第2話 思い出の場所へ
彼女と一緒にいるだけで、過去の悲しみや苦しみが薄れていくようだった。
「
陽菜が指さしたのは、公園の大きな滑り台の裏だった。そこは私たちの秘密の場所で、誰にも見つからないように隠れて遊んだ場所だった。
「もちろん覚えてるよ。あの時、陽菜が見つけた隠れ場所、本当にすごかったよね」
私は微笑みながら答えた。
その場所を見ると、あの頃の無邪気な日々が思い出される。
陽菜の笑い声、私たちの走り回る姿、すべてが昨日のことのように蘇ってきた。
「うん、本当に楽しかったね」
陽菜も同じように思い出に浸っているようだった。
彼女の笑顔を見ると、それだけで嬉しくなる。
やがて、私たちは丘の上に向かう道を歩き始めた。
道端には色とりどりの花が咲いていて、夏の風が心地よく吹いていた。
陽菜と一緒に歩くこの時間が、まるで夢のようだった。
「凛、最近はどうしてたの?」
突然の問いかけに、私は少し驚いた。
陽菜がいなくなってからの生活をどう説明すればいいのか、少し迷ったが、正直に答えることにした。
「うん、特に変わったことはないかな。ただ、陽菜がいなくなってからは、ずっと寂しかった」
私はそう言いながら、目を伏せた。
陽菜がいなくなったことは、私の心に大きな空白を作った。
彼女がいない日々は、何か大切なものを失ったような感覚だった。
「そっか……ごめんね、凛。でも、これからはたくさん話せるからね」
陽菜は私の手を優しく握りしめた。
その手の温もりが、私の心に染み渡っていくようだった。
丘の上に到着すると、そこには大きな木がそびえ立っていた。
その木は、私たちの秘密基地だった場所だ。
幹には私たちが刻んだ名前が残っていて、あの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる。
「懐かしいね、ここ。あの頃のままだ」
私は木に触れながら、そう呟いた。陽菜も同じように木に触れて、微笑んでいた。
「本当に懐かしいね。ここでたくさん遊んだよね」
陽菜の声には、どこか懐かしさと共に少しの切なさが混じっていた。
私はその声を聞いて、彼女が何を思っているのか知りたくなった。
「陽菜、何か話したいことがあるんだよね?」
私はそう尋ねた。陽菜は少しの間黙っていたが、やがて頷いた。
「うん、でもその前に一緒にお弁当食べない?お腹すいちゃった」
陽菜はそう言ってリュックからお弁当を取り出した。彼女の無邪気な笑顔に、私は少し安心した。
「いいね、一緒に食べよう」
お弁当を広げて、陽菜と一緒に食べる時間は、まるで昔に戻ったかのようだった。
陽菜は笑顔で話しながら、おにぎりを手渡してくれる。その仕草は昔と変わらない。
「凛、おにぎりどう?」
「うん、美味しいよ。陽菜、料理上手になったね」
私はおにぎりを頬張りながら答えた。
陽菜の作ったお弁当は、愛情がこもっていてとても美味しかった。
「本当?嬉しいなぁ。もっと練習したいな」
陽菜は照れくさそうに笑った。
その笑顔を見ていると、心の中の痛みが少しずつ和らいでいくのを感じた。
お弁当を食べ終わると、私たちは木の下に寝転んで、空を見上げた。
青い空には白い雲がぽっかりと浮かんでいて、夏の風が心地よく吹いていた。
「凛、覚えてる?ここで一緒に星を見たこと」
「うん、覚えてるよ。あの時、二人でたくさん話したよね」
私は空を見上げながら答えた。あの夜、私たちは未来の夢を語り合った。
陽菜は大きな夢を持っていて、その夢に向かって頑張っていた。
「そうだね。あの時の夢、今も忘れてないよ」
陽菜はそう言って微笑んだ。
私は彼女の言葉に胸が締め付けられるような思いだった。
「陽菜、あなたの夢は……?」
――私は思わず聞いてしまった。
陽菜の夢がどうなったのか知りたかった。
「私の夢は……」
陽菜は少しの間黙っていたが、やがて静かに答えた。
「今も変わらないよ。でも、凛と一緒に過ごす時間も大切だって気づいたんだ」
その言葉に、私は涙がこみ上げてくるのを感じた。
陽菜がいなくなってから、私の心には大きな穴が開いた。
でも、彼女と再び一緒に過ごすことで、その穴が少しずつ埋まっていく気がした。
夕方が近づくと、空の色がオレンジ色に染まり始めた。
陽菜と一緒に見上げた空が、まるで私たちの心を映し出しているようだった。
「凛、今日は本当にありがとう。久しぶりに楽しかった」
その言葉に、私は少し寂しさを感じながらも、同じ気持ちで答えた。
「こっちこそありがとう。私もすごく楽しかったよ……」
私たちは手をつないだまま、夕焼けを見つめていた。
陽菜と過ごすこの時間が、永遠に続けばいいのにと心から思いながら……。
「――ねぇ、陽菜。また会えるよね?」
私は思わず尋ねた。陽菜は少し微笑んで、優しく頷いた。
「もちろん。また会おうね、凛」
その言葉を聞いて、私は少し安心した。
陽菜と過ごすこの時間が、また訪れることを信じながら、私は彼女と手をつないで帰り道を歩き始めた。
陽菜と私はバス停で別れることになった。
バスが到着するまでの間、私たちは手をつないだまま夕焼けを見つめていた。
「凛、また明日ね」
「うん、また明日」
陽菜がバスに乗り込むのを見送り、私は手を振った。
バスが見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。
夏の終わりが近づく夕暮れ時、私は一人で家へと帰った。
陽菜の手の温もりがまだ残っている。
私の心を暖かく包み込み、過去の悲しみを少しずつ癒してくれるようだった。
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