第4話 駆け抜けよ中二
「ふふっ、なかなかよいな。なぁ、琳?」
「えーと、なぁに?」
何だかよく分からないのだけど……。
サインをし終わり、その書類を改めて見て頷いた漆はどこか満足げであった。
そこまでして気に入ってるの……?その紙の……材質?
しかしその時だった。バタバタと
今度は一体何事……!?……と、思いきや。
「琳、無事か!?」
「えと……、はい!!無事ですシロハンキさま!」
シロハンキさま、心配してきてくれたのだろうか。でも、この場にシロハンキしまが来てくれて、何となく安心する私もいるんだ。
そう言えば、黒鬼や青鬼は既にこの場を離れている。もしかしたら彼らのどちらかが、シロハンキさまにも知らせてくれたのかな?
「そう慌てるな。琳ならこの通りピンピンしているぞ、
ん……?しる……し?
そして不思議と脳内に入ってくる、
いや、しかしまぁ……。
「あの、
この状況からして、漆がシロハンキさまにそう呼び掛けたことからしても、そうだろう。
「は……?」
漆がこちらを凝視して唖然としている。ひょっとして、また私、失礼を……!?
隔り世ルール違反を犯したあぁぁっ!?
「……琳、何故
「な、何故って……その、普通に聞いただけですよ……?その、ダメ……でした?」
「この隔り世では、例えそのものの本名を耳で聞いたとしても、ほんにんの許可がなければ口にできぬもの。もし許可なく無理に口に出せば負荷がかかる。しかも相手は
え……。この身がどうなるかと言われても、どうにもなっていないわけで。だけど漆の話を聞く限り、シロハンキさまって相当位の高いあやかしってこと……?そりゃぁ、フレンドリーでノリもボケツッコミのリズム感もバッチリな好感が持てる方だけど。同時にどこか高貴……と言うよりも神聖な何かを感じてしまう。無論私は能無しなので、霊力の強い矢神楽の人間が感じ取ることなんてさっぱりだけど。やはりこれは私のなかで
シロハンキさまって、王の正妃以上に何かがありそうかも。……そう、私の中二の勘が、確かに告げているの……!
「ご、ごめんなさい!シロハンキさま!私、何も知らずに……っ、また……っ」
お世話になりっぱなしなのに……私……カッコ悪いな……。カッコよかった覚えもないけれど。
「いや……。琳が気にすることじゃない。もともとは不用意に俺の名を呼んだコイツのせいだ」
「あははははは」
シロハンキさま……怒ってはいないようだ。そして漆は全く反省していないように笑うので、シロハンキさまもちょっと呆れ気味。
「お前には……
え……権利?いつ?シロハンキさまと呼んでいいとは……助けてもらった時に言われたけど。それが……権利?何か違うような……脳裏にもやもやとしたものが渦巻くような……。
「……だが……署名、とは何の話だ」
シロハンキさまの纏う空気が変わる。なんだか……仕事できる正妃感……!やっぱりシロハンキさまはカッコいい。
「えと、それはですね……」
私が漆の手元に視線を移せば。
「これだ」
漆がぺらりとシロハンキさまに見せたのは、私と漆が先ほど署名した書面であった。
やはりいい紙なのだろうか。ちょっと光沢があるかも。
「……っぉ、まえ……っ」
シロハンキさまは絶句し、そしてふるふると肩を震わしたかと思えば。次の瞬間、くわっと目を見開く。えっと……何が起きているのだろう……?
「また性懲りもなく、何してんだこのクソ
キシン……あぁ、鬼神って、【
まぁ、あやかしの王、ヌシ、長などと呼ばれる存在だもの。例え、目の前の漆が神にも等しいとしても、中二は……こう言う展開は、事前に予習済みなの……!くわっ!!
まぁ、ずっと引っ掛かっていたピースが繋がったし、私はいいのだけど。
しかし……く、クソキシンって……1文字違う気がするのですけど、シロハンキさま……?
