閑話 白と灰の独白

2468年 神聖フレデリカ教国首都 聖地ミストガルズ 大教会


「......‥...」


白き聖女が祈りを捧げる


純白の天使でもなく彼女らが崇める主神でもない


この祈りのときだけは彼女はある人物に祈りを捧げていた


『こんにちは こうして顔を合わせるのは初めてか?』


彼と初めて出会ったとき


『お前さんほんとに箱入り娘なんだなぁ んじゃ俺が色々教えてやるよ』


彼に教わった様々な事


『お前さんが聖女なのは理解してるが...その主神の言葉ばっかり信じて幸せなのか?』


彼に私の中で密かに生まれ始めてた疑問を問われた時


『お前さんに話すのもあれだが...俺は神話とかで語られる神を信じてない 本当にそんな神がいるってなら...こんな理不尽な世界もあるわけがないし全員が幸せになれるだろう...それに神ってのは完璧が大好きだ 自然のシステムや現象 生命の起源 全部神業と言えるほど完璧だ だからこそ神がいるなら...俺等人類って種族はこの世に生まれるはずがねぇ』


彼の思う事を聞いた時


『悪ぃな...お前らに...人殺しなんて経験させて....お前らが自分の意思でやってるのか...それとも強要されてやってるのかは分からねぇが...どうか俺のことは忘れて...幸せに生きてくれよ...』


そして寂しそうで..苦痛に耐えながら無理に笑顔を作ってそう言い残した彼を殺してしまった時


自分が犯した所業や彼の言葉を思い出しながら独白する



「...見て..くれていますか 私は今 純粋な主神を崇める民が集うようになり腐敗が消えた聖フレイヤ教の先頭に立っています」


「あの日の愚かな私がしてしまった過ち それにずっと懺悔しながら後悔しながら 自分を憎しみながら...あなたに祈りを捧げています どうか どうか...安らかに...」


「かつて私が犯した穢らわしい所業‥.英雄であった貴方を殺してしまった事...例え私が洗脳されて行った罪だとしても..この命を全うしたら私は喜んで地獄に行きましょう」


そして今日も そしてこれからも白き聖女は祈り続ける 己を導き育ててくれた愛しい者へと 裏切り殺めてしまった彼へと






*********

2468年ルルシア帝国?????


「...貴方様が死んでからもう十年が経ちました」


手に持った写真を見ながらそう呟く


「貴方様は私に希望を 生きる意味を与えてくれた 絶望のどん底にいた私に」




『お前さんは子供なんだから大人に甘えておけって』


『無事に卒業したか...俺は嬉しいぜ...今日はパーティだ!!お前さんの好きなもん全部作ってやる!!』


『なぁ...俺はこの戦いで死ぬかもしれない それはお互いだがな だが仮に俺が死んだとしたら...お前さんは幸せに生きてくれ』


そう言い彼はあの戦いで死んで行った...いや私達が殺した


「...貴方が居ないと...貴方が居る日常が無いと...私はこの先幸せになれませんよ....」


あの日の大戦の悲劇


誰も悪くなかった


みんな消耗してる中で普通の色付きなら効かない洗脳が効いてしまった


聖フレイヤ教の主神すらも一時 洗脳していた邪神によって私達自らの手で彼を殺した


抗えたはずなのに 今思えば簡単に抗えたのに...


白は異端と認識してしまい


紫はただの敵


黒は暗殺対象


空は仇敵


そして私は憎むべき魔獣


その場に居た色付き全員が彼の認識を変えられた


違和感はあったはずなのに


「...あの時 簡単に洗脳され彼を殺めた私が憎い...彼は私に多くのものをくれたのに...私は仇で返した」


「謝っても許されないこと...」


あの時の彼の動揺した顔


絶望した視線


そして死ぬ直前に言い放った彼の遺言は私を生へと縛った


「...私は...どうすれば良いのですか...」


死にたいのに


生きてる価値なんて無いのに


貴方様の遺言が私を生かしてしまう


どんなに死のうとしても直前で貴方様の言葉が脳裏に過ぎる


償う事さえ出来ない


これはきっと罰なのだろう



貴方様を裏切った愚かな私への罰


私の寿命が尽きようともこの罰はきっと終わらない


むしろ終わってはいけない


私が報われてはいけない


「...」


今日もまた罰が始まる




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