あやかし後宮の新米側室。
瓊紗
第1話 あやかし後宮
「え……ウソでしょ……!?そんなまさかの……BL!!」
「いや、ちゃうわあぁぁぁぁっ!!!何でやねえぇぇぇんっ!!」
※NLです。
いや、だって。だってだよ。
「で……でも、シロハンキさま。シロハンキさまは男。そしてハーレムの
※BLは来ません。君この小説のヒロインやで、しっかりして。
し……しっかりしますぅ……。でも……でもねぇ……。目の前にいらっしゃるお方・シロハンキさまは、私と同じ色素の薄い茶髪の御仁。
瞳孔が縦長の金色の瞳は明らかに人間ではないものを示していそうだが、私の瞳も金が混じっている薄茶なので、ちょっと親近感が沸いてしまう。
そんなシロハンキさまは私の命の恩人にして、あやかしの王(♂)の正妃であることが明らかになったのだ。しかも……シロハンキさまも、♂……!
「それはそうだが、事実だが!あとハーレムじゃなくて後宮な!言い方……!呼び方……!そしてBLは断じてない!!」
そ……そうなの……?
この隔り世に投げ込まれた私は、あれよかれよと
そして行く宛のない私は、シロハンキさまに連れられてあやかしの王の後宮と言う場所に連れられてきたのだ。
噂には聞いていたけど、本当にいた。
隔り世の、あやかしの王。
そして王と言えばハーレム!後宮!むしろ、大奥……?まぁ一応後宮と呼ばれている。
まぁ大奥の方が日本的な気がするがいいじゃない。中国あやかしが日本に越してくることだってあることかもしれないじゃない。
そんなわけでだ。ここは後宮。王が妻たちときゃっきゃうふふする場所!
そしてそんな場所の女主人と言えば。
「で……でもシロハンキさまが正妃じゃないですかあぁぁぁぁっ!!」
こんなところにちんけな人間の小娘私が来てもいいのか迷ったけれど、シロハンキさまは自分が後宮を取りまとめる正妃だから問題ないと言ってくださった。
けど……けど、王さま♂だし、シロハンキさまも♂なんだから仕方がないじゃない――――――――っ!
妻じゃなくて、
いや、もうしてる!!
「まぁ、落ち着け、人の子」
その時、シロハンキさまと私のやり取りを見守っていた、黒い鬼角に黒髪、金眼の美しい鬼が口を開く。
「
確かに人の子ですけどー。私にだって、名前はある。
「そなたはアホなのか?あやかしの王の前で堂々と本名を名乗るものがあるか」
ドテッ。あ、アホって……アホって……いくらなんでもいきなりひどくない!?あなたは鬼か!いやうん、鬼だったわね!!
うぐぅ……でもここは見ず知らずの隔り世。現し世にはないルールやしきたりががあるのかも。
「だ……ダメ……でしたか?あぁー……あやかし界では王に対して不敬になるとかそう言うやつですか?そゆやつですよね……!よくありますもんね、そう言うの!よく分かりました!オタクは順応が早いのが特色なんで!」
日々進化し分岐するオタク道、だてに走っているわけではない。
だからそうそう、きっとそう!よくあることなのだ、きっと!
「いや、全く分かってないぞ、お前」
「どうしてですか!?シロハンキさま!?」
まさかのシロハンキしまにまでツッコまれるぅ――――――。でも何か好きです……そのツッコミ感……!何でか分からないけど、ちょっと懐かしい感じがするのだ。
「お前は……。矢神楽の姓を持ちながら何も分かっていないのか」
矢神楽の姓……か。
矢神楽は隔り世とも関係が深い……と言うか時にあやかしと対峙することもある、退魔師の家系だ。現し世では退魔師として
そんな矢神楽家で。
お母さんがお星さまになった後、私はお母さんと暮らしたアパートを出ざるを得なかった。
お母さんは身体が弱く、パートをしながらも必死で私を育ててくれた。
けど、当時中学生だった私には、思い出のアパートに住み続けることを世間は許さず、保護者が必要だった。
それで、お母さんの実家の矢神楽家に引き取られた。矢神楽としては、引き取りたくもなかったのだろうけど……それでもあの家は……隔り世やあやかしと交流があったとしても、現し世に生きる以上は、日本の法律や世間体を守らなくてはならない。
そして引き取られてから今の今まで何度も言われてきた。
矢神楽なのに、無能。
お母さんもそうだった。そして病弱で、役にたたなかったから、成人したと同時に矢神楽から追い出されたのだと。
私もきっと、高校を卒業したらそうなるのだとは思っていた。
結局はその前に隔り世に投げ捨てられ、今ここにいるわけだが。
時には父親がどこの馬の骨とも知らぬ、浮浪者だからとも言われたっけ。
記憶の端にある、お父さんの記憶。何故お父さんは、私とお母さんを残して……。
それに……お兄ちゃんも……確かいたのだ。
両親が離婚して、私たち兄妹も離れは離れになったのだろうか。
それでも、お母さんがお星さまになって、お父さんを頼ることも、居場所も分からなかったのは……どうして。
お父さんは私を……いらないと思っていたのかな……。
ううん、そんなこと、考えちゃダメだ。どんどんとマイナス思考になっていく。
それに……毎月、お母さんのために仕送りがあったのだ。それは、お母さんが亡くなったあとは、お母さんが用意してくれていた……私の口座に……。
もう顔も思い出せない、お兄ちゃんか……それとも……。
希望は……あるのだ。世の中お金ってわけではないけれど、振り込まれるそのおこづかいに、まだ私にも現し世に頼れるひとがいるのだと言う希望になった……。
どこにいるかも分からない、けどね……。
だから……まだ私はあの家でも生きてこられた。
そして言われ慣れてしまった……はずなんだけどな。そう言うことは。この見た目も散々言われてきた。不良扱いされたり、見た目で弄られたり虐められたり。
だから、中学まで知りもしなかった矢神楽の実家のことなんて、言われたところでどうもしない。――――――しないんだ。
それでもその言葉を聞くたびに、私は臆病になる。
臆病になったら……お母さんに申し訳ないような……そんな気がしてしまう。
だから……だから……せめて。
「……私は、その、能無しだったので」
だからなんだと、言ってやる。
「能無し?お前がか?」
一瞬、返って来た言葉に固まってしまった。
その言葉はあまりにも予想外だったから。それに……。
どうして。どうしてそんな意外そうな顔をするのだろう……?
