第16話 番外編 ユウリン①
「只今参上いたしました、我が主」
「入れ」
主の声と共に、主の側に顕現したユウリンは、書物に筆を走らせる主を見守る。やがて筆を置いた主はユウリンに向かい合う。
「それで?矢神楽はどうなった」
「まぁ、見てきましたよ。見てきましたけど。ぼくの宿敵なんですけどね。妖狐避けヤバイしあの家。見つかったら総攻撃受けますが!?」
古来、矢神楽は九尾の中でも背に竜のような鱗を持つ【
「総攻撃?ははっ。オキナが対価をもらっていき、またあの娘の力も削いだだろう?お前に立ち向かう力はないさ」
「そ、それも考えましたけど!
「あの家の宿敵は他にいる。よそ見していれば付け入られるから加勢にはこないさ。かろうじて成り立っているこの平穏をぶち壊すことをした家だ。
「……それなら、まぁ、そうかもですけど」
「で?どうなってた?」
「あの
「ふふっ、そうか。そうだろう?そこそこだが霊力を持つ
「えぇ……だからこそ集まったあやかしたち。使役の契約を結んでいるとは言え、ヤヤさまの本名を不躾に呼び続け、主の怒りを買ったことで憔悴し、あやかしたちを縛る綱が緩んだのです。その隙に、使役されていたあやかしたちが一斉に枷を破壊し、襲い掛かった」
「全部か?」
「あの生娘に心底惚れていたあやかしが一匹おりましてね。あの生娘を守ろうと生け贄になっておりました。その隙にほかの退魔師たちが強制的に使役の鎖を解き放ち、一族総出で人喰いあやかし退治ですよ」
「ま、そうなるわな」
「その後は生娘は憔悴しきり、寝たきりだとか」
「それでいい。そんで、オキナたちは何を持っていったんだ?」
「あぁ……退魔師たちが溜め込んでいた法具や秘宝などをいくつか。あとこちら、オキナからです」
ユウリンがさっと出してきた包みに、主は渋い顔をする。
「……何も頼んでいないが?またくだらない妙薬とか言うなら送り返せ」
「その妙薬のお詫びだと」
「……あぁ……宴の」
主はゆっくりとその包みを剥がしていき、そこから覗いた長方形の冊子を見てハッとする。
「よく矢神楽の連中はこれに手を出しませんでしたよね」
「一度痛い目に遭ったからだろう?」
冊子のページをめくる主の手がとあるページで止まる。
コツコツと、必要な分だけを引き出し、そして貯金していた残高から、一気に抜かれている箇所がある。
「これを引き出した者には災いが訪れる」
「許可を得ていない者の場合は、ですね」
「そう言うこと。引き出したものの肌には謎の呪いの紋が現れそのものの家は激しく金運が落ち、毎晩悪夢に
その冊子の表紙に書かれた名義の持ち主へ。
「返しておいてくれ」
「それはいいですが……災いはそのままで良いので?」
「……ん?何か言ったか……?
主の妙な笑顔と共に本名を呼ばれた……ユウリンは深く突っ込まないほうがいいと、本能的に感じた。
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