ビハインド
蒼開襟
第1話
彼の名前はJ、そして向かい側に座るのはS。
お互いをよく知る家族だ。
Jは深呼吸をしてSを見る。Sもまた同じく彼を見る。
『なんだよ、世界が暗転したみたいな顔してるぜ?』
Sはうんざりした顔で口にした。
『そんなことない。僕はこうして君と話をしにきたんだから。』
Jは潰されそうな気持ちをこらえて彼を睨みつける。
『ふうん、そう。俺はどうだっていいけどな?お前はいつも楽しそうにしてるし俺に会いにくる回数もなんだか減ってるような気がする。』
『そんなことないよ。僕は毎日こうして君に会ってる。』
『そうか?お前はいい子ちゃんだからな。俺なんかとは違って汚いことなんて考えたりもしないし誰かを殺したいほど憎むこともないんだろ。』
Sは椅子にもたれると足を組んだ。
『いい子ちゃんにはわかんねえよな?』
Jは俯いて首を横に振る。
『わからないわけじゃない。僕はいい子なわけじゃない。君だって知ってるだろ?』
Sは爆発したように笑い声をあげた。
『ああ、そうだ。知ってるさ、お前はいい子ちゃんなわけじゃない。くっだらねえことで嫉妬して狂ってベットで柔らかい毛布に包まって泣いてる愚か者だ。なんて言ったっけ?あの子。可愛い子だったな?友達のアイツに取られてお前は何も言えなかったし奪い返せもしなかった。幸せになってね?だって?本心ではそんなことお前は微塵も思っちゃいないのにな。』
『やめろよ!』
『いいや、やめないね。お前はいい子ちゃんのフリをしてみんなを騙そうとしてる。本当は何もかもどうだっていいのに、期待される答ばかり言い当てて安心してる。違うか?』
Jは目を閉じて俯く。
『わかってるんだろ?お前だって。俺にはわかるよ、みんな腐ってるのに綺麗なフリをしてるって。お前の好きなあの子だって、本当はお友達のアイツとずっと仲良くヤッてたのにお前が気付かないフリをしてただけさ。』
『やめろよ・・・。』
Jが泣き声に変わってSはため息をついた。
『お前は優しすぎるんだ。俺は忠告したはずだ、あの子はやめとけってな。』
Sが話すのをやめて部屋にJの嗚咽が響く。
『僕だってわかっていたさ。それでも一緒にいたかったんだ・・・悪いかよ。』
Sは少し声のトーンを下げて優しげに言う。
『悪かないさ。だから言ってるだろ?お前は優しすぎるって。俺ならくっだらねえことに巻き込まれる前にオサラバするってのに、お前は付き合っちまう。心配してんだよ、俺は。』
Jが顔を上げて小さくうなづくとSは眉を下げて微笑んだ。
『あ~、割りにあわねえよ。お前が望むなら俺がヤッてやるのにな。』
『僕はそんなこと望んでないよ。』
『わかってるさ、そんなことは。でもお前は本当にわかってないんだ。お前が望むなら世界は手に入るし、お前が指を一振りするだけで望むとおりになるだろ。頭のイカレタ連中はお前に熱狂し、列をなす。お前が望めば女だっていくらでも手に入る。カリスマってのはそういうもんだ。ちゃんと使わなきゃ意味がないぜ?』
SはJのうなだれた頭を見ながらため息をつく。
『壊してやればいいんだ。自分で作ったものも全部壊してしまえばいいんだ。お前が作り上げてきたものを他のやつらが壊そうとするのなら、壊される前に壊してしまうそういう選択肢だってあるだろ?』
Jは首を横にふる。
『僕は自分が作り上げたものを壊したりはしない。皆が愛してくれて大切にしてくれることを知ってる。君はいつもそうやって僕を元気付けるくせに悪いほうへ誘導するんだね?』
Sは両手を挙げると鼻で笑った。
『あーそうかい。お前にはそう聞こえるわけだな?まあいいさ。それで今日はなんだよ。俺に文句でもあってきたのか?』
Jは顔を上げて両手を組んだ。
『なんでそんな意地悪な言い方ばかりするんだ、君は。僕はただ君と話をしたくて毎日こうしてきてるのに。』
『じゃあ言えよ、ちゃんと聞いてやるから。』
Sは椅子にもたれかかると片眉をくいっとあげた。
意地悪そうな顔だなとJは思う、でもこの顔をしたときはちゃんと話を聞いてくれるときだと知っている。
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