第2話 中二の血が騒ぐのよ
「すごい……ここが本場の……料亭……!」
よく政治家たちが出入りするところ……!
お高いお料理が出てきて、差し出される菓子折りの中に大量の小判が入ってるのよね!
※違います
「料理は出るが、ここは後宮の中の正妃が暮らす宮だ」
と、シロハンキさま。
つまりは寝ドコ付きの料亭!
「それも違うと思うが……まぁ、取り敢えずこの後宮の説明をするぞ」
シロハンキさまは私の顔を見ながら困ったような表情を浮かべる。私、そんなに分かりやすい……?
でもまぁ、後宮の説明……説明ね。しっかりと学ぶぞ――――――!因みにクロキシンこと漆は仕事へ行ってくると出掛けてしまったので、今は私はシロハンキさまと……それから側に後宮の側仕えたちもいる。やっぱりあやかしが多い……と言うかあやかししかいない。ま、隔り世だもの、当たり前よね。
「まず、後宮は大きく3つに分かれている」
「3つに……ですか?」
「そうだ。まずはこの正妃の宮、それからあやかしの側室の宮、人間の側室の宮」
「人間とあやかしで……分かれているんですね……一緒じゃないんだ……」
「まぁ、生活スタイルも違うし、あやかしの気が強いものもいる。相性が悪ければ人間側が当てられることもある。逆に人間側が強い力を帯びていれば……あやかしにとってはうまそうに感じるんだ」
「う……うま……?」
「別に珍しい話でもないだろう?現し世でもそう言う昔話を聞かないか?あやかしが、人間を食べてしまったとか、このままでは食べられてしまうとか」
「た……確かに……!は……、私、食われる……!?食われるんですか!?シロハンキさまぁぁぁぁっ!!」
ついついシロハンキさまに抱きつけば、その絹のすれる音が……美しい……っ。く……っ。私のセーラー服とはわけが違う高級感!さすがは……寝ドコ付きの料亭のヌシ……!
「いやおい……お前、俺は対象外なのか……?」
「え?」
対象外って……?
「今は安易にそんなことをするあやかしはいないよ。退魔師どもが目を光らせているからな」
あぁ……特に
本家の他にも、分家も大量にあるし、毎年霊力の強い子を養子養女に迎えているらしい。
まぁその子たちにとっては……親元から離されるけれど、それでも大きな退魔師の家に守られていた方が幸せ……と言うのが矢神楽たちの見解。彼らは現し世で人間をあやかしから守る。けれど、持たぬひとから見れば、摩訶不思議な力を操る【違う】存在だからと。
どちらが【持つ】人間にとって幸いなのかは、本人にしか分からない。
少なくとも【持たざる】人間だった私にあそこは……好きではない場所だった。
霊力がなかったお母さんは【持たざる】人間だった。そして矢神楽を追い出される形で出たのよね……。
けど、私はお母さんと幸せに暮らしていた。
たとえお父さんとお兄ちゃんがいなくなったアパートでも。母娘、2人で……。
「ま、人知れず隔り世に紛れ込んだ場合は……人間を食う恐~~いあやかしが、食いにくるかもな」
にこっ。
ひぇっ。
お母さんとの懐かしい思い出に浸っていたら、いきなりのそれかよ。
「まさか……ここにも……っ!?」
「それはない。この後宮は、全体が
クスリと微笑むシロハンキさまは美しいけど……なんだかゾクリと来てしまった。す……すりりーんぐっ!!でもそんなところも惹かれてしまうかも……。
「お前はもう少し警戒心というものを持て」
「え?」
けいかい……しん?今はシロハンキさまと一緒だから安心では……?
「そうだ。ところでシロハンキさま。後宮には今どのくらいの側室がいるんですか?」
側仕えとなる身の上としては、そこら辺のことも知っておきたいところ!
「ん?あぁ……それなんだが……今はひとりもいないんたま」
「……え、やっぱり正妃溺愛びー……」
「だからそれはチガウッ!!俺が正妃にされたのは……あのクソ鬼の……いたずらだ」
いきなりガンッと柱に頭突きしたシロハンキさまに、思わず周りの側仕えたちもびびっちゃってるよ~~っ!
「い……いたずらで、なれるものなんですか……?」
恐る恐る問うてみると、シロハンキさまがゆっくりと頭を上げる。
「なれんだろうな。道徳倫理的に。やろうとする王すら、いなかっただろう。だからそれが規制されることもなかった」
まぁ、普通そうだろうな……王さまがいたずらでって……。
「それに……あやかしらしいと当時判断された……あと、漆がなかなか妃を迎えないからと……。迎えるだけましだからとあんの長老どもめえぇぇっ!俺はそもそも男だろーがっ!!後宮の意味分かってんのかあぁぁぁっ!!」
シロハンキさまの怨み甚だしいのだけど……!?
「えと、その長老ってのは……」
「王でも無視できない隔り世の重鎮のタヌキジジイどもだ」
「タヌキさんのあやかしなんですか?たぬたん、たぬたん!」
もこもこたぬたん!ふゆもこエゾたぬたん!
「すまん、言い方が悪かった。タヌキのあやかではない」
「……っ!!?」
たぬたんじゃ……なかった……。
ふゆもこエゾたぬたんの夢は……。
「まぁ気にするな。そうそう会うことはねぇよ」
「そうなんだ……たぬたん……エゾたぬたん」
「だからたぬたんじゃねぇっ!!エゾたぬたんでもねぇから!!」
「あ、そうでした……!」
つい……たぬたんに流されてしまった……!
