過去の精算と橙の過ち

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「....」


「お久しぶりです....師匠」


「ああ、久しぶりだな」


俺の目の前に座る橙の髪色をした筋肉モリモリマッチョマン


橙 またの名をカイゼル


理事会に所属している色付きの1人だ


「今日ここに来たのは他でもない 過去の精算だ」


「ッ!!」


カイゼルの顔が強ばる


「綾華 今から話すことはお前の過去に深く関わることだ...大丈夫か?」


「...大丈夫 カバネが居るから」


「...ありがとうな 見てわかる通りこの子は...お前ら理事会の非道徳な実験によって生み出されたの1人 綾華だ」


「....」


「お前らは5年前のあの日 第2次魔獣氾濫にて実験によって生み出した少年少女達のクローンを戦わせた 俺が戦場に到着した時は...魔獣とあの子達の屍だけが転がってた そんな中 唯一生き残ってたのが綾華だ」


「俺はあの戦いで犠牲になった子達とかなりの頻度で会ってたんだ 理事会が保護した子供達 って聞いてたからよ 料理作ってやったり 本を読み聞かせてあげたり...その時まではただの少年少女だと思ってたんだよ」


「綾華もその中に居てな よく俺の料理を美味しい美味しいって言って食べてくれてたよ」


「ん....カバネの料理はあの時から美味しかった」


「だがな...あの時唯一生き残ってた綾華の目は...何も映してなかった 絶望していたよ」


「...気づいたらみんな死んじゃってた 毎朝起こしてくれたおにいちゃんも 朝ご飯を作ってくれたお姉ちゃんも いつも後ろについてきてた妹も...みんな...」


カイゼルは唇を噛み締め手を血が滲み出るほど強く握りながら言った


「...本当に申し訳ございません 腐った上層部も...その行いを止められなかった私も 全て悪い...綾華様が望むのであればこの命も差し出します」


「...いらない 貴方の命でみんなが戻ってくるなら奪う でももうみんなは戻ってこないから」


「ッ...本当に...申し訳ございませんでした...!!」


カイゼルは泣きそうになりながら頭を勢いよく下げる


「...ならみんなの名前が載った慰霊碑を...立てて」


「はい‥絶対に」


「...それに少し貴方たちにも感謝はしてる」


「ッ...!?」


「みんなが死んだことは許せない でも貴方達が私達を生み出してくれなきゃカバネやみんなに出会えなかった それだけは感謝してる」


「...少し席を空けてもよろしいですか‥」


「五分だ」


「ッ‥.ありがとうございます」







「...大丈夫か?」


「...うん」


「...あの子達が死んだのはとても悲しく酷い記憶だったはずだ」


「...うん 今も時々みんなが居たらな って考える時がある でも‥.皆が居ない分 私は楽しく後悔しない生き方をして...天国でみんなに話すの、こんなことがあったんだよ って」


