第13話 憩いの場


「できた……っ」

「できたと仰られましても……また厨房に入り浸られて……」


「だってツタイバラ~~!」

ちゃんと課題はこなしてます!もちろん!今は昼食時。私は昼食の準備をしていたのだ。


「今日のツタイバラとユウリンの賄いは特別な……私自ら漬けた特製稲荷揚げのおうどんだから……!料理長にも託したわ!楽しみにしていて」

「何故使用人の賄いを作っているのですか」


「だって……だって……お狐さまと言えば、稲荷揚げじゃない!ユウリン!昨日のユウリン超可愛かったのぉ~~!」

「それが目的ですか。もぅ……」

ツタイバラがふぅと息を吐く。は……っ、まさかツタイバラ……。


「大丈夫よ、ツタイバラ!」

お猫さまと言えば……!


「今度はツタイバラのために鮪のとろろ丼、作るから」

「ま、まぐろ……」

ツタイバラが一瞬反応したのを、私は見逃さなかった。その猫耳まぴくんと動いたのを見逃さなかったぁぁっ!

あぁ、鮪に反応しちゃうお猫さま、尊い……っ!


「いえ、やはりダメです!ヤヤさまが使用人の賄いなど……!」

「ツタイバラとユウリンだけにするから……!」

「……」

「ふたりへの普段の感謝の気持ちよ!」

「……」

「ねっ!?」

「……その、ヤヤさまからのお心遣いならば……。しかし、他の使用人に安易にご馳走するのはお控えくださいませ」

ひゃうんっ!ツンデレお猫さまの……デレっ!!最高すぎる、そしてこの独占欲よ。なんて最高なの。


「分かった分かったって~~!」

「それでしたら」

ツタイバラも頷いてくれる。

「あと、料理長が今日のお昼の仕上げをしてくれるはずだから……空いた時間に、人間の側室用の部屋を見てもいい?」

「まぁ……あそこはヤヤさまのための部屋ですので構いませんが……調度品などはまだ特にそろっておりませんよ?」

「それでいいのよ」

あそこは……オタ活部屋にするのだから……!


途中合流したユウリンも連れていざ、人間の側室用の宮へ……!


宮自体はシロハンキさまの宮と繋がっているみたい。ほして案内された一の宮と言うのは……。


「何このだだっ広い空間は……!」

同人誌や漫画並べ放題じゃないか……!


「そりゃぁ人間用の中で一番いい部屋ですから」と、ユウリン。


「もっと書庫になりそうなのを想像してたんだけど」

「なんで書庫なんですか。本来は側室の生活の場でしょう」

「でもツタイバラ。私はそれが……心地いいの」

本に囲まれ……オタ活グッズに囲まれた……部屋。


「だからと言って、正妃の宮の書庫で寝ないでくださいね?シロハンキさまがびっくりなさいます」

「さ、さすがにそれはしないって……あ、また書庫にも行きたいなぁ」

正妃の宮の書庫は広くていろいろな書物が置いてあるのだ。


「午後にどうかな?」

「構いませんが……あそこは正妃の宮の中ではありますが、共有スペースなのです」


「共有……?」

「他の側室も来られる場所と言うことです。普通は使用人たちが主人のために取りに来ますが……もしかしたら、フウビキさまの使用人と鉢合わせするかもしれません」

あぁ……あのガンツケてきた使用人たちね。


「危険かもしれませんので、本なら私が取って参りますね」

「いや、私も行く!」

それなら……そんな危険な場所にお猫さまをひとり、行かせられない!


「いや、しかし」

「ぼくも行きますよ。それなら安心でしょう?」

と、ユウリン。はぅーん。ユウリンったら……っ。多分その可愛さは、あのギラギラ使用人たちも虜にして戦意喪失させてくれるのね……!


「まぁ、それなら分かりました」

ほらぁ…、!ツタイバラも納得してくれたし……!


その後無事料理長の絶品昼ご飯をシロハンキさまと食べて、私の自家製稲荷寿司も出してもらったら、シロハンキさまがとても喜んでくれた。


一方で漆は……。


「漆は今日は来ないんですね」

「あぁ、あいつは会食。来てもウザいからちょうどいい」

う……ウザいってシロハンキさま……。それもふたりの仲のよさ故かしらねぇ……。


※※※



――――――――そしてツタイバラとユウリンも賄いを終えたので、いざ、さんにんで書庫へ!


「そうだ、賄いどうだった?」

「……美味しゅうございました」

ツタイバラったら照れちゃって……。今度はツタイバラのために鮪のとろろ丼作るから待っててね!


「油揚げ……美味しかったです……っ!」

はぅあぁ――――――!ユウリンかっわよおぉぉっ!!!お目目キラキラ、作って良かったぁ~~!


「お料理の本もあるかなぁ~」

「まずはお勉強の本ですよ、ヤヤさま」

「ギクッ」

まぁそれも……必要よねぇ。


正妃の宮の書庫は相変わらず広々としており、たくさんの本が並んでいる。


「本場のあやかし辞典とかあるかしら」

「あやかしの知識についてなら……まずは鬼が良いでしょう」

と、ツタイバラ。うん、漆もシロハンキさまも鬼だものね。あれ、そう言えば。


「ツタイバラ、シロハンキさまって角、ないけれど……角のない鬼もいるの?」

「シロハンキさまは、自ら鬼の角をしまっておられます。あの方が角まで出されたら、相当の格の高いあやかししか近付けませんから」

「そんなにすごいの?あ、でもじゃぁ漆は……」


「あの方も同じですが……クロキシンさまは角を出したまま制御されておいでです。シロハンキさまはご事情があり、角を隠すことで制御されておられます。この辺のことは……私から述べるより、シロハンキしまが必要な時が来た際に……お伝えくださるでしょう」

必要な時……か。

「その時のためにも学ばないとね」

「そう言うことです」

そう答えたツタイバラは早速本棚から2、3冊の本を抜き取る。


「これらを新しいテキストにいたしましょうね」

「……あ、うん」

そうだった。まずは隔り世の文字を読めるようになるのが先であった。


テキストも確保したし、帰ろうかとした時だった。


「あら、こんなところに人間がいるなんて」

「よくものこのこと現れたものね」

で、出た!?い、いびり鬼――――――っ!?


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