第2話

『うん、僕は新しいことへチャレンジしたいと思ってる。でも怖いし勇気もない。君に背中を押して欲しいんだよ。』

『チャレンジか・・・本当は誰もそんなこと望んでないってわかってるんだろ?』『え?』


『お前は今までのままで十分だし、そのままキープできればベストだって言われたんじゃないのか?新しいことなんて誰も歓迎しない、そう言われたんだろ?お前は今まででもちゃんと成功したし今だってちゃんとやるべきことをなしている。今になってどっかの国の兵士みたいに銃をもって駆けずり回りたいのか?それこそお前は殺される。一撃でバーンってね。』


Sは顔色を変えず続けた。

『知ってるよ。お前が今まで一生懸命築いてきたものの全て。素晴らしいものばかりだった。命をかけて成功を成し遂げて、次はそれ以上の新しいこと?怖いだって?だから言ってるだろ、俺と代わればいい。俺がお前なら全部成し遂げて全部燃やしてやる。 お前を泣かせるもの全部だ。怖いものなんかありゃしない世界を俺が作ってやる。』


Sは腕組みをして歯を見せて笑う。

『お前なら簡単なんだよ。わかってるだろ?なあ、わかってるだろ?どれだけの人間がお前に狂ってて、お前のためなら死ねるかって。世界はお前のためにあるように、全てがお前のために動いてる。この一瞬も何万、何千、何億という金が動いてお前のためにお前のいる場所が作られる。この星は俺たちの星よりも随分とリッチで愚か者が多いのさ。お前の姿を見ただけで狂乱してゆく姿をお前は怖いと思ったんだろ?』『S、やめてよ。』

Jの言葉にSは止まる。視線をそらして足を組みなおした。


『僕はこの星が好きなんだよ。確かに狂っていく姿は怖い・・・でも彼ら・・・。』『愛してくれている?それこそ戯言だな、お前はその愛の前ではいつも無防備じゃないか。奇声をあげながら飛びついてくるやつらに耐えてキズまで作って、どういうつもりだよ?あいつらになら殺されてもいいってのか?いいか?あいつらはお前を殺したってどうってことはない。死んだお前を見て、泣きながらお前にすがりついてまた全部欲しがるんだ。お前はまた何もかも奪われて泣くことになるんだぞ?』


『わかってる。わかってるんだ。』

『ああ、わかってるだろうな。お前は優しいからな。美しいものを作り喜ばせることができてお前は幸せなんだろう。なあ、それでもJ・・・お前は俺の大事な家族なんだぞ。』

Jが顔を上げるとSは俯いていた。


『ねえ、S。僕に何かあったら君は助けてくれるでしょう?』

『ああ、助けるさ。お前に何かあったら必ずな。でも新しいチャレンジだけはやめておけ。新しい好奇心を与えれば、あいつらはまた刺激されて燃え始める。お前にも飛び火して火傷することになる。』

『・・・背中を押してはくれない?』

SはJから視線をそらしたまま首を振る。


『お前がやりたいのならやればいいさ。俺が守ってやる。でも命の灯はいくつもあるわけじゃない。前はここからでてお前を直接助けてやれたが、今はお前の力も足りない。あと一度できるかできないか・・・お前が消えれば俺も消える。覚えておいてくれよ。』

『うん、わかった。』

Jは椅子から立ち上がるとSを見た。

Sは視線をそらしたままで腕組みをして鼻をすする。


『泣かないでよ、僕は大丈夫だ、見ていてよ。』

Jはそう言って立ち去った。Sは彼のあとを追うように視線を向ける。


『何もわかっちゃいない、この星があと数秒の命だとしてもお前は行くんだろうな。俺はここでお前の目を通して美しくて儚いものをみるんだろうな。俺たちの星にはなかった愛というものが形になって現れるとき、星は限界を超えるんだ。お前が好きな流れ星も愛を知って落ちてきた。幸福だというように。ああ・・・お前が見る世界はなんて美しいんだろうな。』


Sは目を閉じてそこにあるものを見る。宇宙の彼方で小さな星の光が生まれて、青い星へ惹かれて落ちていく。

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