「...そうか ならちゃんと楽しめよ 俺ができることならなんでもしてやるからよ」


「...ん、カバネ ありがとう」


「...おうよ」




**********





「いきなり席を空けてすいません...」


少し目元が腫れてるカイゼルが戻ってきた


「大丈夫」


「気にすんな それで...さっきとは別に話がある」


「...はい」


カイゼルは俺からなにか感じ取ったのかキリッと真面目な顔になる


「俺はまた戻る」


「...それがどういうことかご存知で?」


「ああ、戻る理由はこの先恐らく聖魔大戦より酷く第二次魔獣氾濫より規模のでかい何かが起きる 」


「...それは真ですか?」


「お前さんも分かってるはずだ 各地の魔力濃度が高まってること 特異個体イレギュラーの報告が増えてること」


「...確かに何かの兆しに思えますね」


「だから表舞台に戻るために協力してほしい」


「勿論です それで何をすれば?」


「まずあの所長マッドサイエンティストに連絡だ 作ってもらいたいものがある」


「わかりました」


「それと今年の探索者武闘祭に参加する」


探索者武闘祭 所長が作り出した仮想区間システムを使って戦う大会だ


色付きや金剛級でも本気で戦える貴重な機会


何より探索者の実力把握と本気での戦闘慣れの目的があるため色付きは緊急でないかぎり参加は義務である


「なるほど...どういった形で参加を?」


「それは...」











「承知しました では所長と連携して進めます」


「ああ、頼む...表舞台に戻った時には...お前も俺の店に飯でも食いに来い 」


「ッ!!はい!!」



そう言い 俺達とカイゼルは別れた






「...これから俺は忙しくなるぞ 綾華」


「ん...理解してる だから それまではもう少し...一緒に居よ?」


「...ああ 勿論だ それと今日の夜ご飯はオムライスだ」


「ん!!卵ふわとろ!」


「あいよ 楽しみにしとけよ」


そんな会話をしながら 俺達は店に帰った





*******


「...師匠 あの人が今生きてると他の方が知ったら...どうなるのでしょうか」


聖魔大戦以来 私達色付きは1人の恩師を自らの手で消した


誰も悪くなかった ただ状況があまりにも悪すぎた


蒼翠紅を除いた色付きは全員洗脳され認識を改変 あの人を敵として認識してしまった


私達が全力で殺しにかかってきたのに対し


あの人は本気を出すとは言っていたものの私達を殺さないように無力化を狙って動き続けていた


白は病んで教国に籠り

灰は音信不通

紫は狂ったように魔獣討伐に赴き

空は前まであった明るい笑顔をみせなくなり

黒は彼と出会う前のように無表情無言無情のいう状態に

蒼は彼が死んだという事がトラウマになったのか男性に近づけなくなった

翠は自身の能力を使って彼を再現するという狂った所業に走った


他にも彼のお世話になった金剛級達も問題が起きた


それほど彼の死はあまりにも重すぎた


そして私達は己のした所業を悔やみながら二度と罪を晴らし彼に会うことが出来ない絶望に包まれ終わるはず...だった





5年前・・・・





「...久しぶりだな カイゼル」


「貴方は...な、何故...」


ある日 理事会にて執務をこなしていた私の前に突然姿を現した彼


死んだと思っていたのに


いや...確実に死んだ瞬間を見たのに


彼は今ここにいる


「俺が何故生きてるか についての言及は聞かねぇ 俺はてめぇら理事会に怒ってんだ」


再会したばかりとは思えないほど冷たい口調で彼は言った


「あの子達を自らの欲の礎にしたこと...許さねぇからな」






そこから 私は彼に強制的に人気の無い場所に連れられ


「この馬鹿野郎が!!」


頬を思いっきり殴られた


「お前の持つ盾は何のためにある!!!?理事会の屑と一緒に甘い蜜を啜るためか!?それとも全く罪の無いただの子供だったあの子達を犠牲にする為か!?」


「ッ...」


そこで私は愚かながらも自分のした行いを理解しました...あまりにも残酷で人として有り得ない事をしたのだと


「俺はお前さんにその為に盾の使い方を教えた訳じゃねぇ...盾ってのはな...誰かを守る為にあんだよ...俺に教えをこいにきた時のお前はどこに行った!?」


『お願いします!!俺に...俺に戦い方を教えてください!!!』


『...なんで俺に教えをこいに来た?』


『貴方から学ぶのが1番早く強くなれて...大切なものを守れるからです!!』


『...ふっ、良い目をしてるな 覚悟してる漢の眼だ 良いぜ だが俺が教えるからには地獄を見るほど扱いてやるからな 覚悟しろ』


『ッ!!はい!!ありがとうございます!!!』


脳裏に走るのは彼に弟子入りした時の記憶


そうだ


私は何のために戦い方を知った


何のために盾を使っていたのか


大切なものを 人を守る為に得たのではないか


気づけば私は涙を流していました


「泣くんじゃねぇ...本当に泣きてぇのは死んだあの子達だ お前がやれることはただ1つ あの子達への贖罪も兼ねて理事会の粛清 二度と私腹を肥やす為に犠牲が出るような事が行われないようにしろ」


「...はい....絶対に...」


「...以上だ 次 てめぇら理事会がまた何かやらかした時...俺はてめぇらを よく肝に銘じとけ」


彼はそう言い残し去っていきました


「...こんなとこで泣いてる訳にはいきません...私がしてしまったことの贖罪の為に いや贖罪にすらならない...これは一種のケジメです」


私は秘密裏に理事会の大粛清を行い 毎夜 死んでいってしまった子供達への懺悔をするようになりました


「...私の罪悪感を紛らわせるため あの子達では無いのは理解してますが...少しでも幸福になれる子供が増えますように」


そう願い 私財を使って様々な孤児院にお金や物資を無償で援助しました


ですがそれであの子達が戻るわけではない


私が死ぬまで 私はあの子達へ贖罪を続けるでしょう




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え?重い?そりゃあなぁ!!!書いてて辛いもん...

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