「まぁ、よい。そなたは隔り世初心者と言うことにしておこうか」
「あ……ありがとうございます……?」
今までのような悪意の感じない、鬼の笑みに拍子抜けしてしまう。
「いや、隔り世で世間知らずは狙われやすいから、あまり有り難がられても困るのだが」
「そこはいい。俺が引き取ればいいだろう?隔り世のことも教えてやる。側仕えくらいにしておけばいい」
「シロハンキさま……!」
やはりこの方は……いいお方だ……!見ず知らずの私を助けてくれて、現し世にも隔り世にも行く宛もない私の面倒を見てくれるだなんてえぇ。それに、やっぱり、シロハンキさまのそばは……温かくて、懐かしい匂いがする。
本当に……。私、シロハンキさまに出会えなければ今どうなっていたことか。
「ふぅん?お前はそのつもりなのか?そうかそうか」
そしてシロハンキさまの言葉に、あやかしの王さまは何か考えるような素振りを見せる。
「何だよ。何か文句あるのか」
シロハンキさまはなぜかメンチ切ってるけどー。
「ふむ……?まぁ良い。それで。琳」
「は、はい……!」
何故だろう。この鬼に名前を呼ばれると背筋がピンと伸びるような不思議な感覚がする。
「隔り世では、
「か……
「そう。本来の名を隠す……お面のようなもので、肩書きのようなものでもあるが……そこら辺は奥が深いからな。まぁおいおい説明するとして。この隔り世で本名を呼ぶことは、強いものから呼ぶと、相手を縛り、弱きものから呼ぶと、その力の差に押し潰されるような感覚に陥ると言う。だからこそ、強きものは弱きものとも会話ができるよう、このお面のかわり……
「へぇ……あやかしって結構不思議なところがあるよね。存在そのものもだけど」
「ふふ……、まぁ、そうかもな。だが我らにとっては、人間もだぞ?」
「……真理……!!」
確かにそうだわ……!
オタクには分かる……!
「まぁそんなわけで琳」
「は、はい!」
「むやみに名を出すな。ここでは面を纏え。プライベートでならいくらでも、呼んでもいいがな」
「プライベート……?」
「私のことは、
「う……漆?」
頭の中に、文字までもがすぅっと入ってくる不思議な感覚……。
「おい、漆」
シロハンキさまも漆の本名を知ってるのね。なんだか不満げだけど……。あ……びー……。
「それは違うから!!」
「何で分かったんですかシロハンキさま!」
「ぶぶ……っ、はははははっ!!!」
と、ここで漆が爆笑した……?なぜ……?
「そうだな。それも面白いが」
「どこがだ、殴ったろーかっ!?」
シロハンキさまものっそい形相なんだけども。鬼よりも
「我が
「何かカッコいいわね」
「ありがとう。外ではクロキシンでいい」
「分かった。クロキシン……クロキシンね。あ、そうだ。私も
「そうさな……そうだ。ヤヤにしよう」
えらく速攻で決まったな、オイ。いやまぁありがたいことだけど。
「いや、おい、漆」
シロハンキさまはそう言うが。
「何かかわいい!それにするわ!」
「いや、その、琳。意味分かってんのか?」
「……え?」
ヤヤって……何か意味があるのかな……?かわいいと思うのだけど。そう言えばシロハンキさまも私のことはプライベートでは琳って呼んでくれるのね!何だか嬉しいかも……!
うーん、やっぱりどこか懐かしいような気がしてしまうのよね、シロハンキさま。あの、お母さんと暮らしたアパートは……かつては4人で暮らしていたのだ。だからね、何か、シロハンキさまがお兄ちゃんみたいって感じる……。私、昔はお兄ちゃんがいたから。幼い頃の話だから、もうだいぶおぼろげではあるけれど。夕焼けの差し込む部屋で、あのアパートで、暮らした……。
そんなことを思い出していれば。
「ヤヤってのは……赤ん坊って意味だ」
「え゛」
あ、赤ちゃんんんんっ!?シロハンキさまから衝撃の解説を受けてしまったあぁぁぁぁ――――――。
「隔り世初心者の琳にはピッタリの名だな」
「ちょ……っ、隔り世マイスターになったら、ちゃんと昇格できるんでしょうね!?」
「名は体を表す。それは
「いや、どーやってなるのよ女神って無理じゃない――――――――っ!あとアップデートするもんとちがう――――――――っ!!!」
私の叫びは……現し世の懐かしい夕焼けとは異なる隔り世の夕焼け空に……虚しく消えていった……。
ここは隔り世。あやかしの王の後宮。
王の漆にもらった
あうぅ……本当に、どうしてこんなことに……。
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