7 未来

蔵田くんのことをカズと呼ぶようになって、彼とまた少し距離が近づいて、自分にも少しずつ自信を持てるようになった頃、僕は自分のことを「俺」と言うようになった。


カズとは3年になっても同じクラスで、ずっと一緒に過ごす一番の親友だった。

高校受験はどこにするかという話になった時、もしかしたらここでお別れなんじゃないかと少し寂しくなってしまったこともある。

でも、蓋を開けてみれば同じ高校が第一志望なのだと分かって、部活を引退してからは毎日一緒に受験勉強に明け暮れていた。

実は2人とも受験動機は同じで、「中学の同級生がほとんど受験しないから」というのが本音だったのだけど、第一志望は少しレベルの高い高校だったから、必死で勉強していたのを覚えている。

高校入試の合格発表で2人とも番号を見つけた時には、2人で抱き合って喜んだりもして…その頃の俺達は誰よりもずっと青春してたのかもしれない。


高校に入学してもなぜかカズとは3年間ずっと同じクラス。

お互いに部活の仲間はいたけど、やっぱり2人で一緒に過ごすことの方が多かった。

カズは相変わらず人づきあいが下手で喧嘩ばかりしていたし、隠れて煙草まで吸いだしたからどうなることかと思ったけど、高校の3年間でいくらか丸くなったと思う。

俺はずっと自分のパーソナリティと向き合い続けて、きっとどっちも好きになれるバイセクシャルか、男性寄りのゲイってやつなんだって分かったけど、カミングアウトする人は慎重に選ぶことで、傍から見れば普通の高校生活を送ることができていた。


そして3年後、学科は違えど大学も一緒だった俺達だったのだけど、大学1年生の夏頃、カズから進路について相談を受けた。


「…編入試験?」

「ああ。今の大学も悪くはないけど、来年、第一志望だった大学の編入試験を受けようと思ってる」

「そっかー…じゃあカズとはもう一緒にいられなくなっちゃうのかな」


2人の間に流れる少しの沈黙。

中学の苦しい時期からずっと2人でいた俺達だからこそ、離れてしまうのはとても悲しくて、何だか現実味が湧いてこなかった。


「学科は同じなんだよね?」

「…そう」

「…俺もしよっかな、編入」

「はぁっ!?」


俺の呟きに、さすがのカズも焦りの表情に変わった。


「簡単に言うけど、編入枠なんてそんなにたくさんあるもんじゃない。それに、この大学で2年まで単位取ったとしても、編入先との兼ね合いで1学年下げられるって話を聞いてる。歩にそんなことまでさせられない」

「うーん…でも、俺も第一志望だったんだよね、そこ。入試の時は学力が足りなかったけどさ」

「それはそうだけど…」


楽天的な俺の言葉にも、カズは厳しい表情を崩さなかった。


「編入枠って何枠あるの?」

「法文学部の法経済学科は2枠だって聞いてる。俺の受ける法学科と、歩が受けられる経済学科で、1枠ずつだ」

「じゃあ、一緒に受けて勝ち取っちゃおうよ、2人で」

「…本気か?」


俺を見つめるグレーの瞳が不安げに揺れた。

長年一緒に過ごしてきて、カズがそんな顔をするときは俺のことを心から心配してくれているときだと分かっていた。

でも、俺にとってもこれはチャンスじゃないかと思っていたんだ。


「やって無理なら潔く諦める。でも、第一志望だった大学に行けるチャンスじゃん」

「…それは、そうだけど」

「頑張ってみようよ、自分達の夢のためにさ」


こうして俺達はお互いの両親を説得し、編入試験を受ける方向で話を進めていった。

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