第18話 番外編 現し世へ
「明日は現し世にデートに行くことになったの」
「何だ、デートとは」
夕食の席。正妃の宮の居間にて。
「シロハンキさまと、菫と遊びに行くんだ。ふたりがついてるから、現し世の行き来も大丈夫だし、菫は角隠して行くから変装はバッチリよ」
シロハンキさまもこくんと頷く。因みにお小遣いはシロハンキさまからもらった!
「いやいや、そう言うことではなく……。琳。デート……と言うのは、現し世ではその、恋人や夫婦で行くもの……と認識しているが」
「それが?」
「お前たち全員私の妃……、つまり妻だろう?」
「友だち同士で出かけることもデートって言うのよ。シロハンキさまはどちらかと言うと保護者だけど!でもデートでいいの!」
「いや……わけが分からないのだが……普通は夫の私を誘うだろう!?」
「菫と文具屋巡りするために行くのに、漆がついてきても……ねぇ?」
「あぁ、お前がついてきてどうする」
「
「ならば話が早い」
「だが私も行くぞ!ついていくぞ!」
「仕事は?」
「お前だって」
「俺はかねてよりスケジュールを空けてある。問題ない」
「私だって空ける!今から!明日の分を今から片付ける!!」
「はぁ?ちょ、今からって……」
漆は箸を置くと早速本邸へと向かっていった。
その晩は寝室に来なかったので、……マジで徹夜組したらしい。
――――――――翌日。
「現し世なんて久々ぁー……」
そんなエンジョイしたこともないけど。
「私も後宮に入ってからはなかなか来れてないので久々かな」
「お互いさまだねぇ、菫」
「うん、琳」
本日は現し世らしい今時のワンピースで菫と一緒におっきな文具屋さんに来たのだ。
「あぁ……ねむ……眠い……」
現し世のスーツで来た漆は一見、道行くひとが振り返りそうなイケメンスパダリ風なのだが……菫の家が用意してくれた移動車の中でうとうとしていた。
「車の中で待っててもいいわよ?ちょっと寝てなさいよ」
「俺がついてるんだから別に問題ないし」
と、シロハンキさまも本日はモデルさんのようなオシャレなスーツをビシッとキメている。シロハンキさまって和服だけじゃなくて洋装も似合うぅっ!しかも顔がキレイだからなおさら……尊い……。
菫と一緒に拍手喝采ものよねぇ。
「うぐぅ……っ」
漆は悔しげにしていたものの、睡魔には勝てなかったらしく、運転手(もちろん菫の家の運転手)と一緒にお留守番となった。
さぁーて、文具屋のなかはと言えば。素晴らしき文具たちが私たちを待っていた……!
「それにしても……便利筆って何で今まで隔り世になかったの?」
菫の家では扱っていたはずなのに。
「伝統を重んじると言う上ではやはり筆と墨のイメージが強かったから……かな?私はこちらではシャーペンか万年筆だったから」
万年筆ってチョイスがもうイイトコのお嬢さまだが……しかしシャーペンを分かっている菫はやはり心強い!
「あんなに流行るなんてね」
「あはははは」
それでも公式書物は筆と墨らしいが。
「ついでに鉛筆もほしいな」
「うん、隔り世のうちの店には卸すようになったの。現し世に慣れたあやかしや、現し世から来た人間には人気かな。あとシャーペン」
「うんうん、ありがたいよねぇ」
隔り世の文具事情が進化しつつあることはありがたいかぎりだ。
「それで、何か買うのか?」
と、シロハンキさま。
「あ、付箋とか見たいですね」
「現し世にしかないかわいいものもあるのですよ」
さんにんで付箋とか、消しゴムとかを見て回っていれば、ふと。
「そう言えばふたりとも美人なのにあんまり目立たない……?あ、こう言うの失礼かもだけど」
「あー……結界の力でいろいろと。琳にもかけてる」
「私はいらないと思うのだけど!?」
「でも琳は大切な……オタ友だもの。シロハンキさまに守られて欲しい」
はうぅっ!菫が尊いぃぃっ!
「じゃぁ菫にもシロハンキさまが……」
「私も結界の力を使える鬼だから、シロハンキさまに倣って自分にかけているの。隔り世の話も現し世のひとたちにはぼやけて聞こえるようにしてる」
そうか、隔り世トークは隠さなきゃだもんね……!
「シロハンキさまにはまだまだ及ばないけど、シロハンキさまの結界の力は憧れでもあるから」
「そっか……それで菫はシロハンキさまに」
憧れて後宮へ入ったんだ……!
「シロハンキさま、モテモテだね」
「お前らな……誰の妃か忘れたのか?まぁいいけどな」
いいの?まぁ私たち一応漆の妃……なんだよね。たまに忘れそうになるけどいいの忘れても……!?そりゃぁシロハンキさまは忘れたい事実無根だと思うけども!
そして文具を購入したあとは、手芸屋さんにもよって……今度はだいぶ眠気が覚めてきた漆も誘い、よにんでランチタイムとしたのだった。なお、漆にも目立たないようにとシロハンキさまが渋々結界の力を使ってあげていた。
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