6 日々

その日を境に、僕たちは2人で一緒にいることが多くなった。

家はお互いに反対方向だったし、僕は空手部、蔵田くんはバスケ部に入っていたから、さすがに登下校までは一緒じゃなかった。

でも、移動教室は一緒に移動していたし、お弁当はいつも屋上に向かう途中の階段で一緒に食べていた。

蔵田くんは相変わらず授業は面倒くさそうに受けていたけど、一応真面目に受けているのか意外に成績は優秀で、テスト前には僕の家に集まってテスト勉強をすることもあった。


一緒に過ごすようになって分かったのは、蔵田くんはかなり面倒見がよくて優しいこと。

毎日のように喧嘩してくるし、喧嘩を売られたらすぐキレてしまうのは変わらないけど、バスケ部に入っているくらいだし、チームワークも大事にできる人なんだということも分かった。

1年生の時に毎日地獄のようないじめの日々を送ってきた僕にとっては、蔵田くんと過ごす毎日はとても楽しくて、やっと生活の中に光を見つけられた日々だった。


それに、蔵田くんと一緒にいるようになってから、僕が直接的ないじめを受けることはなくなった。

もしかしたら蔵田くんがクラスメイトに何か釘を刺したのかもしれないし、ただクラスメイトが飽きてしまっただけかもしれないけど、明確な敵意を向けられなくなってからは随分と学校生活を穏やかに過ごすことができるようになった気がする。

まだたまに男子がからかってくるときはあるけど、その度に蔵田くんが怒ってくれて味方になってくれるのでとても心強かったし、蔵田くんを敵に回すくらいなら、と、クラスメイト達は手を引くことにしたみたいだった。


そんな日々を過ごし、夏休み明けの課題テスト前のこと。

テスト期間で部活が無いから、一緒に僕の家で勉強をすることにした。

すると、


「お、カズ!」


後ろから聞きなれない声が誰かを呼んだと思ったら、蔵田くんは何の違和感もないような素振りで振り返った。


「兄貴、なにやってんだよこんなところで」

「それはこっちのセリフ。俺は学校の帰りに買い物に行こうと思ってさ。お前が誰かと一緒に居るなんて珍しいな。同じ中学の友達?」

「そうだよ」


その人に訊かれて、蔵田くんが即答で友達だと答えてくれるのが嬉しい。

藍良歩です、と頭を下げれば、優しく笑って顔を覗き込まれた。


「可愛いなー、ツンケンしてるカズとは大違いだ。カズの兄貴でーす。よろしくね」

「蔵田くんのお兄さん!?」

「…そう。高校生」


横から補足を入れてくれる蔵田君は、何だか居心地が悪そうにそわそわしていた。


「2人とも今から帰り?カズはまた喧嘩じゃないだろうな」

「…違うよ。歩の家でテスト勉強する」

「はー!1年の時あんだけ荒れてたカズにそんな友達ができるとはねえ」

「うるせー」


蔵田くんは本当に嫌そうにしながら、お兄さんを追い払ってしまった。

でもきっと僕の前だからそうしているだけで、本当は仲が良いんだろうなということは雰囲気で分かる。

またうちにも遊びにおいで、とお兄さんは優しく笑って、勉強頑張れよと言って帰って行ってしまう。


「お兄さんか…いいなぁ、僕一人っ子だから羨ましいや」

「そうか?弟も含めて喧嘩ばっかしてるけどな」


蔵田くんはそう言うけれど、顔はそこまで嫌じゃなさそうだった。


「ねぇ、僕もカズって呼んでいい?」

「…いいけど」

「やった!お兄さんの呼び方良いなって思ったんだ。蔵田くんって何か距離あったしさ」

「…そうかな。俺はどっちでもいいけど」


僕がカズって呼ぶと少し嬉しそうに目を細めるから、嫌なわけじゃないんだって分かる。

呼び方を変えたことで、もっと距離が縮まったような、そんな気がしていた。

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