第11話 とっておき


「できた~」

「ヤヤさま……そちらは……」

ツタイバラが怪訝な目を向けて来るんだが。


「もちろん、お夜食よ……!」

宴と言えど、ろくに食べられなかったもの……!私はジュース、シロハンキさまと漆もお酒くらいしか飲んでないんじゃないかしら……?


夜に突然宮の厨房にお邪魔したとはいえ、本邸では宴だったからか、料理長がいてくれたので、お夜食を作りたい旨伝えると、それなら任せたと託され、こうして堂々とお夜食作りにとりかかったのだ……!


「ですがそれは……甘味では……?」

と、ツタイバラ。


「甘いわね、ツタイバラ。これは……餅と豆とかぼちゃよ……!!」

「いえ、かぼちゃ団子入りのお汁粉ですよね?」


「……」

まぁそうなのだけど。

因みに小豆はと言えば、厨房にあったお汁粉パウチをいただいた。これは何でも現し世で商売をしているあやかしから仕入れているものらしい。取り敢えず宮にもあって良かった。

あと餅は常備しているものを料理長からもらって……カボチャは煮て、馬鈴薯粉とまぜまぜしながらお団子作り。

ツタイバラも手伝ってくれたので後は茹でるだけ、お汁粉や柔らかくしたお餅とドッキングさせればバッチリよ……!

料理長も美味そうだって言ってくれて、味見をお願いしたら漆もシロハンキさまも喜ぶと太鼓判をくれた。

だから味とかは問題ないと思うし……。


「甘いもの食べると何か幸せな気分になれるし」

むしろ矢神楽の家では深夜に隠れて食べなきゃならなかったし、夜に食べるのは……食べなきゃならない時とお腹が減った時は仕方がないの。カロリーと言う現実は襲って来るけれど……それでも女子には食べたい時が……ある……!

いや、シロハンキさまと漆は男性だけども。


「シロハンキさまにも食べて欲しいなって」

ちょっとピリピリしてたし。スイーツ男子と言う言葉もあるから……きっと男でも食べたい時が……ある!


「それに安心して!ツタイバラとユウリンの分もあるから……!」

「いえ、そこ安心するポイントなのですか?」

ツタイバラは首を傾げるが。


「ぼくの分もあるのですか?」

ひょこっと現れたのは。


「もふもふ……」

「ぼくはユウリンですよ、ヤヤさま」

「ひゃうんっ」

首を傾げてきゅるんとこちらを見つめてくれるのまかわいい!もふお狐ちゃんのユウリンんんっ!あぁ、矢神楽はどうしてこんなかわいい妖狐……いわゆるもふお狐さまと争うなんて……愚かな。もふもふは……愛でるべきよ!


「私のお母さん直伝のかぼちゃ団子入りのお汁粉よ!とっても美味しいんだから!」

にこりと告げれば、ユウリンのお目目が輝く。はぅあぁぁぁっ!かぼちゃにつられたのか、お汁粉につられたのかどっちかしら……!どちらにしろかわいいぃっ!


「ふたりも一緒に食べる?」

「……いえ、私たちはバックヤードでいただきます。ユウリン、いいですね」

「うん……!」

はぅあぁぁっ!ユウリンの嬉しそうな『うん……!』かーあーいーいーっ!!!


「それじゃぁ私はシロハンキさまと漆に届けて……ふたり、どこにいるかしら」

「多分……いつもの通り居間で反省会では……?」

いつもやってるの……?反省会。


「そちらまでは同行します。ユウリン、行儀よく待っていてくださいね」

「ぐ……っ」

そのツタイバラとユウリンのやり取りがかわいらしくて。


ツタイバラは居間まで同行してくれて、後はみなさんでと退室してくれる。さぁて、ツタイバラとユウリンもお汁粉楽しんでね……!


私は……。


「シロハンキさま、漆!琳ちゃんからのお夜食サービスですよ~~」


居間の座卓で向かい合うふたりの間に、すちゃっとお汁粉のお椀を乗せたお盆を置いて、それぞれに配っていく。もちろん私の分もある……!


「琳……これは?」

漆がお椀の中を指しながら問う。


「特製かぼちゃ団子入りお汁粉よ!」

「このオレンジのはかぼちゃ団子か……」

漆が不思議そうに観察している。ふふ、初めてみたのかな……?お母さんのお汁粉では定番だったのだけど。


「シロハンキさまも是非……!」

「……」

シロハンキさま……?どうしたのだろう、じっと見つめて……。何か苦手なものがあったのかしら……。


「あぁ、いただく」

しかしその後はぱくぱくと口に運んでおり……気に入ってくれたのかなぁと、ちょっと嬉しくなってくる。


「ふむ……普通の汁粉も美味いが、かぼちゃ団子入りと言うのも美味なものだな」

「そうでしょう、そうでしょう」

かぼちゃ団子入りお汁粉にすっかり夢中になっちゃって。やっぱりおふくろの味は、どこの世でも最高よね。


「琳は宴の後は何ともないか?」

ふと、漆が口を開く。


「特に何も……あ、でもお腹が空いたので、お汁粉は作ったの」

「あぁ、宴ではろくに食えなかったからな。私はいつもの事とはいえ」

やはりお酌されることが多そうだからだろうか?


「いつもは夜食を出してもらうのだ」

あ……だから料理長は任せると……!?そしてまだ厨房にいらしたのね……!料理長に悪かったかしら……でもこのお汁粉にはGOサインをくれたから大丈夫よね!


「散々だったな。今後は矢神楽の出席は当分見合わせる」

まぁ、そうなるでしょうね。やり取りのある天狗たちにまで迷惑をかけたのだし。


「だがお前、だからと言って、選ばないと言う選択はないからな?」

シロハンキさま、それって……。


「うぐ……っ」

漆が苦そうな表情をする。……甘いもの啜ってるのに。


「心配するな。もう決めてある」

へ……っ!?


「今宵の宴で挨拶にくる予定だったのだ。それで迎えるつもりだったが、あのようになってしまったからな。だが予定どおり明日、宮入りするから、そこら辺はよろしくな。しるし

ニッコリと告げる漆。いつの間にそんな……。しかし、当のしるしことシロハンキさまは……。


「聞いてねぇぞ、おラァッ!!」

お汁粉を飲み終え、颯爽と漆の背後に回り……。


「こんの、クソキシン――――――――っ!!!」

「あ゛――――――――――――っ!?」

今夜も漆がシロハンキさまに当然のように絞められていた。


でも……いつものふたり……いつものシロハンキさまに戻って……安心したかも。


――――――そしてその夜も。


仲良く川の字である……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る