3 出逢い
2年生の始業式の日。
僕にとっては待ちに待ったクラス替えの日だった。
クラス替えがあったからといって僕に対するいじめがなくなるとは思えない。
でも、やっぱり好きになった人から向けられる冷たい視線は僕にとっても辛いものがあったから、拓海とクラスが離れられたのは、僕にとっては好機だった。
席についてホームルームが始まるのを待っていると、後ろの扉が開いてクラスの子達がざわめいたのが分かった。
振り返ると、制服を着崩した背の高い男の子が入ってきて、周りの生徒達が怖がるようにさっと道を開けるのが分かった。
…蔵田くんだ。元1年4組の、うちでも有名な不良だった。
背が高くて、目つきが怖くて、学校の外では色んな中学の人たちと喧嘩してるって噂を聞く。
今朝も学校に来る前に喧嘩をしてきたばかりなのか、唇の右端が切れて血が出ていた。
蔵田くんは教室を見回した後、真っ直ぐ僕の横へと歩いてきて隣の席に座った。
初日から隣の席だなんてやっぱり怖いけど、口の怪我は痛そう。
「あ…あの」
「何」
声を掛ければちらりと目だけでこちらを見た。
グレーの眼が綺麗で格好良いけど、やっぱり睨まれてるみたいで怖い。
「口の、怪我…」
「放っときゃ治る」
「でも、痛そうだから、これ」
鞄の中に入れていた絆創膏を差し出す。
蔵田くんは驚いたように少し目を見開いたけど受け取ってはくれなくて、嫌がらないかドキドキしながら、剥離紙を剥がして怪我した所に貼った。
僕がそんな事をするとは思っていなかったみたいで、彼は指で貼られた絆創膏に触れる。
「悪いな」
「う、うん。どういたしまして」
きっと今のはお礼…少し目を細めたのは、笑ってくれたってことで良いんだろうか。
蔵田くんって怖いだけの人じゃ無いのかも。
そう思って笑い返したら、後ろから元クラスメイトの男子の声がした。
「お~、藍良が蔵田に手出してんぞ。クラス替えがあって早速目つけたってか?」
「蔵田気を付けろよー。そいつホモだぜ、案外お前のケツ狙ってんじゃねぇの?」
ぎゃはは、とふざけて笑う男子たち、ざわつく新しいクラスメイトたち。
また噂はすぐに広がって、2年生でも同じようないじめが続くんだ。
きっとたくさんの人に軽蔑されて、1人ぼっちで過ごすんだ。
そう思ったら、身体が固まって動けなくなった。
僕が関わったせいで、蔵田くんまで巻き込まれてごめん。
そう言おうと固くなった身体を無理矢理動かそうとしたとき、ガンッ!と机の大きな音が響いた。
驚いて見れば蔵田くんが机を蹴り倒した音で、右脚をそのまま組んで、首だけ男子たちの方を振り返る。
「クソくっだらねぇ、ガキかよ。いじめってやつ?ダッセ」
「何だよお前、藍良の味方かよ!蔵田…お前もホモなんじゃねぇの?」
「あ゛ぁ?」
ふらりと立ち上がった蔵田くんが、ゆっくりと男子の方に近付いていく。
そのまま流れるような動きで拳が彼の顔に振り下ろされて、蔵田くんを馬鹿にするように笑っていた男子が教室の端まで吹っ飛んだ。
ざわめきと悲鳴が、一気に教室に広がっていく。
蔵田くんはさっと姿勢を整えた後、床に転がった男子の方へと歩いていった。
「蔵田くん、駄目だよッ!」
もう一度振り下ろされそうになった腕に、思わずしがみついて僕が吹っ飛ばされた。
机でぶつけた頭が痛むし、さっきよりも冷たい目が僕を見下ろすけど、こんな僕の為に巻き込まれて、暴力を振るう彼なんて見ていられなかった。
「お前...」
「蔵田くん、もういいから、やめて。巻き込んでごめんね。皆、蔵田くんは関係無いから。全部僕が自分でしたことだから、ごめんなさい。もう蔵田くんの事を悪く言うのはやめて下さい」
ジンジンと痛む頭を抑えて立ち上がり、見ている人たちに頭を下げる。
そのまま教室には居たくなくて、ぶつけた頭も痛いし保健室に行こうと教室を出た。
「チッ……おい、来い」
「え!?どこに行くの!?」
「保健室」
追い掛けてきた蔵田くんに腕を引かれて連れて行かれる。
その大きい後ろ姿が仲が良かったころの拓海と重なって、胸の奥がジンとなった。
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