三十一文字で辿る一年(二十首連作版)

四辻 重陽

二十首連作

初雪に圧され倒れた枯れ尾花雪は融けても立ち上がり得ず


疾く過ぎる日々の流れは風のよう寒空の下一人佇む


吹き荒ぶ春の嵐は雪混じり不香の花が春分に舞う


本年も呼ばずとも来る杉花粉薬頼みで日々を乗り切る


雨を得て何処からとなく鳴く蛙いずこへ潜み鳴いているやら


桜木を雲か霞か見間違う散り行く花はさながら雨か


天を突き松の新芽が伸びていく切るには困る方向ばかりに


蛙鳴き最早初夏とも思えども未だ春先夏は遠きに


薄紅の朝焼けに鳴く鳥一羽夜通し鳴いた蛙は何処へ


蝉時雨夏の暑さを示しつつ入道雲の涼やかさを見る


雨の中薄暮に鳴いた蜩は知るか知らぬか何か思うか


絶命の悲鳴を上げる油蝉途切れた声は夢幻か


鈴虫の鳴く丑三つに出歩きて無人の街で影と戯る


暗がりに響く雷鳴雨の音夏の終わりの集中豪雨


見上げれば雲一つない青い空雲と紛うは沈む弦月


数多飛び夜を先取る蝙蝠は行きつ去りつつ夕闇を引く


蝉は去り代わりて鳴くは秋の虫時は静々流れゆきつつ


秋空の空に棚引く墨流し明けの絵筆に白く塗らるる


吹く風の寒さわからぬ酔い歩き月は白銀宵の空にて


一年の終わりに思う無為の日々酔いて過ぎ越し夢に佇む

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