第二話 人数が足りないなら…足せばいい!?



 今回、元木祐一と渋谷啓介の二人を悩ませてしまっているのはまさにその在籍人数規定の項目だ。


 この科学部において、現在二年生であり次期部長に確定している祐一と、四月から同じく二年生に進級する啓介については何ら問題はない。既に活動を引退して、この春の卒業で抜けてしまう三年生の三人という穴をどう埋めるか。


 今は二月初頭で、期限は年度が変わり新入生の部活動登録が一応線引きされる五月末。それまでに規定である五人の正式部員の登録を満たさなければ自動的に部活として存在できなくなって解散を言い渡されてしまう。


「先輩、そこの規定って、とにかく五人いればいいってことですよね?」


 しばらく考え込んでいたあと、啓介が口を開いた。


「特にそこに縛りはなかったはずだな。なんか思いついたのか? まさか……?」


 もともと以前から「無いものは作る」がモットーの啓介。普段は頼もしい存在ではあるけれど、まさか部員まで作り出そうと言出だすのではないかと警戒する。


 さすがに実在しない偽名の生徒の名前を書いたり、本人の了解を得ないで部員名簿に載せたりしたら、それこそ問題行為となって処罰の対象になってしまう。


「そんな無茶はしないですよ。追加メンバーは新入生だけじゃなくて新二年生でも構わないってことですよ」


「なるほどな。そのとおりで新入部員に学年の規定はない」


 啓介の言う通り、新一年生に拘る必要はないはずだし、生徒会と学校が結んでいる部活入部者の要件に新入生に限る項目はない。彼の言葉を借りれば、当人が希望してさえくれれば祐一と同じ新三年生でも構わないことになる。


 よく運動系部活で試合出場の条件などから複数の部活に掛け持ちで入部することは可能としているし、実際に複数の部活で活動している生徒もいる。ただし、それでは名義貸し的に一人が十以上の部活に所属するというあり得ない状況が生まれかねないから、学校内のルールでは正式な部員人数としてカウントされるのは第一部活として登録した部だけだ。掛け持ち入部の場合、生徒会の規定ではその人数には加えられない。


 つまり、現在部活に所属をしていない生徒か、現在所属している部から一度退部して移籍入部してもらう必要がある。


 制度として道はあるけれど、このような事情で入部してくれる在校生など、果たして彼に心当たりがあるのだろうか。


「ちょっと、何人か声をかけてみますので、待っていてもらえませんか?」


「分かったよ。あんまり無理矢理に勧誘はしないでくれよ? 強引な勧誘を受けたと逆効果の評判が立つのは好ましくない」


 その日の部活動はこれで終了となり、二人は理科室の鍵を締めて職員室に返却してから校舎を後にした。





 その夜、啓介のクラスメイトでもある尾崎おざき裕昭ひろあきのスマホに通話の画面が表示された。


「啓介か、どうした?」


「裕昭、明日なんだけど放課後に時間取れるか?」


「別に用事はないけれど、変なゴタゴタに巻き込まれるのはゴメンだぜ?」



 警戒している様子は裕昭の声からも分かる。小さい頃からの遊び友達でもある啓介とはいろいろと悪戯をやらかしたりしては怒られることもしばしばだったから、突然の電話に彼が警戒するのも仕方ない。


「ゴタゴタというより、元木先輩が困ってるんで、相談に乗ってほしいんだ」


「元木先輩が?」


 裕昭の声が変わる。彼にとっても別の意味で祐一の存在は高校生活の中で無視できないことがいろいろとあったから。


「詳しいことはそのときに話すから、明日の放課後に理科室に来てくれないか」


「なるほど、理科室ってことは部活関係だな……? さては科学部で何かあったな?」


「お見通しのようで。ただ先輩が困っているのは本当なんで、話だけでも聞いてもらえないか?」


「分かった。じゃあ明日の午後は予定を空けておくよ」


「突然悪かったな」


「まだ何も話を聞いてないし、その頼みに無条件で賛成したわけじゃないぜ?」


「分かってる。詳しくは明日先輩から話してもらうようにするから」


 この夜の一本の電話から裕昭を含めた三人、そして廃部の危機に追い込まれた科学部の運命が変わっていくことになった。

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