第6話 デート

 私は陽菜ひなといつものように待ち合わせをしていた。

 今日は特に予定もなく、ただ一緒に過ごすつもりでいた。


「ねえ、りん。デートに行こっか!」


 突然、陽菜が言った。その言葉に私は驚いて彼女を見つめる。陽菜がそんな風に誘ってくるのは初めてだった。私の気持ちを知っているのか、それともいつもの冗談なのか分からず、少し戸惑う。


「え、デート?どうしたの、急に」

 

「だって、せっかくの夏休みだし、たまには特別なことしたいじゃん」


 私は心の中で考えた。最近はいつも二人で出かけているし、デートと何が違うのか。でも、陽菜がこんな風に誘ってくれることが嬉しくて、自然と頷いた。


「うん、分かった。どこに行こうか?」


 陽菜は少し考えてから言った。


「やっぱりデートと言ったら……」


 陽菜は私の手を引いて歩き始めた。

 少し移動した後、彼女が指さして言った。


「ここでしょ」


 私たちが立っていたのは大型のショッピングモールの前だった。私は少し笑いながら陽菜に言った。


「いつものとこじゃん。まぁ、田舎だから結局ここになるんだよね」


 陽菜も笑って頷いた。


「そうだね。でも今日は特別だから、いつもの場所でもデートスポットになるんだよ」


 ショッピングモールに着くと、私たちはまず映画館に向かった。

 上映中の映画を確認し、興味を引かれたラブストーリーを観ることに決めた。

 映画が始まると、陽菜は私の手をぎゅっと握りしめた。

 私は少し驚いたが、彼女の温もりが伝わってくると、そのまま手を離さずに映画を観続けた。


 映画が終わると、私たちは近くのカフェに寄って感想を語り合った。


「凛、あの映画の最後のシーン、すごく感動的だったね!」


 陽菜が目を輝かせながら話す。

 私は頷いて同意した。


「うん、あのシーンは本当に素敵だった。愛が人を強くするっていうメッセージが伝わってきたよ」


 陽菜は微笑みながら少し考え込むようにして、私を見つめた。


「ねえ、凛。もし私たちもあの主人公たちみたいに、愛があれば何でも乗り越えられると思う?」


 私は陽菜の真剣な表情に少し戸惑いながらも、心から答えた。


「うん、そう思うよ。陽菜と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がする」


 陽菜は私の手をぎゅっと握り、優しい笑顔を浮かべた。


「私も同じ気持ちだよ、凛。凛と一緒にいると、何だか強くなれる気がする」


 その言葉に胸が温かくなった。

 私も陽菜と同じ気持ちだった。

 彼女と一緒にいることで、私は前を向いて進んでいけるような気がした。


 カフェでの会話が終わると、私たちはショッピングモール内を歩きながら、服を見たり、アクセサリーを試着したりして楽しんだ。

 陽菜が私に似合うと言ってくれたワンピースを試着してみたり、陽菜が選んだアクセサリーを一緒に見たりする時間は、特別なものだった。


「次はどこに行こうか?」


 私が尋ねると、陽菜は少し考えてから言った。


「ゲームセンターとかどう?久しぶりに行ってみよ!」


 私たちは手をつないでゲームセンターに向かった。

 店内に入ると、色とりどりのゲーム機が並び、子供たちの笑い声が響いていた。

 私たちはまずクレーンゲームに挑戦することにした。


 陽菜がクレーンゲームのレバーを操作し、慎重にぬいぐるみを狙う。

 クレーンの爪がぬいぐるみに触れた瞬間、私たちは息を呑んだ。


「もう少しで取れそう……!」


 陽菜は集中して操作を続け、ついにぬいぐるみをキャッチした。

 私たちは歓声を上げて喜んだ。


「ぬいぐるみ、そんなに欲しかったの?」


 私が尋ねると、陽菜は笑顔で答えた。


「うん!だって、見て!凛にそっくり!」


「そうかなぁ……」


 私は照れくさそうに笑った。


「凛だと思って大切にする!」


 陽菜は嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。


 次に挑戦したのはシューティングゲームだった。

 私たちは並んで銃を手に取り、画面に現れる敵を撃ち倒していった。

 陽菜は私よりも上手で、どんどんスコアを稼いでいく。


「凛、負けてるよ!」


 陽菜が楽しそうに言うと、私は負けじと集中してプレイした。

 結果は、惨敗。


 私たちはゲームセンターでの時間を存分に楽しんだ。

 笑い声と歓声が絶えず、まるで子供に戻ったかのような気持ちだった。


 ゲームセンターを出ると、夕方になりかけていた。

 私たちはショッピングモールの屋上にある展望台に向かった。

 展望台からは、広がる街並みと沈みゆく夕日が見えた。


「今日は本当にありがとう、凛。こんなに楽しい一日になるなんて思わなかった!」


 陽菜が嬉しそうに言うと、私は頷いて微笑んだ。


「私も、陽菜と一緒に過ごせて楽しかったよ。デートって思うだけで、なんかすごい新鮮だった」


 夕日が沈む景色を見つめながら、私たちはしばらくの間、言葉を交わさずに過ごした。

 風が心地よく吹き、私たちの髪を揺らしていた。


 

 突然、陽菜が静かに問いかけた。


「――凛、私がいなくなったらどうする?」


 その言葉に驚いて立ち止まった。

 陽菜はいつもと変わらない笑顔を浮かべていたが、その瞳にはどこか寂しげな光が宿っていた。

 私はすぐに返答することができなかった。

 その質問が現実になってほしくないと思うあまり、言葉が出てこなかったのだ。


 私の無言のままの反応を見て、陽菜は少し微笑んで言った。


「ごめんね、変なこと言って……」


 私たちは再び歩き始めた。

 心の中で陽菜が消えることなんて考えたくなかった。

 でも、彼女の言葉が頭から離れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る