だって……みんな知ってる……!?たぬたんの中でもふゆもこエゾたぬたんは……冬毛が生え揃うとマジでもっこもこなのぉっ!歩くだけでも、もこもこ……素晴らしすぎるもこもこ。
ついついその魅力に流されてしまうとは……。
「これもあやかしの、エゾたぬたんあやかしかの、妖力……っ」
「ぜってー違うから、それ」
「まぁ私能無しなので妖力とかも分からないんですけどね!」
そこはもう開き直るしかないのである。
「お前が能無しね……そう判断した矢神楽も理解できんが……」
ふぇ……?それってどういう……?
「妖力を判別できるのが、退魔師だとすれば。その妖力の恐ろしさを本能で察知できるのがただびとだ。今じゃぁそう言う人間も減ったが……それでも年が若いほど……子どもほどその本能は強いもんだ」
「そう言う……ものなんですか」
「ま、そう言う面ではお前は……能無しと言うより、鈍感だな」
「ど、鈍感……っ!?キレのあるボケツッコミなら任せてくださって構いませんが……!」
シロハンキさまとのボケツッコミも、なかなかさまになっていると自負し始めていたのですが……まさか……足りないとか……!?
「そう言う意味の鈍感じゃねぇわっ!そのボケツッコミのリズムは認めてやるが、そっちじゃねぇっ!!……俺が言いたいのは……お前、漆の前で普通に……平然としてただろう」
わーい、認めてもらえたー。私のボケツッコミ~~!えへえへ。何だかシロハンキしまとはイキが合う気がするのだ。本当に……今日初めて出会ったとは思えない、不思議な感覚。
……とは言え……。
「漆の前で……って。平然……あ、もう少し王さまとして崇めた方が良かったとか……?」
私、妖怪物でよく見るような、高位あやかしさまははーっ、とかやってない!!
まさか……それをしてなかったから……不敬だったのか……っ!?
「お前が何を想像してるのかは置いておいて。王は崇めるもんとちゃうぞ。崇めるのは神さまの方だ。とは言えあいつも……キシン……だが。でも普通、漆の前に立てば、あやかしでも退魔師でも……ただびとでさえ、その妖気に震え、畏れるものだ」
「妖気……つまりは妖力の雰囲気みたいなものですよね。あの、技は放ってないけれど滲み出る波動オーラーみたいな……?」
キシン……?って何だったかしら。ひどくオタク心を揺さぶる予感を感じさせる中二感……!
とは言え妖気と言えば……多分それよね!
「お前のあやかし関連認識がだいぶおかしい。やっぱり矢神楽は何を教えてきたんだ……!」
「特に、何も……?」
あの家はお母さんの実家とは言え完全にアウェイ。お母さんを能無しと追い出し、未成年だから仕方がないと私を引き取り、高校を卒業したらとっとと追い出すつもりだった家。法改正で成人は18歳になったけど、とりま高校卒業までは仕方なく置いておく方針らしかった。
「何も?」
まぁどうせ追い出す娘でしたから。能無しといびられるのは日常茶飯事。そんな中で矢神楽の連中の使い魔あやかしに虐められながら知識を得たり、矢神楽の連中の会話であやかしの王の話を耳に入れることはあったけども。
「あやかしの知識とかそう言うのは、一番はやはり漫画やアニメで養いました……!中二、……最強!!」
「一番ダメなやつだろそれ……!いや、中二を
「いいえ、妄想のものです!ここだけは……譲れません!!」
「どこにこだわってんだおめぇはっ!!」
「……中二……魂……!」
「お前もう高3だろう。そろそろ卒業しろ中二から。高3に戻ってこい」
はえ……?私が高3なこと言ったっけ……。あ、いやでも……。
「中二は永遠ですよ。永遠に……不滅……!」
「……もうどっぷりハマってんじゃねぇか」
「孤独と言うものを埋めるには……中二の痛さが……心地いいの……」
「……」
「中二、最強!」
「いや、ここで最強なのは漆だ。クロキシンだ。頭の中の辞書に書いておけ」
「イエッサ!オタクの辞書は、常に更新必須!!あ……ところでそう言えば」
唐突に思い出した!
「今度はどうした、急に」
「私、能無しではあるけれど、不思議な体験をしたことがあって……」
「ふぅん?」
「矢神楽なのに能無しだからって、恐いあやかしに狙われたことがあるんです。助けを求めても誰も……助けてはくれなかったけど。おまじないをもらったことがあるんですよ。それから、そのあやかしが来なくなって」
昔右手のひらの甲にもらった、不思議なおまじない。今はもう見えないけれど、当時は白く光り輝いて……恐いあやかしを追い払ってくれた。
あれ、そう言えば。テンパっていて考えていなかったけれど、隔り世に投げ込まれた時も、右手の甲が光ってたような……。
そのおまじないのお陰で、私はシロハンキさまに助けてもらえたってことなんだろうか。
「ふぅん」
しかしシロハンキさまはあまり興味なさそうにそっぽを向く。結構不思議な体験談で、盛り上がるかと思ったのだけど……隔り世では違うのか……。
ふむ……。いや、待って。これは、あれか。ボケろと言うことか。そう言うことだな。
「み、右手の甲が
「中二やめ――――――――ぃっ!!」
ほぅらツッコんだ~~。
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