4 保健室
腕を掴まれたまま、蔵田くんに引っ張られて廊下を歩いた。
でも無理矢理引き摺られてるような感じはしなくて、ちゃんと歩く歩幅を合わせて、時々頭を打った僕を気遣うように視線を向けてくれているのが分かる。
やっぱり、関われば関わるほど、蔵田くんは怖いだけの人じゃ無さそうだと思えてくる。
勢い良く保健室の扉を開ける彼に、養護の香苗先生は驚いたように振り返った。
「あら蔵田くん、まーた喧嘩したの?」
「今日は俺じゃない。コイツ」
蔵田くんにぐいっと前に引っ張られて、僕は椅子に座らされた。
「藍良くん?何で?珍しいじゃない」
「俺がクラスの奴殴ろうとして、こいつに止められて吹っ飛ばした」
「はあ!?あんた巻き込んだの!?」
「うるせ。こいつが勝手に止めてきたんだよ」
「あんたねえ…」
「机で頭打ってるからちゃんと見てやって」
先生の質問にぽつりぽつりと答える蔵田くんをぼーっと見ていたら、いつの間にか僕の頭には氷が当てられていた。
「うーん、少したんこぶができてるみたいだけど、冷やしておけば大丈夫かな。もし気分が悪くなったとか、何か体調に異変があったら我慢せずに言いに来てね」
「…はい」
「蔵田くんの喧嘩に頭突っ込むなんて、藍良くんも無茶したねぇ。痛かったでしょ?」
「え、あ…えっと…大丈夫、です」
「蔵田くんも悪い奴じゃ無いんだけどねぇ、キレると周りが見えなくなる事があるから。ゴメンね。ほら、あんたもちゃんと謝んなさい」
先生に引っ張られて、蔵田くんはバツの悪そうな顔をしている。
でもじっと僕の頭に当てられた氷を見つめて、申し訳なさそうに目を伏せた。
「……悪かった。お前を巻き込むつもりは無かったんだ」
「ううん、大丈夫だよ。変な話に巻き込んじゃって、僕の方こそごめんね」
先生は僕たちのやり取りをにこにこと見守った後、蔵田くんの口の端の怪我を見つけて不思議そうに首を傾げた。
「この口の絆創膏どうしたの。昨日は怪我してなかったし、自分じゃ手当てなんかしないでしょ」
「今日喧嘩してきて、コイツが貼ってくれた」
「そう、良かったね。藍良くんもありがとね」
「あ、いえ…」
それから少しだけ先生と世間話をして時間を過ごした。
ふと時計を見た先生は、「そろそろホームルームが始まる時間よ」と僕たちに教えてくれたけど、蔵田くんはとても嫌そうに顔を歪めた。
「…ホームルームとかめんどくせー」
「今日は最初のホームルームなんだからちゃんと出ときなさい。藍良くんはどうする?」
「痛みがひどいわけではないので大丈夫です、行ってきます」
「うん。じゃあ2人で行っておいで」
「はい」
「…はぁ」
蔵田くんはすごく嫌そうに立ち上がったけど、先生が「いつでも保健室に来てもいいから」と言ってくれて少しやる気が出たみたいだった。
保健室を出て、2人で教室までの道を歩く。
「もう大丈夫なのか」
「うん、大丈夫。もうほとんど痛くないよ」
「…そっか、良かった」
「蔵田くん、保健室よく行くの?先生と結構話すみたいだったから」
「…喧嘩して怪我して学校に来ることが多いから、その度に世話になってたら自然と」
「そうだったんだ」
教室に近づくにつれて、少しずつ緊張が高まってくる。
あれだけの騒動を起こして教室を出てきてしまったし、周りの友達にどう思われているのかも分からない。
もしかしたら蔵田くんがもっと悪者にされているんじゃないか…と心配になってきた。
「…さっきのことは気にしなくていいから」
「え?」
「俺が勝手にキレただけだし。お前は堂々としてればいい」
「…うん、ありがとう」
正直なところ教室に戻ることは怖くて仕方がなかったけど、蔵田くんが一緒に教室に入ってくれたから少しだけ安心できた。
僕達が教室に入った時に教室がざわついて、やっぱりみんなには嫌な印象を与えてしまったかなと思ってしまったけど、もう1年生の時に広まった噂は消せないものなんだって分かったから、これからも目立たないように過ごすしかないなと思ったんだ。
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