04話 クエスト達成

「む、こっちはハズレか」


 俺が倒したキラービーの腹の中には黄金に光る蜜の球が入っていた。採取用に持ってきていた煮沸消毒して清潔にしておいた瓶の中に詰めていく。

 一方で、アルテミスが倒した方のキラービーの腹の中には何も入ってなかった。


「運が悪い、と言いたいところじゃが、恐らくこれがリオンの能力『食い道楽』の力なんじゃろうな」


「そう、なんですかね?」


「問題はトドメを譲れば良いのか、リオン一人で倒す必要があるのか……。とりあえず、持ってきた瓶全てがいっぱいになるまで検証してみるのじゃ」


「えっ……」


 行く前はなんとなく気が大きくなって、ちょっと大きめの瓶を5つも持ってきてしまっている。キラービー一匹倒したことで得た蜂蜜は、瓶の1/3しか満たしていない。全部満たすには、あと14匹倒す必要がある。


 あの蜂を、14匹。考えるだけで嫌になる。


「なに情けないことを考えておる。妾の弓があれば楽勝じゃろ!」



           ◇



「――月と狩猟の女神、アルテミス様への祈りを捧げます。“顕現せよ、『狩猟の月弓』”……射貫け、金の月矢。射貫け、金の月矢。射貫け、金の月矢ッ!」


 アルテミス様が探し当てたキラービー3匹目掛けて、連続で3発矢を放つ。


 俺は弓を触るのすら今日が初めてだったし、別にちゃんと狙いを定めて撃っているわけでもないのに矢は全て命中し3匹のキラービーをあっけなく仕留めた。

 流石に、神様の弓矢。凄まじい効力である。


 ただ、この中二病っぽい詠唱だけどうにかならないだろうか?


 前世で32年、今世で9年の計41年生きて来たおっさんが唱えるのは恥ずかしいものがある。


「何を恥じることがある。格好良かったぞ」


 俺の内心を読んだアルテミス様が、褒めてくれた。悪い気はしない。


「あとはビビりなところを何とかすれば妾の使徒として完璧なのじゃがな」


「俺はビビりじゃなくて、慎重なんです」


「蜂に飛び掛かられたくらいで腰を抜かしてよく言うわ」


「ぐ。それよりも、蜂蜜がちゃんとあるか確認しましょうよ」


「そうじゃ、キラーハニー!」


 アルテミス様はキラービーの死体の方へ走って行く。


「おおっ、今度は3匹全てにキラーハニーが入っておるぞ!」


 俺が追いつく頃には、全ての蜂の腹を裂いて黄金の蜜を露出させていた。

 清潔な瓶の中に詰めていく。1つが満タンになって、2つめの瓶に突入した。


「やはり、リオンの能力の効果と見て間違いなさそうじゃな。妾が弱らせた後にトドメを刺したらどうなるかも気になるの! 早速行くぞ!」


「えぇー」


 駆け出すアルテミス様を追いかけると、次から次へとキラービーが見つかる。


 2匹、3匹、2匹、4匹、3匹、5匹。

 気づいたら、全ての瓶が満タンになるほどの……いや、入りきらないほどの蜂蜜が手に入ってしまった。


 因みに、アルテミス様が弱らせたキラービーも俺がトドメを刺したものはキラーハニーは入っていた。『食い道楽』の達成報酬を得るには、俺がトドメを刺すことが重要なのかもしれない。


「とりあえず、持ってきた瓶いっぱいになりましたし帰りましょうか」


「そうじゃな。この入りきらなかったキラーハニーはどうする?」


「とりあえず、持ち帰って瓶に詰めます」


 俺は『食糧保存庫』のページを開いて、瓶に詰めた蜂蜜と、キラービーの腹の中に入っている蜂蜜を腹の部分だけ切り取ってから入れていく。


 これも『食い道楽』の能力の一つ。

 食べ物限定だけど、容量の制限も(現状)なく入れたものの重さも感じさせずに持ち運ぶことが出来る大変すばらしい能力だ。


 しかも保存能力も凄まじく、あったかいスープを『食糧保存庫』に入れて一か月経過してから取り出してもホカホカ湯気が上がっていた。


 食糧保存庫のページに『キラーハニーの瓶詰め×5』と『キラーハニー×2』の記載が追加されている(18匹分のキラーハニーが手に入ったはずなのに、一匹分少ないのは、瓶の表面張力ギリギリまで詰めたのとつまみ食いしたからである)。


 そしてこれはまだ試してないので予想の域を出ないけど、見開き一ページある容量の欄が埋まるまでが容量の上限なんじゃないかと思っている。

 その場合、1ページ50行くらいあるから100品目保存できる計算になる。

 今は他に、牛乳やバター、卵、小麦粉などを入れてて蜂蜜を入れて10行ほど埋まったところだ。


 昔入れてたスープは取り出したときにページから記載が抹消されたので、整理も出来そう。本当に素晴らしい能力だ。


「ところで、この大量のキラービーの死骸は入らぬのか?」


「食べ物限定なんですよね」


「融通の利かん能力ちからじゃの」


「む」


 とりあえず集めたキラービーの死骸と一つ持ってみる。

 50cm以上ある大きさの割に、とんでもなく軽い。でも、なんか動き出すような気がして持つのは怖い。


 俺は虫の死骸を喜んで触れるほど無邪気な心は持ち合わせていなかった。


「どうしたものか。妾と其方で協力したとて、これを全て運ぶには往復せねばならぬぞ」


「でも、そうするしかないような……」


 最早持ち運べない分はその辺に捨てるか?

 一応、その前にダメ元で食糧保存庫にキラービーの死骸を突っ込んでみる。するとページに『キラービーの肉×1』と記載が増えた。


 肉……。確かに蜂を食べる文化は聞いた事あるけど……。


「おお、入ったな。融通の利く素晴らしい能力ちからじゃな」


「そうですけど……」


 蜂の死骸が食べ物認定されたのは、それはそれでなんか嫌だった。


 とはいえ持ち運べるのはありがたいので、どんどん食糧保存庫に入れていく。キラービーの死骸×17を収納し終えた俺は、アルテミス様と共にギルドへ帰還した。



 ギルドに帰還した俺は、受理された依頼書を持って受付まで行く。


「早かったですね。キラービーの討伐依頼、失敗報告ですか? その場合、こちらの報告書を記載した後、違約金のお支払いを――」


 短い時間で、手ぶらで帰ったから仕方ないかもしれないが、受付嬢は俺が依頼を失敗した前提で説明してくる。


「あの、依頼は達成しました。キラービーの素材はここでは出せないので、開けた場所に案内して貰えないでしょうか?」


「……それは構いませんが、ギルド職員に虚偽の報告をした場合追加でペナルティが課されることになりますよ? 今なら聞かなかったことにして差し上げますが」


 受付嬢は目を細めて厳しい目を向けてくる。


 少し感じ悪いなとは思うけど、アルテミス様の加護が無ければ鈍くさい村人でしかなかった俺が手ぶらで帰ってきたら失敗したと思われるのは当然だし、態々事前に警告してくれてる分優しいのかもしれない。


「大丈夫です。虚偽はありません」


「……分かりました。では、着いてきてください」


 受付嬢に案内され魔物の解体場に連れてこられた俺は、そのまま17匹分のキラービーの死骸をその場に出した。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る