第6話 対策本部の新入り
「しかし、ぴったりの人材がいたものだな」
「ええ、人間以外から魔女に至った者など、歴史上を紐解いても1桁でしょう」
「それが二人か……彼らでダメなら難しいだろうな」
切札ともいえる二人を魔女の釜、黄昏の町に送り出した『対策本部』で、MMとPPが話している。
「あのう……」
大魔術師と猫の会話に割り込んだのは、年若い少女だった。
当然動けている時点で魔女となる。
「何でしょうか?」
「今までの魔女の皆さんはどうして失敗したんですか?」
少女の疑問はMMとPPにとっては当たり前のことだった。
だが、この少女、KGにとっては当たり前ではない。
『蒼月の魔女』KGは、その性質上、常に存在できるわけではない。
1年に1日だけ存在を許された魔女であり、そのため精神的には本当に少女のままなのだ。
そして、その年1回というのは10月23日ではない。
したがって、ヴァルプルギスが終わったら彼女はまたこの世から消えてなくなるのだが、彼女の性質とヴァルプルギスの「魔女だけが動ける」権限では後者のほうが優先されるようで、自由に動くことが出来ている。
しかし、そのことに気づかなかったKGは、ここまでの345年、ずっと存在できないと思い込んでいた。
思い込み、と侮るなかれ。
魔女の思い込みは、それ自体が力を持ちうるのだ。
そんなわけで、KGは自分が動けることに遅ればせながら気づき、そして旧知であったMMの『対策本部』に馳せ参じたわけだ。
だが、当然目覚めたばかりのため、それまで345年積み重なった試行錯誤については無知であった。
「そうだね、まずVLを殺し切るのは難しい。ヴァンパイアの性質を持つ上に、本人が隠れているし、配下もたくさん従えている。ゾンビやスケルトンしか表に出ていないが、もっと強力な死霊も手ごまに持っているのはほぼ確実だ。過去に戦闘向きの魔女が行って帰ってこなかった。彼女がその時点で最高戦力だったんだけどねえ……」
「惜しい人を亡くしました」
PPが嘆く。
「え、私の知ってる人ですか?」
「CRさんです。南米出身の……」
PPから告げられた魔女名は、KGにはなじみの無いものだった。
――だからといって、良かった、と言うのも違うし、魔女の人たちが死ぬのは悲しい
うつむいたKGを見て、MMはいったん話を切り、脇のポットから急須にお湯を入れる。
MMは魔女界の重鎮であるが、魔術の探究者であり、隠棲者なので身の回りのことは自分でやる癖がついている。
飲み物の好みはこの345年間で数えきれないほどローテーションされていて、今では何百回目かの緑茶期間に入っている。
湯呑みから茶をすすり、KGの様子を見て話を続ける。
「VLは無理、としてLWになるんだけど。こちらは結構いい線まで行ったらしいんだ。だけどどうしても最後にやられてしまう。正直、VLはさっき言った一人だけだけど、LWには数十人……」
「厳密には23、いや24人ですね」
「そんなに……」
「そう、そんなにやられている。正確には把握できていないけど、もう生きている魔女は100人を切ったんじゃ無いかと思う。時代的に言うと17世紀ぐらいの水準だね」
魔女は最初は一人、そして徐々に数が増え続けている。
もちろん、短期的には減るときもあるのだが、長い目で見れば右肩上がりになっており、21世紀に入った時点で120人を越えていた。
「厄介な能力をお持ちなんでしょうか?」
「そう、調べた限りでは闘争本能に飲まれるらしい。大暴れしてしまうそうなんだ」
「それって、私とかでもですか?」
「うん、能力に因らず、一律らしい。そして、戦闘力の高い魔女は破壊の限りを尽くして自滅、低い魔女はLWの配下に殺されてしまうということが分かった」
「破壊の限り……それでも無理だったんですね」
「そうなる。いまだにヴァルプルギスが継続していることがその証拠だね。主催者から一人死なないと終了条件を満たさないから……」
「そう……ですね……」
KGと他の魔女ではちょっと事情が違う。
MMとPPはもはやうんざりしているが、KGとしては久しぶりに長時間動ける今の状況は、できるだけ長く続いてほしいという気持ちがちょっとある。
そうはいっても、そのために人が死ぬのは良くない。
KGは一般的な倫理観を持ち合わせていた。
MMは話を続ける。
「で、その抜け道が一つだけ見つかった」
「それも犠牲あってのことなんですが……」
「そうなのだが、今は置いておこう。ともかく、人間であればLWの能力に対抗するのは無理だった。そこで人間以外の魔女であればLWの影響を受けないことが分かったのだ」
「さっきもおっしゃってましたけど、そんな魔女の人がいるんですか?」
KGはずっと存在するわけではないので魔女業界のことには詳しくない。
見知っている魔女、うわさに聞いている魔女だけでも全体の半分にも満たない。
魔女としてのあり方が人外であるというのは何人か知り合いにいるが、人間以外が魔女になりうるというのは初めて知った。
「いるんだよ。ま、数は少ないがね。そして今回は二人共に人間でない魔女だ」
「一人はなりたてですけどね」
猫のPPが口をはさむ。
「ちなみに、魔女名はなんていう人たちなんですか?」
ここで、MMはちょっと言いよどむ。
PPと意味ありげに視線を交わす。
傍目に見たら青年と猫が見つめあっている光景だ。
「……ああ、一人はPK、もう一人はPCという……今のところは……いや……」
MMのその言葉を耳にしながら、PPは思う。
――PKとPCか……尊い犠牲の冥福を、せめて私は祈らせてもらいますよ
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