第4話 雨の日
翌朝、目を覚ますと、窓の外からは雨の音が聞こえてきた。
しとしとと降り続く雨は、少しだけ夏の終わりを感じさせるようだった。
私はベッドから起き上がり、窓の外を眺める。
雨粒が窓ガラスに当たって小さな模様を作り出していた。
いままでの私だったら憂鬱な気分だっただろう。
雨の日に外に出るのはあまり好きではなかったからだ。
でも
それだけで雨もひとつのアクセントになる。
スマホを手に取り、陽菜からのメッセージが届いていないか確認する。
画面に表示されたメッセージは、予想通り陽菜からのものだった。
「おはよう、
私は微笑みながら返信を打った。
「おはよう、陽菜。もちろん行く!」
雨の中でも陽菜と過ごすことが楽しみで、心が軽くなるのを感じた。
いつものように準備を済ませて、傘を持って家を出た。
いつもの待ち合わせ場所に着くと、陽菜はすでに待っていた。
「ごめんね。濡れてない?」
陽菜の元に駆け寄る。
「うん!大丈夫!」
「今日は、図書館に行ってみない?雨の日にはぴったりだと思うんだけど」
「いいね!行こ!」
私は図書館に向けて歩き出す。
すると陽菜が少し考えた様子で立ち止まっている。
「陽菜……?」
「せっかくだしさ……相合傘していかない?」
少し恥ずかしそうにしながら陽菜はそういった。
「――いいよ」
私たちは1つの傘で身を寄せ合いながら、図書館へと向かう。
お互い肩は濡れていたと思う。
でもそんなこと気にならないくらい、私は陽菜と寄り添う温かさと、心臓の高鳴りを感じていた。
図書館に着くと、静かな空気が私たちを迎え入れる。
雨の音がかすかに聞こえる中、私たちは図書館の中を歩いた。
陽菜は本棚を興味津々に眺めながら、ふと足を止めた。
「ねぇ、凛。見て、懐かしいのがあるよ」
陽菜が指さしたのは、私たちが小さい頃によく読んでいた絵本だった。
「ほんとだ、懐かしい……」
私は絵本を手に取り、ページをめくる。
陽菜は私の隣に座り、一緒に絵本を見つめた。
雨の音と共に、図書館の静かな空気が私たちを包み込んでいた。
「凛、今日はここでゆっくりしよっか」
陽菜の提案に、私はうなずく。
いつも元気な陽菜が図書館だと静かで新鮮な感じだった。
選んだ絵本を読み終えると、私は陽菜の制服姿に目を留める。
「そういえば陽菜、いつも青海高校の制服を着ているよね。どうしてなの?」
陽菜は少し考え込むような表情を浮かべた後、微笑んで答えた。
「やっぱり、凛と同じ高校に通っている気分でいたいからかな。こうして一緒にいると、本当にそう感じるんだ……」
陽菜の言葉に、私は胸が温かくなる。
同時に、その温かさがかすかな痛みに変わった。
彼女が私のためにそうしてくれていることが嬉しかった反面、現実を思い出させるからだった。
雨音が図書館の静寂を包み込み、私たちの会話をさらに穏やかにする。
私は、陽菜と過ごすこの時間がとても特別なものだと改めて感じた。
図書館の一角には、昔からある大きな窓があった。
窓から外を見ると、雨がしとしとと降り続いている。
私は陽菜と一緒に窓辺に座り、外の景色を眺めた。
「雨の日って、何だか心が落ち着くよね」
私が言うと、陽菜は優しく頷いた。
「うん、そうだね。雨の音を聞いていると、心が静かになる感じがする」
窓の外を見ながら、私はふと思い出した。
昔、陽菜と一緒に雨の日に遊んだことを。
あの日も、私たちは同じように窓の外を眺めていた。
「そういえば、昔も急に雨が降ってきて、外で遊べなかったことがあったよね」
陽菜は微笑みながら頷いた。
「覚えてるよ。あの日は確か夏休みの終わり頃だったね。公園で遊ぶ予定だったのに、突然の雨でびしょ濡れになっちゃって。凛が急いで『図書館に行こう!』って言ってくれたのを覚えてる」
「あの日は、二人とも傘を持ってなくて大変だったよね。図書館に着いた時には、二人ともびしょ濡れでさ、それでも楽しかった……」
陽菜は笑顔で思い出を語り続けた。
「図書館の中で服を乾かしながら、本棚の間を歩いて、いろんな本を手に取ったよね。結局、何冊も借りて一緒に読んでた。窓際の席で、雨の音を聞きながらずっと話してた」
「そうそう、あの時、陽菜が見つけたおもしろい本があって笑いが止まらなかったよね。図書館の静かな空間に響くほど、大笑いして職員さんに怒られたの覚えてる」
私たちは思い出に浸りながら、静かな時間を共有した。
陽菜と一緒にいると、過去の思い出が鮮明に蘇り、今も変わらず大切なものだと感じられた。
雨が少しずつ弱まり、図書館の外の景色が少し明るくなってきた。
私たちは立ち上がり、もう一度館内を歩くことにした。
「凛、この本、面白そうだよ」
陽菜が手に取ったのは、昔からの友達について書かれた本だった。
私たちはその本を手に取り、再び座って一緒にページをめくる。
「私たちも、ずっと友達でいようね……」
そう、ぼそっと陽菜は言う。
私は、陽菜の言葉に胸の奥が少し締めつけられるような感覚に襲われながらも、その気持ちを隠すように微笑んだ。
友達という言葉では収まりきらない感情が、自分の中にあることにうっすら気づいていた。
私たちはその本を読みながら、さらに時間を過ごした。
静かな空間とわずかな雨音。
陽菜と一緒にいるこの瞬間が、まるで永遠に続くように感じられた。
図書館を出る頃には、雨がほとんど止んでいた。
私たちは外に出て、手をつなぐ。
清々しい空気が私たちを迎え、まるで新しい始まりを祝福しているかのようだった。
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