「誰がクソキシンだ。私はクロキシンだぞ。隔り世では名はとても大事なものだ。お前も知っているだろう?隔り世1年生の琳の前なのだから、しっかりと隔り世マイスターのお手本をだな」
とは言いつつも。
「クソでもクロでも変わらんわボケえぇぇっ!あとお前な!お手本をとか言える立場か!とんでもないことしやがってぇ!!」
うえぇぇぇっ!?漆がまさかのボケ認定!?スパダリがボケ担当!確かに……とんでもないことだわ。
「……琳。繰り返しになるが、お前の考えてることは多分……違う!」
え、違うの!?シロハンキさま!?
では、漆はツッコミ……?いやでもツッコミとはまた違うような。
「よいではないか、よいではないか」
「そうですよシロハンキさま!平和ボケが一番です!喧嘩はメッですよ!」
インドア派一般所属、たまには腐も可ですよ、特にあやかし物、四神系大好きオタクは平和を愛しております!オタク文化を楽しむにしても、平和でなければ思う存分楽しめないのだから!
「……琳、お前な、自分が何にサインをしたか、分かっているのか?」
「え……?後宮の……滞在許可証?」
かしらね……?
「まぁ、そう言う意味も持つが。広義的にはそうかもしれないが、それだけじゃない!」
それだけじゃない……とは。
あ……そもそも私、シロハンキさまの……!
「シロハンキさまの、正式な側仕えになると言うことですよね……!それなら覚悟は……と言うか大歓迎ですよ!」
やる気まんまん!隔り世の文字は読めませんが!
「俺もそのつもりだった……が」
つもりだった……が?
「これは……漆の側室として召し抱えられることを正式に同意したと言う……現し世で言えば、いわゆる婚姻届だ」
……はい……?
こん、いん。
根因
こん、いん。
「こ……
「無理矢理中二で訳そうとするな!目をそらすな!婚姻だ婚姻!結納!結婚!お前は漆の側室に、妻になっちまったんだよ!!」
「え……そく、しつ……?つま……?つま、ようじ、つま……つまつま……ツナマヨ……マジですか……?」
呆然としながらも、カクカクと首を動かして漆の顔を見やれば。
キラリ。
「マジだ……!」
爽やかにスパダリイケメン顔をキメる、漆。そして一同呆然とする静寂タイムを切り開くように。
「何やっとんじゃぁぁぁあっっ!!ワレえぇぇぇ――――――――――っ!!!」
シロハンキさまが、どこかで見たことがあるような、なかったようなプロレスのシメ技を……漆キメていたぁぁぁぁっ!?
これ、止めた方が、いいの?……でも、どうやって……?
しかしインドア派なただの小娘にどうとめろと……。
私にかよわいけど、争うおバカどもを芯の籠った心のパワー【HP】で
「ヤヤさま、どうかそのままで。あの方を反省させられるのは……シロハンキさまくらいですので」
「……っ!?」
あ、青鬼さん、いつの間に傍らに!?
まさに忍者のごとし!デキる影のあやかしのごとし!中二心を刺激する、その身のこなし!お……追っかけしたぁい……。
そう、念を送っていれば、不意に青鬼さんがこちらを見る。ふぇ?
「……あと、あの便利筆は素晴らしい!」
「そ……それは良かったです」
青鬼さんも分かってくれたか、あの便利筆の真髄を。ちょっと仲良くなれそうかな。追っかけできそうかな。ブロマイド撮らせてくれるかな。そしてコレクションするのだ。あと便利筆、隔り世でも、流行ってくれるといいな。そしたら隔り世でも買えるだろうし、私のシャーペンの芯が全て無に帰した今、頼れるのはインクダウンロード型便利筆しかないのだから……!
「そして、追加で芯とやらを買って参りました。どれか分からなかったので、全種類」
え、ななななんと……!?買って来てくれたの!?え、ウソ、超嬉しい!!いや、てか全種類って……?本当に文具屋さんにあるような全種類あったんだけれども……!ろ……ろく、えいちって……。中二の私にも知らないシャーペンの
※芯文:シャーペンの芯を召喚し、装着するために必要な呪文一式。
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