10話 王女救出

盗賊の人数、7人→4人に訂正しました



――――――――――――――



 足枷を嵌められ拘束状態にある金髪碧眼の美少女に、盗賊の一人が劣情を向けている。高そうなドレスに身を包む彼女は王女様らしく、盗賊のお頭らしき男が「傷物にするな」とドスの効いた声で牽制したので、その盗賊は王女にスケベな視線を向けるだけでつまらなそうに酒をちびちび飲んでいた。


「……なあ、お頭。傷物にしなきゃ良いんだろ? なら、ひん剥いてちょいと触れるくらいは良いんじゃねえか?」


「ダメだ」


「なんでだよ? 今回護衛に付いていた女騎士はあまりにも激しく抵抗するもんだから殺しちまったし、色がねえ! 年頃の女が同伴している商隊にも出くわさなければ村も襲いに行かねえ。お陰で俺はもう2ヶ月も女を抱いていねえ!」


「……そんなお前が、女を裸に剥いて触るだけで我慢できるのか?」


「チッ」


 スケベな盗賊が舌打ちを鳴らし、苛ついたように膝を揺らす。盗賊の頭は不機嫌そうに立ち上がり、背を向ける。


「お頭、どこ行くんだ?」


「便所だ」


「へぇ」


「俺が離れている間に、犯したら殺すからな」


「へいへい」


 そう言いながらも、盗賊は下種な視線を王女に向けていた。

 盗賊の頭は首を一つ振ってから、茂みの方へ掃けていく。盗賊はそーっと王女様の太ももに手を伸ばした。


「ひぃっ」


 王女様が小さく喉を鳴らす。


「ひぃっ、だってよ! そんな可愛い声で鳴かれると、手を出したくなっちゃうぜぇ」


「おいおい、手を出したらお頭に殺されるぜ?」


「解ってらァ。ちょっと味見をするだけだ」


 スケベな盗賊は王女様の前でべろべろと舌を出してから、その白い頬を舐めるふりをする。王女様は目を瞑り肩を竦めて縮こまっていた。

 あまりにもキモすぎるセクハラ。俺は既に顕現させていた狩猟の月弓の弦を引いていた。


 狙いを外したら、王女様に当たるかもしれない。


 でも、放っておけば王女様があのキモすぎるセクハラを受けてしまう。早く助けてあげたい。手が震える。緊張で、冷たい汗が頬を伝った。


「リオン。落ち着くのじゃ。妾の弓は、穿ちたい悪のみに当たる」


「……“盗賊だけを射貫け”金の月矢」


 陰から少し姿を出して、弦を引いた。


「うっひょー、じゃあ、王女様の唇の味、舐めて確かめちゃおうっかなぁ~。……は?」


 スケベな盗賊のこめかみに、見事矢が的中した。

 盗賊は王女様を舐めようとしていた舌をべぇと垂らし、白目を剥いてバタンと倒れた。


「お、おい、なんだ?」

「……矢?」

「て、敵襲だ! 敵がいるぞ!」


 セクハラに怯えて目を潰り縮こまっていた王女様をニヤニヤと眺めていた盗賊たちが一変して慌て始める。


 一方の俺は、王女様から一番近い距離にいた盗賊に見事矢が的中したお陰で少し、自信が湧いてきていた。

 寸分違わずこめかみに命中させて即死させたこの弓矢であれば、間違って王女様に当たっちゃうなんてことはないだろう。


 俺は更に弦を引く。


「“盗賊だけを射貫け”金の月矢! “盗賊だけを射貫け”金の月矢! “盗賊だけを射貫け”金の月矢!」


 一発ごとに丁寧に弦を引き、盗賊に矢を的中させていく。


 こめかみ、脳天、心臓。放った矢の全ては盗賊の急所に命中し、即死させた。


「ふぃぃ。おい、王女様には手は出して……はぁ?」


「射貫け、金の月矢」


 トイレから戻ってきた頭目の額を、問答無用で矢で射貫く。

 盗賊の頭目は、何が何やら解らないと言った顔で倒れた。


 これで、全ての盗賊を始末した。……と思う。アルテミス様の方を見ると、コクリと頷いたので俺は岩陰から出て王女様の方まで駆け寄っていく。


 王女様は、木箱の上で縮こまるように座り、身体をぷるぷると震わせていた。


 ……なんて、声を掛ければ良いのだろうか?

 俺の方から声を掛ければ驚かせてしまわないだろうか?


 俺は王女様から3歩ほど離れた距離で、立ち尽くしていた。


 震えていた王女様は、俺の足音にピクリと反応してから顔を上げた。エメラルドのような碧眼を真っすぐと、俺の方に向ける。


「貴方が、この賊共を撃ったの?」


「え、ええ、まあ」


「そう。綺麗な身なりを見るに賊共の仲間というわけでもなさそうね。なら私は、貴方に助けられたことになるわね。……感謝するわ」


 震えて怯えているように見えたから、毅然とした態度で淡々とお礼を言われてかなり面食らってしまう。


「あっいえ、その……お怪我はありませんか?」


「ええ、お陰様で問題ないわ。……それより、名を名乗りなさい」


「は、はい。俺は、リオン・ベーカリー。最寄りの村に住むパン屋の倅で、偶に冒険者もやっております」


「リオン・ベーカリー……。私はニクロス王国第二王女、ショコラ・フォン・ドゥ・ニクロス。賊を滅し王族である私を助け出した貴方には、然るべき褒章を与えると約束するわ」


「は、はぁ……」


「とはいえ今は、家臣とも逸れちゃって褒章を渡そうにも手持ちがないわ。差し当たって、この足枷を壊すか、私を負ぶってくれると助かるのだけれど?」


「……解りました」


 俺が月弓の弦を引くと、王女様――ショコラ様は、ビクッと肩を震えさせて目を瞑った。


 いざ話しかけたらおくびにも出さないから失念していたけど、目の前にいるのは、盗賊に囲まれている間、ずっと怯え震えていたか弱い少女なのだ。

 急に弓の弦を引かれたら、怖いに決まっている。


「すみません。矢で、足枷を破壊しようと思います。……“足枷だけ射貫け”金の月矢」


 金の矢が刺さると、足枷がひび割れ綺麗に砕け散る。

 矢は的確に、足枷の脆所を撃ち抜いたのだろう。ショコラ様は足枷から解放され、自由の身になった。


 それから俺は、浅い洞窟に並べられている盗品を物色する。


 酒は粗方飲まれ、食料品もかなり食い荒らされている。

 あるのは血が付いた長剣と、鎧。泥で少し汚れてしまっている衣服。そして、紙の箱で綺麗に補完されている『ロイヤルティー』


 多少の金品をポケットに詰めて、ロイヤルティーを『食い道楽』の食糧保存庫の中に入れる。……金品は持っててもしょうがないし、あとでショコラ様に渡そう。


 どうするにせよ、一先ず村に帰って落ち着きたい。


 ショコラ様も、盗賊の死体が転がってるこんな場所よりもいったん安全な村で腰を落ち着けたいはずだ。


「ショコラ様、一先ず俺の村に案内します」


「そうね。それは助かるわ」


 そう答えるショコラ様は、未だに木箱に腰を落ち着けていた。足がぷるぷると震えている。足枷は解除したんだけど……。


「もしかして、歩けないんですか?」


 ショコラ様はほんのりと顔を赤く染めた。


 

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