4-2 アナタに斬られて、アタシは死ぬ
「あーあ、またダメだったか……今までで1番いい線、行っていると思ってたんだけどなぁ」
「前のルートでも何度か突然、結衣に斬られることがあったけど……この白シャツ男のSSか」
「今ので、何回目だっけ。もう覚えていないな」
「お姉ちゃんに池袋ダンジョンに取り残されるルートが、1番良い感じに進むと思って、結構な回数やっているけど……どうしても、ここから先へ進めないなぁ」
「もしかしたら、別のルートのが正解なのかな」
「他は、どんなルートがあったっけ……それももうだいぶ混乱して、分かんなくなっちゃているな」
「このルートで初見のハズのことに何度も見た反応しちゃったり、何度も見ているのに初めてみたいな反応しちゃったり。もうわけ分かんない」
「出会って第一声で、〝結衣〟とか呼んじゃっているしね」
「はぁ……それにしたって、やっぱり嫌だなぁ……また結衣がアタシを殺してしまって、狂ってしまうじゃないか」
「正真正銘の死神になってしまう」
「白シャツもゴスロリも、替山も佃野さんも、みんな結衣に殺されちゃうんだから」
「殺して殺して殺しつくされて、でも死なない」
「見境が無くなって、しおりんも巻き添えで殺されちゃう」
「何度やっても、どうやっても、この結末……変えられないのかなぁ」
「じゃあ、何で……アタシ、〝死に戻り〟のSSなんか持っているんだろう」
「何かを変えたいから、そんなSSになったんでしょ? じゃあ、何かを変えさせてよ!」
「アタシが死ぬのは、別に良いからさ! 結衣が壊れてしまわない未来に変えさせてよ!」
――アタシ、今の声に出せた?
心で思っただけ?
……もしかしたら、一割くらいは言葉に出来ていたかな。
いや、薙刀で斬られて呼吸もままならないのに言葉なんか発せないか。
それにしても結衣の斬撃は凄いなぁ。
アタシには全く見えないや。
真っ赤な血が、勢い良く噴き出して、やっと斬られたんだと分かるくらいだもんな。
何度斬られても、分からないな。
この薙刀は過去一良い出来だから、斬られたら痛いんだろうと思っていたけど……
逆ね、痛くないんだ。
……はぁ〜あ。また斬られちゃった。
結衣に斬られることが、アタシのたった1つの『残された死』……
死に方どころか、シチュエーションまで指定される超限定的な【死因】。
世界でも数人も居ない特殊事例。
そして死ぬと発動する、死に戻りの【リスタート】こそが、アタシのホントのSS。
最初のSS。
そろそろ、噴き上がった血が重力に引き戻されて、アタシの顔面に降り注いでくる。
自分の血って、暖かくも冷たくもないんだよね。
自分の体温と同じだからそりゃそっか?
目に入るのは何となく嫌だから、目は閉じよう――
「…………!」
「…………ぃ!!」
誰? 誰の声? アタシを呼んでいる?
いつもなら、目を閉じると意識が薄れて――その後、少しの間、自分が死んだ後に起こることを、神様みたいな視点から見せられる。
そこで結衣が、正真正銘の死神となって世界の終焉が始まるのを目の当たりにさせられるんだ。
そのハズ――なのに。
今回は何か、いつもと違うの?
もしかして、惜しいところまで行けたから、残念賞でもくれるのかしら?
最後に結衣や、しおりんとお話しする時間でもくれるの?
……そりゃあ、嬉しいね。次を頑張るモチベーションになるよ。
じゃあ、最後に言わせてほしい。
私が死ぬのは、結衣のせいじゃないって、言わせてほしい。
あの白シャツが何か仕掛けてこなきゃ、何も起きていなかったハズなんだから。
だから自分を責めないで。未来を見て生きて欲しい。
私が死んだ先の世界でも、過去に囚われず生きて欲しい。
池袋の公園で、約束したじゃない。
あの時は……2人でって言ったけど。
今の結衣は大丈夫だから。
ほら、しおりんも居るんだよ。大丈夫だよ。
しおりんは、もっと自信を持ちなよ?
さっきの『折り紙』は最高だったじゃん。
モズク頭に見せてやりたかったよ!
しおりんは、誰かの後ろでなきゃいけないなんてことはないし、前線に立って、前面に出張ってもやっていけるだけのチカラがアナタにもあるから。
信じて、もっと自分を。
だから、お願い――私が居なくなった世界で、結衣を支えてあげて。
そしたらアタシも安心して死ねるから。
次のルートではきっと、もっと上手くやるから、心配しないで。
お願い――
お願い――――
お願い――――――
お願いだから。
お願いだから……もっと、結衣と一緒に生きさせて。
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