第5話 距離が縮まる?

 スーパーでの買い物を終え、俺とアイは再びメガネ店に向かう。店員さんは「気になる事があったら、いつでもお越し下さい」と言ってくれたし、力になってくれるだろう。


今回の件はメガネよりAIがメインだから、店員さんの専門外かもしれない。もし迷惑をかけてしまったら、になってお返しすれば良いよな。



 メガネ店前に着いたところ、ボンヤリしていたアイが辺りをキョロキョロする。


「あれ? またここ?」


「ちょっと用事ができたんだよ」


「ふ~ん」


…店内に入ったところ、お客さんはさっきと同じく誰もいない。店員さんも変わらずか。


「お客様、先程調整したメガネに不具合がございましたか?」


俺の元に来た彼女は心配そうな様子を見せる。


「いや、そうじゃないんです。実はAIの事で相談がありまして…」


「AIの事…ですか?」


「はい。実はここに来る少し前に、このメガネを手に入れたんです。彼女は俺にとって初めてのAIになるんですが、相談できる人がいなくて…」


友達がいない俺にとって、相談はハードルが高すぎる。


「そうだったんですか。しかし私はAIに関してはまだまだ勉強不足で、お客様のお力になれるかどうか…」


「そんな難しく考えないで下さい。話を聴いてもらえるだけでも助かるので。お客さんが来店するまでお願いします!」


邪魔になりそうならさっさと退散するまでだ。


「…わかりました。お客様の相談に乗らせていただきます」


「ありがとうございます!」

店員さんの気が変わらない内に話すとしよう。



 「実は俺のAI、“アイ”って言うんですが、彼女が駄々をこねちゃって…。歳の設定は10歳ぐらいにしてるんですけど、一体どうすれば良いか…」


「そのあたりの歳の女の子は苦労しますよね。私も娘がいるのでわかります」


「店員さん、娘さんがいるんですか?」


こんなにキレイな美魔女だ。結婚していてもおかしくない。


「はい。高校1年になるんですが、あの子が10歳ぐらいの時はワガママばかり言って大変でしたよ…」


「そうだったんですか。じゃあどうやって、娘さんの機嫌を取ったんですか?」


「私は厳しくするのが苦手なので、娘にを直接訊いて叶えました。すぐ機嫌は良くなるものの、飴と鞭のバランスが難しかったです…」


甘やかす事だけが教育じゃないから、店員さんも苦労したはずだ。両親も俺の教育に悪戦苦闘したかもしれない。


でもAIはその枠に当てはまるのか? もし俺に何かあれば、アイのデータは初期化されるだろう。今のアイが自立する事はないから、厳しくする必要はない気が…。


店員さんが話し終わって間もなく、お客さんが来店した。話はここまでだな。


「貴重なお話ありがとうございました! 俺はこれで…」


俺とアイはメガネ店を後にする。



 用はないので家に帰る俺とアイ。駄々をこねてから、彼女の口数は激減している。この空気は辛いし、何とかしなくては。


「アイ。俺に出来る範囲になるが、して欲しい事はあるか? 何でもやるぞ?」


「ホント?」


妙に反応が良い。何を言う気だろう?


「本当だ。言うだけ言って欲しい」


「じゃあね~、お兄ちゃんと一緒にお風呂入りたい!」


「風呂? そんな事で良いのか? もちろんOKだ」


俺は貧相な体だが、他人に見られるのに比べたら抵抗感はない。


「やった~」


嬉しそうなアイを見るとつい頬が緩む。しかし何か引っかかる…。


「…ちょっと待ってくれ。このメガネ防水なのか?」

故障なんてしたら笑えないぞ。


「当たり前じゃん。お兄ちゃんはドジっ子だね♪」


確かにこの時代で防水じゃない物なんて皆無だよな。アイにツッコまれるのは情けないぞ…。


夜、彼女と一緒に風呂に入る約束をしてから俺達は帰路に就く。

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