第一章 始まりはピンチから

第一話 生徒会の使者がやってきた!



「それでは、最終的な人数判定については新入生が部活を決定して一次締め切りをする五月末の時点までとなりますので、よろしくお願いします……」


 襟章の学年色を見るとすぐに分かる、二年生にこう伝えているのは一年生の生徒だ。


 彼らも意地悪く脅しているわけではない。どちらかと言えば申し訳なさそうな顔をしている。


 恐らく文言は別の人間が紙に書いて渡したものを読んでいるだけで、その事情は双方とも承知の上という様子なのだから。


「分かりました。それまでに何とかできるように頑張ってみますよ」


「生徒会としても、長い歴史があって校外活動も積極的に担当してくれる科学部ですから、生徒会権限で存続させたいのはなのですが……。ひとつ例外を認めてしまうと、他の生徒たちに理由が付けられないので……と先輩たちも言ってました」


 どちらがものを伝えに来たのか分からないくらいに一年生も申し訳無さそうな顔だ。それは生徒会の役目という以上に、相対している人物をよく知っているからということらしい。


「そうだよなぁ。それを敢えて言って回らなくちゃならない君たちも、生徒会とは言え一年生には辛い仕事だよな。分かった。またこちらに動きがあれば相談に行くよ」


「でも、なんだか元木もとき先輩ならなんとかしちゃいそうな気がします。まだ二月ですから時間もありますし、いろいろ手を打ってきそうです。僕たちも応援したいです。それでは失礼します」


 放課後の理科室、生徒会の二人が出ていくのを見送って、元木もとき祐一ゆういち渋谷しぶや啓介けいすけの二人は顔を見合わせてため息をついた。


「ああやって、全部の対象部活に通達して回っているんじゃ大変ですね」


 さっきの彼らが持っていたファイルの中には他にも何枚か用紙が挟まっていた。同じことを告げに順番に回っているのだろう。


「そうだよなぁ。去年の入部が啓介の一人だったからね。三年生が抜けちゃうと規定に引っかかってしまうのは最初から分かっていたわけで、そこに何も手も打ってこなかった僕の手落ちが一番の原因だよ」


「仕方ないですよ。先輩だっていろんな行事で忙しかったわけですから」


 ここ桜ヶ丘市にある都立の南桜なんおう高校は、公立校としては都内でも有数の人気と学力レベルを誇り、卒業生の進学先として難関校にも毎年多くの合格者を出している。


 中学時代の志望校調査でも希望する生徒が多いこと。またそのレベルから公立校にも関わらず、保護者の間でも有名私立高校と同等のブランド力を持っているという。



 同時に人気の秘密は学力だけではなく、そのリベラルな校風にある。


 公立校でありながら、周辺の私立高校と比べても生徒の自主性が尊重されており、生徒の代表である生徒会と風紀委員が中心となり自分たちで規律を作り、それを学校と交渉で詰めて決定するということが都度行われている。だから校則として定められているものは最低限のこと。残りは規定されておらず見かけ上は自由な校風を謳うことができている。


 その代わりに、自分たちが作り、学校と約束した決まり事でもあるので、校内外を問わず他人に迷惑をかけることはもちろん、生徒側で決めたことの逸脱行為には生徒会や風紀委員も厳しく目を光らせていてバランスをとっている。



 この自主性の一つに、部活動の規定があった。代表者の生徒と顧問の教師が確定できれば、新規の部活を立ち上げることも難しいことではない。


 しかし、そのままでは幽霊部員ならぬ「幽霊部活」が無制限に残存してしまう。そんな事態を防ぐため、各部活には秋に行われる『桜花祭おうかさい』と呼ばれる文化祭への参加が必須であることと、年度の変わり目に五人以上の正規部員がいることが最低限の条件として定められている。


 先の生徒会の一年生たちが二人に通告したように、その項目に抵触し、短命で消えてしまう部活も少なくない。


 特に入学した年に仲間内で作った少人数グループの部活などは、「強制廃部にされてしまう不名誉な終わり方をしたくない」と、自分たちが卒業する直前の年度末に廃部を届けて自主解散することもあるから、前年の『桜花祭』の時に存在した部活が、翌春に新入生が入学してみると解散していた……。なんてことも普通に起こり得る厳しい生存競争もあり、年度末には生徒会がそのラインを下回っている部活に対して、このように通告して回る光景は毎年行われる風物詩でもあった。

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