第8話 ヤヤと姫
「琳!何であんたがここにいるのよ!」
私の名前を呼んで指を指してきたのは、忘れもしない宿敵・
あ、間違った。本人がいつもブロマイドに自分の名前を書くとき♡マークつけてるからついついつけちゃった。
「ヤヤ、不躾にそなたの名を呼ぶこの人間の娘は知り合いか?」
と、漆がにっこり。まりあって霊力強いし……隔り世でも有名なのかなと思ったけれど、そうでもない……?漆はあやかしの王だけど知らないのか……。
やっぱりまりあの栄光は現し世限定なのか?
――――――とはいえ。
「いや、そのー……」
この宴ではずっと
まぁ漆の側室になったとはいえ、ただの人間の小娘だしそんなに隔り世御用あらため級の事態にはならないだけかも。
「あの、彼女は……」
私はともかく、彼女は霊力が強いのよね。だから隔り世でもその名は意味を持つのかもしれない。彼女の
「いと……」
そう漆に告げようとした時だった。
「あやかしの王クロキシンさま!」
まりあがその美しい声を響かせた。うん、見た目だけではなく声すらも美しいんだったっけ。その声が唱える呪文すら素晴らしいってまりあの使い魔のあやかしが褒めていたっけ。
私にはキンキン声すぎて頭が痛くなる案件なんだけども。
「わたくしは矢神楽の姫」
うーん。いわゆる王族とかのプリンセスではないのだが、この女は矢神楽の家ではその言葉通りお姫さまなのである。
「
いや、お前待て待てえぇぇ――――――――いっ!何っじゃそのベタベタな恥ずかしくなるような
中二にすら疑われるそのセンスはちょっと……。
私はたまらず隣のシロハンキさまに耳打ちする。
「(あのぅ……シロハンキさま。彼女の
「(普通に考えてねぇだろ。お前の中二の方がまだましだぞ)」
よっしゃぁっ!褒められた!
「(褒めてはいないが?)」
え?何で考えてることバレたの!?シロハンキさま鋭すぎるうぅっ!!
「(はぁ……そもそもだな、
なぬ……!?
「(じゃぁ……お猫さまの奴隷は……っ)」
「(お前の方がましだが却下)」
あぐぅ……っ。でも、まりあには勝った~~!スッカ~~ッとするわね!それだけ怨みは深い。
あ、ところで漆に挨拶をしたまりあは……?まりあは優雅に礼をしたまま止まっている。あー……漆が何も答えないからかな……?
しかも漆は……。
――――――呑気に酒飲んでやがる何してんの!?構ってあげないの……!?
「(おい、答えてやれ。お前が答えてやらないからやさぐれてんだよ、アイツは。ほんっとめんどくせぇ)」
し……シロハンキさまったら……。
いや、まぁ私が答えられなかったのはまりあが横入りを入れたせいなのだが……。まりあのセリフ、終わったわよね。
「あ、あの、クロキシン、さま?」
クロキシンにはさまをつけた方がいいのだろうか?
「公の場だからそれでもいい。【さま】の部分にトゲを込めて言うのがコツだ」
「はい!」
「お前ら……私を除け者にして楽しそうだな。あと、シロハンキは余計なことをヤヤに教えるんじゃない!ふんっ」
しかもいじけてるよあの鬼神――――――っ!
そして余計なこと?何かあったかしら……。
「あの、クロキシン
「……」
漆は不満そうにこちらを見る。あや、そんなに
あ、シロハンキさまにギロりと睨まれてやめた。
まぁとにかく。
「あのー、彼女は私のいと……」
「クロキシンさま、聞いてくださいませ!」
いやー、おいおい、まりあ!空気読めと言うか順番守れ――――――っ!
今はクロキシン拗ねちゃった事件対策中なんだから……!
「その女、琳は最低な女なのです……!はぁ……何故隔り世になんているのか分かりませぬが……っ」
いや、オメーが隔り世に投げ捨てたからだろっ!!
あと私のどこが最低だ――――――――っ!現し世でもそんなことばかり言っていたせいで……私はどこでも四面楚歌だった……。
「ですが、ハァ……あなたさまの……っ」
ん?まりあったら鼻息荒くない?
「琳よりもあなたさまの隣にふさわ……しっ、げほぁっ」
「ぎゃ――――――――――っ!?い――――――――や――――――――――っ!?」
まりあが吐いた。血を吐いて崩れ落ちた――――――――っ!?何でいきなり血ぃ吐いてるの!具合悪かったの?なら現し世で留守番してなさいよ!いや、大人しく留守番するたちでもないとは思うけど……!何がどうなってこんなことに……。
「心配するな。ヤヤ。かかってはいない」
「シロハンキは結界を張るのが得意なのだ。だから私たちには届かぬようになっている」
と、シロハンキさまと漆。
「シロハンキはこう言う面でも優秀なのだ」
ニカッと嗤う漆に対し……。
「言っておくが……ヤヤのために張った結界だ。お前はついでな。つ・い・で……!」
ドテッ。王をついでって……やっぱりシロハンキさま……恐妻?いやむしろ賑やかしで正妃にされた怨み甚だしいだけかしら。
「お前は相変わらずシスコンだな……!」
はい?シスコン……?
でも何か分かるかも。シロハンキさまってお兄ちゃんみたいだもの……。
「あ゛ぁ――――――――――っ!」
「黙れこのクソキシン――――――――っ!!!」
「ギャ――――――――っ!?」
シロハンキさまが漆をシメてたぁ――――――――っ!
「まぁまぁ、ふたりとも落ち着いて……!まずは、ま……、いやそのー、
言うのも恥ずかしい名前だが、まりあと呼ぶわけにもいくまい。
「何故だ?」
漆がニヤリと口角を上げながら、その反応がさも当然と言うように問う。
「そうだな。自業自得だ。その証拠に誰も来やしない」
シロハンキさまの言うとおり、倒れたまりあに駆け寄るものはいない。それよか……むしろピリピリしてる……?人間は、矢神楽の人間は……どうなのかしら。キョロキョロと探そうとしたがすぐに見つけた。うわ……めっちゃ私のこと睨んでるわね。相変わらず、あの家の人間は変わらないわね……。
「不快だな」
「あぁ……あの目、くり
そして漆とシロハンキさまは何つー恐ろしいことを……!?
「いや、くり貫くって誰の目よ」
「決まっておろう?あの人間ども、ずっと私のヤヤを睨んでいる」
「お前のヤヤと言う言い方はムカつくが、しかし王の側室をことさらに睨むと言うのは不敬すぎる。むしろそのようなことをすれば王の妃に気があるのではと見なされるな」
まぁ確かにシロハンキさまの言わんとすることも分かるかも。
「でもキモいわよ、あの連中が私に気があるとか」
あやかしけしかけて襲おうとしたり、日々のみみっちい嫌がらせをしたりする、お姫さま・まりあの腰巾着に等しいもの。
「あぁ、キモい。だから目をくり貫く」
あくまでもくり貫くのにこだわるんですか!?シロハンキさまっ!?
「良いだろう、良いだろう。私が気分を害したと言うことで」
「お前もたまには役に立つ」
何かしら、これ。教室でよくある男子たちの悪巧みに似てるのだけど。でもやろうとしていることは多分……子どもの悪戯とは比べ物にならない気が……。
「あ、そう言えばですけど、
そもそも自業自得ってどういうことなのやら。
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