第9話 落とし穴
「まずは、アイツらの目をくり貫くか」
「いや、穏便に。穏便にいきましょう?目潰し奥義はキメてやりたいですけど、くり貫いためんたまの再利用方法を考えるのが面倒です!」
「……それもそうだな」
そうですよシロハンキさま。怨み辛みはあれど、アイツらのめんたま集めるのはキショイんで嫌ですし。
「なら、結界で遮断しよう。ヤヤを見れなくすら」
「すごいシロハンキさま!結界でそんなことができるんですね……!」
「あぁ、任せろ」
シロハンキさまがサッと手を動かした瞬間、私を睨んでいた矢神楽の連中が目を剥いて混乱していた。本当に私の姿が見えなくなったらしい。
「それで、
もう名前呼ぶの恥ずかしいんだけどなぁ。どうさなら【
「それは、この娘がヤヤの許可を得ずにヤヤの本名を呼んだからだな」
と、漆がニヤリと口角を上げながら答えてくる。そうそう、確かに気になってた!
「それに見た限り、ヤヤもこの娘に名を呼ばれることは好かないのではないか?」
「あー……今から言うこと、あの人たちに届かないですよね?」
突如私の姿が見えなくなり動揺する矢神楽の連中を指差す。こちらに来ようとしているのか足を動かそうとするが、すぐそばにいる天狗のおじいちゃんたちに睨まれ阻まれている。あれ、矢神楽って天狗と仲悪かったかしら?むしろ関係は良好では。当主は天狗とやり取りがあるはずなのだが。一方で悪いと言えば妖狐系のはず……。あ、でもユウリンはちょーかわいいもふ狐ちゃんだけどね……!怨みを買うとしたら矢神楽が悪いわよ絶対。だって妖狐のユウリンはあんなにキュートなんだもの……!
話がそれかけたが、アイツらが来ない、私を睨まない!なら、声はどうだろう?
「届くはずもない」
と、シロハンキさま。さらには……。
「むしろヤヤのかわいい声まで聞いたら、私は嫉妬してしまうぞ……?私はやつらの耳をほじりまくってやろうか」
「いや、汚いからやめなさいよ」
漆ったら……あんたは小学生のワルガキと同じか……!いや、ワルガキと違って本気でやりそうなところが違うところだが。
「くぅ……自然に口説いたのに何もないとは、何故だ……っ」
漆が悔しがっている意味はちょっと分からなかったのだが。
「じゃ、言うけど。いい気はしないかな。あの子は私の従姉妹だけど、嫌がらせはされるは、あやかし使って襲われるわ、散々な目に遭ってきたんだもの。正直言って、名前を呼ばれるのも不快かな」
「想像以上にいろいろとやらかしていたようだな。ふむ……それにあやかしを使って……か」
「それに対してはもう対処してある」
「さすがはシロハンキだな。抜かりない」
シロハンキさまの言葉に漆がにんまりとしながら頷く。えぇと……。シロハンキさまは結界が得意だから、あいつらの使い魔あやかしが好き勝手しないようにしてくれてるのかしら。それならありがたいわね。
「そんなわけで、琳もあの娘に名を呼ばれることを快く思っていない上に、何度も呼んだであろう?それがあの、反動で返ってきたのだ」
「え……っ、それが例の反動!?」
この隔り世では、許可なく本当の名を呼ばないのだったっけ。もしも強きものが弱きものの名を呼べば否応なくそのものを縛り、弱きものが強きものの名を無理やり呼べばその反動を受ける。
「反動って恐すぎるのね……」
血を吐いて倒れるとか。
「あれ、でも……霊力なら【
「ヤヤ……お前また妙な中二を……いやまぁいいか」
「くふふっ。何だそのネーミングは。いや、この娘のセンスよりはましかもな」
何故かシロハンキさまと漆に大絶賛されてしまった。【
「確かにこの娘は多少の霊力は持つらしいが……」
漆の言い方はではそうでもないの……?矢神楽では稀代のプリンセスだって持て囃されてたのに。いや、待て。お前ら矢神楽が必要としてるのは退魔師とちゃうんかいと何度も脳内ツッコミしたが……まりあの霊力に惚れ込み使い魔となるあやかしは多かった。
けどやっぱりあやかしの王よね。このまりあをものともしてないと言うか。漆とシロハンキさまにしてみれば……と言うよりも矢神楽が絶対視していたよりもはるかに……まりあはちっぽけな存在だったのだろうか。
「だが、ヤヤ。そなたは私の側室だからこそ、私の加護を得る」
「クロキシンの……!?」
「さま呼びはやめたのか?(まぁそれでいいが。トゲをつけられるのはやはり傷付くしいいか……)」
へ?後半ちょっと聞き取れなかったのだけど。
「ごめん、忘れてた。クロキシン
「いや、いい。そのままで」
「それなら」
こくん。
「俺の守護もつけている」
「シロハンキさまも……!?てか、加護と守護って違いが何かあるの?」
「この隔り世では、加護は神が与えるもの、守護は高位妖怪が与えるもの。シロハンキは神にも近いが、本気で加護をつければこの娘は血を吐く程度ではすまなかっただろうな」
そういってイシイシと漆は嗤うけれど……シロハンキさまって神にも近い……あ、シロキシンさまのご子息だからってことか……!
クロキシンが鬼神なら、シロキシンさまも鬼神のはずだもの……!
「だからこそ、我らふたりの加護と守護を持つヤヤの名を、許可なく呼んだのだ。その反動が来てもおかしくはない。現にそうなったであろう?」
「ま……まぁねぇ。でも、手当てはしなくていいの?自業自得だし、こいつのことはムカつくけどね」
だからって目の前で吐血して倒れられたら寝覚めが悪いのだけど。
「それは……なぁ?」
漆がにんまりとしながらシロハンキさまを見る。
「当然の報いだろう?」
シロハンキさままで。
「あやかしの王たるこの私に不敬を働いたのだから、当然と言えよう?」
「え……いつの間に?何したのよ」
「うん?気が付いてなかったのか。ははは」
「え?と……ほかのところで何かしでかしてたの?」
「違う、違う。この娘は私がヤヤと話している間に勝手に会話を割り込ませた。それも二度もだ」
「あ……。あれかぁ」
「王にそのようなことをするあやかしなど……シロハンキくらいだな」
ドテッ。
「まぁシロハンキなら、許される。私とシロハンキの仲だからな」
「うるせぇ」
やっぱりふたりって、親友と言うか。何と言うか。
ハッ!!
「妙な思考を持つな。違うから」
だから何で私の考えを読んだようにツッコむんですかぁシロハンキさまぁ~~っ!!
和みつつあるこの場であったが、しかし次の瞬間、目の前で崩れていた塊がもぞりと動く。
「ひぃ、お化けぇっ!?」
「一応まだ生きてるぞ」
一応なんですかシロハンキさま!?
「何で……何でその女なの……!」
「コイツからも見えなくしておくか?」
シロハンキさまが気を遣ってくれたようだ。
「んー、さらにめんどいことになりそうだから、暫くはこのままでいいですよ」
「よし、妃と言うのは時に度胸も必要だ」
「らじゃっす――――!」
「無視すんじゃ……ないわよおぉぉ――――――――っ!!!」
いや、そんなこと言われても……。あんたとシロハンキさまじゃぁ優先順位が天と地以上の差なんだから。
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