エピローグ 君の記憶が彩る夏

香奈かな、今日の夏祭り一緒に行かない?」


 りんの誘いに、香奈は少し驚いた表情を見せた。


「珍しいね、凛が夏祭りに行きたいなんて。どういう風の吹き回し?」



「――なんとなくね。行きたくなったんだ。それに、高校生も今年で最後じゃん」


 凛は微笑んで答えた。



 夏の夕方、空が赤く染まり始める頃、二人は夏祭りの会場へ向かって歩き始めた。

 道すがら蝉の声が賑やかに響き渡り、夏の暑さを一層感じさせる。


 「凛と夏祭りに来るの初めてだね」


 香奈かなが嬉しそうに言った。


 凛は頷き、祭りの賑やかな雰囲気に心が弾むのを感じる。

 子供たちの笑い声や、笛や太鼓の音が響く中、二人はゆっくりと歩き始めた。

 香奈の顔には笑顔が溢れ、凛も自然と笑みを浮かべた。


「何から回ろうか?」


 香奈が興奮気味に問いかける。

 凛は少し考えてから答えた。


「金魚すくいとかどう?あそこの屋台、いつもすごく賑わってるから」


 二人は金魚すくいの屋台に向かう。

 屋台には色とりどりの金魚が泳いでいて、子供たちが真剣な表情で金魚をすくっていた。

 香奈も挑戦し慎重に金魚をすくおうとしたが、すぐに紙が破れてしまった。


「難しいね、これ」


 香奈が笑いながら言うと、凛も笑って同意した。


「本当だね。でも、なんだか楽しい」

 

 その後も二人は、さまざまな屋台を巡り、楽しい時間を過ごした。

 凛の心は、少しずつ軽くなっていくのを感じた。

 陽菜との思い出が蘇り、懐かしい気持ちで胸がいっぱいになった。

 

「香奈、ちょっとおみくじを引いてくるね」


「えっ?夏祭りで?」


 香奈は驚いたように目を丸くした。


「ふふっ、おみくじはいつ引いたっていいんだよ」

 

 凛は笑ってそう言い、神社の方へ向かった。

 屋台の明かりが遠くなり、静かな神社の境内に足を踏み入れると、1年前の記憶が鮮明に蘇る。


 神社の境内は、祭りの喧騒から離れて静寂に包まれていた。

 木々がざわめく音と、遠くから聞こえる祭りの音楽が混ざり合い、独特の雰囲気を醸し出す。

 

 凛は深呼吸をし、心を落ち着けた。

 

 おみくじを引くと、凛はその内容を確認し少しだけ笑みを浮かべた。


「この結果も、今なら案外悪くないかも」


 凛はポケットからペンを取り出すと、おみくじに何かを書き込んだ。


 涙が頬を伝うのを感じながら、凛は丁寧におみくじを結ぶ。


 (――陽菜、私は前に進むよ。あなたが望んでいたように、笑顔で生きていくから。)

 


 再び祭りの賑わいの中へと戻る途中、大きな音が響き渡った。

 空を見上げると、花火が夜空を彩っていた。


 陽菜との思い出は永遠に心の中に生き続け、新しい思い出と共に輝いていく。

 


 凛にとっての夏のイメージが、少しずつ変わっていくのを感じた。

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八月の陽炎に君を見た。 真白 @cccMashiro

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