、紳士自身としても久々に決まった面々以外との会話ということで、ちょっと名残惜しい気分だった。
「じゃあ、今回の一件の解決に多大な貢献をしたある魔女のことについて話してあげよう。犠牲になった人だから、このまま忘れられるよりも、どこかで語り継いであげたほうがいいかもしれない」
「亡くなった人なんですね。お悔やみいたします」
二人で杯を掲げて黙とうする。
「その魔女は……『人形の魔女』と呼ばれる人でね。直接の面識は無いんだけど、非常に強かったらしい」
「人形を、使うんですか? マリオネットみたいに操って」
「いや、『ナントカの魔女』という言い方をするときは、それが本人の不死性に連なっているのが普通だ。だから、彼女は人形によって寿命を超越したんだよ」
そういう言い方をされると、青年にも想像がついた。
「もしかして、人形に乗り移って生きている、ということですか?」
「生きていた、だね。今となっては……」
人形の魔女が乗り移る人形は、それこそ生きていると言っていいぐらいの再現度を誇る。
飲食はもちろん、呼吸も睡眠も人間と同じように行い、生殖こそできないものの、行為事態は可能だと伝えられている。
飲食にしても、ちゃんとそれをエネルギーにして動くことができ、魂が入っていないことをのぞけば人体と区別が付かないほどだったそうだ。
そして、その腕を見込まれて、作った人形を他の魔女に提供することもあったそうで、彼女の死は魔女業界でも大きな損失として受け取られている。
「だけど、単に人間にそっくりというだけじゃないんだ。彼女の人形は、自由自在に体の大きさや形を変えて、敵を攻撃することができるらしい」
「すごいなあ。そんなの最強じゃないですか……手を刃物にしたり、大きくして敵を握りつぶすなんてこともできそうですね」
「実際にやっていたらしいよ。人形の魔女本人はそれを得意とした戦闘力の高い魔女と言われていたんだけどねえ……」
それからひとしきり、人形の魔女の話を聞いた青年は、満足してお礼を言い、客室に引っ込むことになった。
「やれやれ、目がさえてしまったな……」
屋敷の主人は、もう少し一人で久しぶりの夜に浸ることにし、改めてブランデーの栓を開けた。
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